休日はカフェに行きたい、の4。
前回より一月以上空いてしまった…。ティーバックで淹れてくれるカフェには行ったけど、葉っぱで、にはようやく行けた。
夜にはバーにもなる、紅茶屋さん。カフェやら珈琲かな、とかいいつつ紅茶ばかりなのは冷え症だからである。
シャリマティーとスコーンのセット。
シャリマティーのオレンジは先入れなのは知ってた、けど、出すか出さないかで迷う。…紅茶のテキスト読んだんだけどなあ…すっかり頭から抜けてる上にカウンター席なんだよね。
…よし、好きに飲もう。
と、決めてオレンジは出した。←本当は入れたままらしい。二択に負ける。
でも結局最後はオレンジ入れずに飲んだから、私はやはりストレートがすきらしい。それかミルクティー。
スコーンは焼きたて、でブルーベリージャムとサワークリームで頂いた。プレーンとチーズ、固めのスコーンは、好みじゃなかった。とても残念な感じ。
もうちょっと焼いたらクッキーになるんじゃないだろうか。それはそれで美味しそう。
ワッフル食べたかったけど、黒糖だったから諦めた。
また行きたいなあ、と思うお店だった。ミルクティーが飲みたいです。次はアイスで。
「ほら見てごらん、曲がった」
親子連れの父親が娘に囁くのを耳にした。つられて、車両の後部に目をやると、左側にずれた客席が見えた。
トンネルの中のカーブにさしかかっているらしい。
進行方向に目を向ければ、右側にずれている。私のいる車両はちょうどクロワッサンの、中央に位置していた。
「きょろきょろすんでない。おのぼりさんってわかっちまうで。ちゃあんとお行儀よく、じぃっとしてれ」
婆ちゃんが言うから、私は両のこぶしを膝に置いてじっとしていた。正面に映る私の左側には婆ちゃんがいる。その姿はタヌキみたいだ。
「山さ追われても皮剥がれても、こないな地下深くを走る乗り物に乗れるなんて思わんかったわ」
タヌキがぴこぴこ、鼻を動かしながら言うから、私の右隣に座ったウサギが言う。
「火事になっちゃえ」
真っ赤でまん丸な目をぱちくりさせた、そのあまりにも可愛らしさに、キツネがきしし、と笑いながら通りすぎた。
「全部燃えちゃえ」
ウサギはぼそぼそ可愛いことを言う。 いつの間にかタヌキがつり革に捕まってぷらぷら揺れている。
私はポケットを探って、あめ玉を一個、ウサギにあげた。ウサギは長い耳をあめ玉に寄せて、美味しそうな音がする、と言った。
ぷらぷら揺れているタヌキがうらやましげに見ていたので、タヌキにもあめ玉を差し出したら、戻ってきたキツネがひょいと、掴んで立ち去った。
あ、と思っているうちにつり革にぶら下がったタヌキが大きく振れる。金属音がして、カタン、と速度が落ちる。
「ほら、真っ直ぐだ」
親子連れの父親が娘の頭を撫でながら囁くのを耳にした。正面に映る私の両隣は空席で、網棚の上に置き忘れた新聞があるだけだ。
降車駅が近づき、私は席を立つ。ポケットにあめ玉はなかったけどキャラメルを見つけたので、親子連れにあげようかと顔を上げた。
けれども私の車両は空っぽで、どこにも親子連れの姿はなかった。
(そうか、メトロだから)
死んだ婆ちゃんはよく地下鉄には気をつけろと言っていた。
地下は空間が歪みやすい。
ホームに降り、ドアが閉まるのを見送る。ぴるるるる、と発車音が響き、車両は先の見えないトンネルに吸い込まれた。
先月から何度も読み返している物語の、ずっと読めなかった部分を読んだ。
ふたりが、認めたうえで歩いていくことを決める場面で、思いっきりマイナスに落ち込むところだ。
それが過ぎると甘甘なんだけど。
可哀想とか思わない。失ったものを数えるより、今あるものを。
