あたしは、多分法師さまが好きだ。
自覚するのが悔しいから、絶対に本人には言わない。それに、法師さまは色んな女の人に片っ端から話しかけるし。(かごめちゃんはそれをナンパって言うんだと教えてくれた)
いつも思う。あたしは法師さまのどこが好きなんだろうって。
女好きだし、初めて会った女には片っ端から子供を産んでくれなんて言うし、大人っぽく見えて、やることはスケベだし。強さは認めてる。
…けどやっぱり、法師さまはあたしなんて何とも思ってないんだろうな。
「どうしたのです、珊瑚」
「何でもないったら」
「先程からそればかりではないですか」
「ほっといて」
「…のう、かごめ。珊瑚はどうしたんじゃ?」
「私達が口出しすることじゃないから…ねぇ」
「まー、弥勒のせいじゃねーのか?あれは」
犬夜叉達は気を使ってくれて、あたしよりも少し前を歩く。
今は誰とも話なんてしたくない気分なのに、法師さまはあたしの隣を歩く。何なんだ一体。あたしに何を言ってもらいたいワケ?
あたしが、ヤキモチやいてるの見て喜んでるの?
からかってるだけなら、ほっといてよ。恋心なんてなくなってしまえば、あたしだって平静を装っていられるのに。
「珊瑚」
「……」
「珊瑚」
「……」
「…珊瑚、無視しないで下さいよ」
あたしは、法師さまにとってただの仲間としか思われてないんだろうな。だからいつもからかわれて。思わせぶりな態度を取るのは、あたしの反応を面白がってるだけなのかも。
…あたしが、意識するのがおかしいんだよね。
「珊瑚」
「……法師さまの、バカ」
「え?」
「バカだって言ったの、バカ」
「な、何です。やっと口をきいたと思えば急にバカとは!」
「ほっといてって、言ったのに…何でほっといてくれないのさ…!!」
そうやって優しい態度をとられたら、また勘違いしちゃうよ?あたし。
法師さまに、あたしだけ見ていて欲しいって。他の女なんか口説かないで欲しいって。ハッキリ言えたらどれだけいいだろう?
─そんな権利、あたしにはないから言えない。
「おまえが大切だからに決まっているでしょう」
…バカだよ、法師さま。
ずるいよ。
真っ直ぐな瞳で、そんな事言われたら嫌でも期待しちゃうじゃないか。期待して、その分落ち込んだ時はすごく辛いのを分かりきっているのに。
惹かれてしまう。
「…っ、」
「お、おい、珊瑚?」
「あーっ!弥勒さま、珊瑚ちゃんに何したのよー!?」
「泣いとるぞ…」
「い、いやこれは私にもよく分かりませ…」
「弥勒さまのせいじゃなかったら何で珊瑚ちゃんが泣くのよ!」
「弥勒、お前さぁ…少しは珊瑚の事も考えてやれよ。女に人気があるからって浮かれてんなっつの」
「おや犬夜叉、それはひがみですかな?」
「バカ言うなっ」
「そうじゃそうじゃ!犬夜叉は弥勒と違ってかごめと桔梗にしか興味ないんじゃ!」
「てめーは黙ってろ七宝!!」
「ふぎゃっ!?」
「…弥勒さま、ふざけるのもいい加減にして」
「か、かごめ様…」
あたしをぽつんと残して、法師さまはかごめちゃん達から叱咤されている。…別に法師さまだけに非がある訳じゃないと、分かってるけど。
心配そうにあたしを見つめる雲母を抱き上げた。
いつもの事だよ、大丈夫。そう口に出しても、心が晴れる事はない。
こんな恋なんて、本当はしてる場合じゃない、けど…かごめちゃんと犬夜叉を見ているとなんだか羨ましくて。あたしを立てて、守ろうとしてくれる法師さまは、やっぱり好きで。諦めることは一緒に旅をしている限り出来そうにない。
「…あの、珊瑚」
「…………なに?」
「その、仲直り、しませんか」
「…どうしてもっていうなら、いいよ」
「どうしても、です」
「‥‥うん。わかった」
──素直になるまで、時間はもう少し必要だな。
困った表情で、本当に申し訳なさそうに法師さまが言うから、それが少し可笑しくて、思わず微笑んだ。
互いに握手を交わせば、心がなんだかぽかぽかする。
だから、法師さまの顔が真っ赤になってたことなんて気が付かなかった。
「法師さま?」
「な、なん、何でもないですから…!」
「?」
「ほら、行きますよ珊瑚」
呼ばれた名前が嬉しくて。
あたしはもう一度微笑んだ。
「待ってよ、法師さま!」
end