二十七、揺れて揺られて
ゆらり、蝋燭が揺れる。僕は目を閉じた。接客中にそんなことをするのは初めてだったが、僕と彼との間におかれた沈黙は、それを許した。
薄水色の夜を思い浮かべる。月明かりが満たしたあの部屋、ベッド、横たわる薄水色の客。
繋いだ手のひらの乾き、抱き締めてきた弱々しい腕、枯れ木のような首…それらが感触とともに蘇り、僕の感情を揺らした。
「…きみ、」
朱鷺色の客が低く呟き、僕ははっと目を開けた。視界が揺れ、何か温かいものが目尻を拭う。彼の指だ、と考え至るまでに時間がかかった。指先が拭ったものが、僕の涙だということには更に時間を要した。
穏やかな風が入り、張られた薄布が揺れた。あの夜は空気は動かなかった、そう思うと涙が次々に浮かんできた。
僕は声を出さずに泣いていた。息遣いだけが荒くなり、うまく呼吸ができない。しゃくりあげそうになった時、朱鷺色の客が立ち上がった。
ばさり、僕の頭に朱鷺色の客は上着をかける。ひく、っと息を飲んだ僕の腕を掴み何も言わずに出口へ向かう。
引っ張られる格好となった僕は慌てて着いていくが、視界が狭まっている上、足がもつれる。倒れる、そう思ったとき身体が浮いた。
「…わっ、」
抱えあげられた、…というより持ち上げられた僕は、腹部に圧迫を感じた。肩にかつがれ運ばれている。朱鷺色の客の上着がずり落ちそうになり、慌てて掴む。
足を踏み出されるたびに揺れる。薄水色の客とは異なる大きな揺れに、僕は思わずしがみついていた。
朱鷺色の客は何も問わず、ただ、僕は揺られている。
夜が更け、朝になるまで。
ついたち。
右足ひきずりながらがんばる。
自分って存在を見失いかける。好きなようにしたいけど、どうにもならない。
あたしはばかだ。
突然の痛みは突然やむ。前触れもなく、スコールのようだった。
(しかし本物のスコールを、私は体験していない)
よっか。
忘れ物と落とし物が多いことは自覚しているけど、どうしても直らない。理想はパーフェクトな参謀なのに←
じゅういち。
予定より5日遅れ。自分がいっぱいいっぱいだった。
じゅうよん。
財布にはっぴゃくえんしかない。これで今月乗りきれるのだろうか、と考えたが明らかに無理だ。
じゅうろく。
嫌われてもいい、贔屓されるよりは、と思っていた。そうありたかったのに、どうして間違えたのだろう。
体温が上がらない。頭痛がひどい。
じゅうなな。
幸せに浸れない。
じゅうはち。
全部をリセットして、もっかいやり直したい。でもネガティブな方向には堕ちたくないよ。