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メモワール(りん桜)※47号ネタバレ注意


学園祭…か。
秋も深まり、校内は学園祭に向けてお祭りムードが漂う。
今日のLHRは学園祭で何をやるのか決めるらしい。正直、どうでもいい。貧乏ってどうしようもなく毎日の活力を削ぐよなと思った。




「では今年の三界祭でうちのクラスは、多数決で喫茶店をやることになりました。衣装とかどうする?意見のある人は挙手して下さーい」

「はーいっ」

「どうぞ、リカさん」

「えーっとぉ、女子はメイド服みたいに可愛いカンジがいいと思いまーす」




クラスの話し合いに参加する気は全くない。
今月の家計簿を見てオレは溜め息をついた。毎度のことながら、赤字が黒字になった試しがない。
ざわざわと楽しげな雰囲気の中、あとどれだけ生活を切りつめなきゃいけないんだと考えただけで憂鬱だ。この学園祭で稼いだ金も、クラス費になるだけだし。やる気を起こすだけムダだな。




「他に意見ありますか?」

「(真宮さんのメイド服姿…真宮さんのメイド服姿……!!)…お、俺はその案、いいと思うな」

「あ、ほんと?委員長ー、十文字くんも賛成だってー」



「ちょっとリカちゃん、メイド喫茶にでもするつもり?」

「楽しそうじゃん。ミホちゃんも可愛い格好してみたいでしょ?ね、桜ちゃんも思うよね」

「え、えー…、まあ、楽しければいいんじゃない?」

「もー、桜ちゃんまでそんなこと言うー」




リカもミホも、真宮桜も学園祭の話し合いが楽しそうだ。
顔を上げて黒板を見ると、女子は接客担当、男子は宣伝、男女合同で調理、と3つのグループに分けると書いてある。調理は面倒くさいし、宣伝なら校舎の見回りも出来るな。お祭りなんてものは、いらん霊もやってくる可能性が高いから楽な役回りにしよう。




「六道くんは客寄せ係をやるの?」

「ん…、ああ」

「そっかあ。私は接客係やることになったんだ。学園祭の準備、頑張ろうね」

「それなりにな」

「ええ?ちゃんとやろうよ、初めての学園祭なんだからっ」

「お祭り騒ぎはほぼ毎日、向こうで見てるからな」

「向こうって…。ああ、確かに賑やかでお祭りっぽいよね。露店も沢山あったし」




真宮桜は納得したように頷く。"向こう"と言っただけで話が通じるんだからおかしなものだ。
最初はあの恋未練男子を成仏させるために仕方なく連れて行った死の世界。それからなんとなく自然に霊を輪廻の輪に導く手伝いをしてもらうようになって、思いがけなく真宮桜とおばあちゃんに面識があったことを知って。
最近はもう、真宮桜と六文と一緒に行動を起こすことが多くなった。



「………」

「…?六道くん、どうかした?」

「別に…」



ぼーっと真宮桜を見ていたことに気付き、慌ててふいと目を逸らした。
話し合いは着々と進んでいるようだった。
授業終了を告げるチャイムが鳴り、今日の放課後から準備を始めると委員長が言った。もちろんオレはサボる気満々である。




「真宮さん、さっき六道なんかと何話してたの?」

「あ、翼くん」

「別に、大して面白い話じゃないぞ」

「六道には聞いてないんだが」

「……」

「あー、えっとね。多分翼くんに話しても分からないと思うな…」

「え」

「だよね、六道くん」

「まあな」




真宮桜の言葉にショックを受ける十文字。この前、遊園地に行った時と同じように少し優越感を覚えたのは言うまでもない。
十文字の悔しそうな表情を後目に、オレはいつものように百葉箱へ向かう。依頼があれば食費が浮いて助かるんだが、現実はそううまくはいかないものだ。




「りんね様!依頼はありましたかっ?」

「あったらこんなに落ち込まないだろう」

「……無かったんですね、依頼…」

「いつものことだ。どうやりくりするかでオレの人生が決まると言っても過言じゃない」

「おおっ、なんだかカッコいいですりんね様!そういえば…今度学園祭があるんですよね?今日はそちらの準備に行ったらどうですか?」

「は?」

「せっかく高校に入学したんですから、楽しめる時に楽しまないと!あ、ほら。桜さまが来ましたよ」




六文の指差す方から、真宮桜が走ってくるのが見えた。大方、クラスの奴らから呼んで来るよう頼まれたんだろう。
一体いつからここが集合場所になったんだ、ふと疑問は浮かぶものの、六文の言うことももっともだと思った。貧乏だけど、こうして高校に通えてる。死神の仕事を忘れるつもりはないが、少しは息抜きしてもいいかもしれない。




「六道くん!学園祭の準備やろーよ」

「……」

「もしかして依頼、あったの…?だったら私も手伝う」

「桜さま、心配しないで下さい。今日も百葉箱は空でしたから」

「え。そーなの?」

「余計なこと言うな六文。さっさと敷地巡回してこい」

「わかりましたっ。りんね様も依頼がない時くらい、楽しんで息抜きしなきゃダメですよーっ」




六文は子猫に化けると軽快に校門へ向かって走って行った。
ようやくうるさいのがいなくなって静かになった。やれやれと百葉箱の扉を閉める。今夜の夕飯どうしよう…。おばあちゃんに頼るのは極力避けたい。
眉間にしわを寄せて考え込むと、くいとジャージの裾を引っ張られる感覚。振り向くと真宮桜がいた。




「ねえ六道くん、教室行こうよ。みんな待ってるからさ」

「なんで、お前は…」

「?」

「…なんでもない」




─どうしていつもオレの側にいてくれるんだ?どうして、気遣ってくれるんだ?