泣きながら壊れたものをかき集めるより、ありがとうと一言いえればいい。
タイムカプセルに書いた、今が一番楽しいはず、という言葉。過去がどんなに楽しくても、一番は今、そしてこれから。
書いた自分を誇らしく思うし、実は今でもそう信じている。
自分にはこの靭さは無理だな、とか想いながら、すっごい幸せになる。どんなときにも温かくありたい、とか、思う。
そこに達しなくても私は私なんだけど。
私は常に影響される側だけれど、いつか影響する側に立ちたい。ささやかでも、それを願う。
でも、王国には辿り着けない。
それがわかるから、ちょっぴり切ない。
不思議の国のアリス展を見てきた。
テニエル画の不機嫌なアリスが好きだ。
ディズニー版の音楽は好きだけど、キャラクターは微妙に気に入らない。
カラー絵本(英版)を買おうか迷ったけど、欲しいのはポストカードなんだよなあ、とやめた。
テニエル画のポストカードはなかったんだけど。
帽子屋がサンドウィッチを取り出すシーンが大好き。
鏡の…の女王を揺すぶって猫にしちゃうシーンも、ね。
ひょうたん池からの帰り道、久しぶりに笹山と会った。
「……」
「……」
お互いに無言のまま、私の歩幅にして約十歩の距離で立ちすくむ。笹山にとっては五、六歩の距離だろう。
くそう、長い脚しやがって、と内心毒づいていると笹山がくるりと踵を返した。
待って。
そう言うより先に体が動いた、…らしい。
気がついたら笹山にタックルをかましていたわけだ。
宮田と田間と別れて向かった先は大学近くの公園だった。神社に併設されたここに、ひょうたん池がある。笹山が産まれて拾われた場所だ。…笹山妹によれば。
ひょうたん池はちっぽけな池だ。正確にいうと池というより水溜まりに近い。いつぞやの昔はひょうたんの形をしていた池だったそうだが、今は名ばかりが残る。
ひょうたん池で拾われた。
それが真実ならなんともシビアな話だ。卵から孵って云々を無視すれば、笹山は幼少時に池に落ちたところを助けられたのだろうか。…拾われた、というならば親は迎えには来なかったのか。笹山妹もそれを見ていた、いや、落ちている笹山を見つけたのが笹山妹だったのかもしれない。
そして笹山は笹山家の養子になり、今に至る、と。
思いついた話はありふれたドラマのようだった。ドラマならきっと笹山は笹山妹に恋をし、血の繋がりがどうのと悩む。それが第一の山場で、第二の山場は実の親のご登場だ。第三の山場で想いが通じ、あれよあれよとハッピーエンド。カエル男物語完。
「…あほらし」
呟いて帰ることにした。どう考えてもカエル男には繋がりはしない。魔法使いなんて嘘っぱちだ。
だって私のは魔法なんかじゃなく。
そうしたら目の前に笹山がいた。そうしたら笹山にタックルしていた。
…どうして、こう、なるんだか。
笹山の上にのし掛かりながら立ち上がれもせず声もかけられず、目を上げた先の緑の頭を見ていた。鮮やかな緑はカエルというよりは…
「…マリモ」
「人に乗っといてそれはないでしョ」
いてて、と笹山が呻いたもんだからやっと私は起き上がることができた。立ち上がれはしなかったけど。
「ごめん、笹山」
「ったく、ラグビーすんなら草の上にしといてよ」
ジーンズ汚れちまったじゃねえか、と笹山が立ち上がる。振り向いて、座り込んだままの私に気付いた。
「…間宮?」
きょとん、と目を見開いたのは笹山だったのか私だったのか。腰でも抜けてんの、と笹山が問う。
「わかんない」
「わかんない、って…」
マリモ頭が首をかしげる。困惑を表した顔に私は泣きそうだった。
揺さぶられたりしない、と餅屋に言ったのは真実だったのだけど。