聞いてみたいことは沢山ある。なんだか気恥ずかしくて、言えそうな予感は全くしないのだが。
校舎に向かって歩き出すと、真宮桜はきょとんとした表情でオレを見る。一瞬だけ、鼓動が速くなったような気がした。




「ちょっと…六道くん?」

「教室」

「教室?」

「…準備、するんだろ」

「う、うん。……ははっ」

「何だよ」

「なんでもない!早く行こっ」

「おっ、おい!?押すな真宮桜!」

「早く早くっ!」




真宮桜はオレの背中を押して先へ先へと急かす。その様子がやけに楽しそうだったから、学園祭も悪くないと少し、少しだけど、思った。
教室に着くと女子は既に衣装作りを、男子は看板作りを始めていた。
うちのクラスって団結力が強かったのか。



「あ、桜ちゃんおかえりー」
「簡単にだけど、試作品の衣装一着作ってみたんだ。着てみてよ!」

「え?ちょっ、リカちゃ…!?」



真宮桜はリカ達に連れられて更衣室へ。
オレは何をすべきかイマイチ分からなかったが、とりあえずさっきから感じる痛い視線を何とかしたいと思う。




「…何の用だ、十文字」

「どうしてわざわざ真宮さんがお前を迎えに行くんだ?」

「オレが知るか」

「付き合ってないんだろ!?じゃあ何故だ」

「真宮桜に聞けばいいだろ。オレは知らんと言っている」

「聞けないから聞いてるんだろ!おい六道!」


「委員長、オレは何をすればいい」
「あ、じゃあこれを運んでくれっかな。助かるよ六道」


「おいっ、人の話を聞けー!!!」




六文より十文字はうるさい。…よな。
オレは委員長に渡された角材を教室の隅に運ぶ。騒ぐ十文字はスルーしておくに限る。関わるとロクなことがなさそうだ。
教室を見渡すとみんな楽しそうな顔をして準備をしている。そうだ、学校生活ってこういうものだったな。おじいちゃんが死んで貧乏になってからようやく学校生活をしていると実感出来たような気がする。



「六道くーん、十文字くーん、見てみてっ」

「わわっ、もーミホちゃん引っ張らないでよー」



リカとミホに衣装を着せられた真宮桜は、ちょっと拗ねたような表情をする。
何故わざわざオレと十文字を呼びつけたのは知らんが、予想以上の"衣装"の出来には驚いた。ささっとこんなものを作ってしまうんだから、女ってすごい。




「どうどう?桜ちゃん可愛いでしょー」

「ま…真宮さん!とっても似合ってるよ!!」

「あ、ありがと」


「ほら、六道くんは桜ちゃん見てどう思う?」

「‥は?」



オレにも聞くのか。何と言うべきか迷いつつ、もう一度真宮桜を見た。
…かわいい、とは思う。
周りの視線が痛いのもあって、余計なことは言えないと少し冷や汗をかいた。




「あの…やっぱり変、かな?」

「いや……いいんじゃないか。それで」

「ほんと?」

「……うん」

「わかった。ありがとね、六道くん!」


「ふっ、お前はもう少し気の利いた台詞を言えないのか?」

「十文字、うるさい」

「なんだと!?」




今のオレにはあれが精一杯だ。不器用だから、うまく伝わらなかったかもしれないけど、にっこり笑った真宮桜の顔が頭から離れない。
一体なんだというんだ、最近おかしいぞ、オレ。
こんなに真宮桜を意識し始めるようになったのはこの学校に十文字が来てからだと思う。ああくそ、厄介な奴だな、この野郎。ぼーっとしてる場合じゃないってのに。




「あ、そーだ六道くん。これ、昨日お母さんと一緒に作ったんだ。良かったら六文ちゃんと一緒に食べて」

「食べ…って、まさか食い物かっ」

「うん、クロワッサンなんだけど。…依頼が無くっちゃ食費大変だろうなって思ったから」

「真宮桜…。助かった。いつも悪い」

「別にいいよ。困った時はお互い様って言うしね」




…真宮桜にとって、オレだけ、特別なんだろうか。それとも同情されてるだけなのだろうか。そんなの分からないし分かりたくもない。
ただ、こんな日が続いたらいいなと心の奥でそっと呟く。
学校が楽しいなんて思えるようになったのも、死神の仕事を頑張ろうと今まで以上に強く思えるようになったのも、きっと真宮桜のおかげだ。




「…真宮さん、優しいなあ……。しかし何故こんな六道なんかにっ」

「……」

「なんだその目はっ!お前、こんな事で勝ったと思うなよ!!ちっとも悔しくないんだからな!」



「あ、やっぱり十文字くん悔しかったんだ」
「六道くんに対してライバル心の燃やし方が異常だもんねー」
「しっ、聞こえちゃうよ」




ミホ達の会話は丸聞こえだ。そう思っても十文字の怒りは収まらないらしい。次はどんな因縁をつけられるんだか。
真宮桜をどう思っているのか聞かれても、今はわからない。うまく表現出来る言葉が見つからない。でも、少なくとも、オレの中で真宮桜は他の女子達よりは"特別"な位置にいる。その特別が、死神の仕事に関してなのかそうじゃないのかという区別はまだ難しい。




「学園祭…か」

「言っておくが六道。真宮さんと出会ったのは俺の方が先だからな」

「へえ」

「話聞けよ」

「話なんてしてる暇があるなら、学園祭の準備でもしたらどうだ」

「…お前にそんな事を言われるとは思わなかったぞ」


「六道くんの言うとーりだよ翼くん。みんなでやればすごいのが出来るかもしれないし」

「真宮さんが言うなら…」




学園祭はもうすぐ。
少しならクラスの手伝いをするのも悪くないと思えた、そんな日。






end
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