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恋と心のバランス(乱あ)


ねぇ、好きって言って?
もちろん素直になれないのは分かってる。あたしだって、言いにくい言葉、だし。
想いが伝わって欲しいんだけど、なかなか上手くいかない。




「天道あかね!ぼくは君が好きだっ!」

「あー、そうですか」

「早乙女の許婚などさっさとやめて、僕と一緒になろうではないか!」

「九能センパイ、寝言は寝てから言って下さい」




いつものように、あたしは九能センパイを一蹴する。毎度毎度、ほんと懲りないんだから。
…でも、なんで九能センパイは簡単に『好き』なんて言えるんだろう?八宝斉のおじいさんも、シャンプーや右京や小太刀も。なんで?どうして?




「ねぇゆか、さゆり、2人はどう思う?」

「「は?」」

「だっ、だからね、簡単に『好き』とか…言えるものなのかなって、思っ……て…」




2人は目を丸くしてあたしを見る。あたしの質問が意外だったのか、一拍置いてゆかとさゆりはくすくすと笑い出した。
今度はそれにあたしが目を丸くする。




「あかねったら、ほーんと可愛いんだから」

「え?」


「誰にでも素直に伝えられたらいいかもしれないけど、実際はなかなか言えないものじゃないかと思うなぁ…。ま、あかねと乱馬くんは極端だけどね」

「きょ、極端って…」

「気になるなら、乱馬くんにも聞いてみなよ?」

「なっ…ちょっとさゆり、なんで乱馬が出てくるのよ」

「なんでって…当然じゃない。ねー、ゆかっ」

「うんうん。ファイトだぞ、あかね!」


「えー!?」




全っ然答えになってないじゃないのーっっ!ゆかとさゆりも意地悪なんだから。からかわれてるのは分かってるけどね…
でも、乱馬にかぁ。聞いてみるのは参考になるかもしれないよね、今夜あたり聞いてみようっと。あたしは自分の席に戻って、午後の残りの授業を受ける。隣の席の人物は気持ちよさそうに眠っていた。




「ふぁ〜…終わった終わった。帰るか」

「あんたねー、少しは真面目に授業受けなさいよ」

「あんだよ、体育は真面目にやってるだろ」

「体育だけでしょーが」




毎日毎日、乱馬は友達に会うことと体育をやるためだけに学校に来ているんじゃないかと些か疑問に思う。だってその証拠に毎日あたしのノートを写しに来るし。それが嫌なワケじゃないけど、やっぱり素直にはなれないから。
あたしは溜め息をついてカバンを持つ。今日の帰りは本屋さんに寄って行こうかな。




「?あかね、放課後どっか行くのか?」

「うん、ちょっと寄りたい所があるの。乱馬も来る?」

「え?…うーん……今日は金もねぇからいいや。腹減ったし」

「そう…」




乱馬とあたしは学校を出て別々の道へ。なんだか1人で商店街を歩くのは久しぶりかもしれない。
本屋さんを目指して歩いていると、何人もの人に『今日は許婚クンは一緒じゃないのかい?』なんて聞かれる。そんなに一緒にいる自覚はあまりなかったけど、周りの人は見てるものなのね。
あたしはやんわり今日は乱馬と一緒じゃないことを説明して、歩みを速める。

ちりりん、



「待つだシャンプー!おらの話を聞いてくれんかっ」

「……ちょっとムース」




突然後ろから抱き付いてきたムースを顎から一発殴って引き剥がす。いっそのことコンタクトにした方が楽じゃないかと思うんだけどな。
…そうだ、この際ムースにも聞いてみよう。




「天道あかね、何もいきなり殴ることなかろう」

「自業自得でしょ。それよりムース、聞きたいことがあるんだけど」

「…聞きたいことじゃと?」

「そう。あのね、何でムースは簡単に好きって気持ち、シャンプーに伝えられるのかなって思って」

「そんなの、シャンプーが好きだからに決まっとる」

「へ」




そんなあっさりした答えが返ってくるとは思わなかった。でもムースの性格を考えたら、納得はいく。そうよね、ムースは昔からシャンプーが好きだって言ってるみたいだし、シャンプーもだけど、中国の人って愛情表現がストレートな人が多いのかしら…。
ふむ、とどこか納得はいくものの、やっぱりあたしの中では"何か"が引っかかってる。




「昔からずっと、ずっとシャンプーを好いとるが…シャンプーはおらなど見ようともせん。だから気を引くために『好き』と、ハッキリ伝えるんじゃ。どんなに冷たい目で見られようとも、シャンプーの心の中に少しでも"おら"という人間がいることが出来れば、それで良いと思っておる。今は、な」

「…すごい、ね。なんかムースがカッコ良く見えるわ」

「おらはカッコ良いんじゃっ」

「フツー自分で言う?」




ぷっ、と互いに笑う。いつもふざけてるように見えるけど、真剣に物事を考えてるなんてすごい、と。心から思った。ムースみたいな考えをすることはあたしには難しいと思うけど。
出前があるから、とムースはまた自転車を漕いで街中に消えていった。
あたしも目当ての本屋さんに着き、物語や小説のコーナーをぐるりと一周見渡した。それこそ、ファンタジーから冒険もの、もちろん恋愛ものもみんな。ふと手に取った淡い黄色の装丁の本。パラパラめくると、それはとある女の子が恋をして奮闘する物語だった。



【恋をするのは楽しいけど、気持ちを素直に伝えるのは…こわい。仲がぎこちなくなったり、今みたいに話せなくなったら、私はどうしたらいいんだろう?行動しようと思うと、決まって私の心は不安でいっぱいになる。心が重くなる。恋をするのは楽しくて、苦しいもので、こわいものだって、初めて知った。】




目に止まったその文章は、まさに今のあたしの心情そのもの。
そうだ、あたしは"こわい"んだ。乱馬に気持ちを伝えたら、ちゃんと伝わるかな、受け止めてくれるかな、拒絶されたりしないかなって。本を開いたまま、泣きそうになってしまったあたしは本を元に戻してから本屋を出た。
どうして私はムースやシャンプー達みたいに気持ちを素直に言えないのか。それは意地っ張りだからって理由もあるけど…こわいから。臆病だから。自覚したら自分がとても情けなく思えて、家への足取りが重く感じた。




「おせーよあかね」

「乱、馬」

「…どした?」

「あの、…その、」




門の前で、2人で話をすることは何度もあるのに、今は何故かうまく話せない。何て言えばいいんだろう。いくら考えても言葉が浮かばない。好きなのに、伝えたいのに、こわくて言えない。
乱馬は?乱馬は、こわいとか、思うのかな?




「早く家ん中入ろーぜ。早雲おじさんが心配してるし」

「ら、乱馬!」

「ん?」

「そ、その…っ、乱馬は、簡単に『好き』って、言える?」

「はあ?なんだよいきなり」

「う……、じゃあ、やっぱり答えなくていいわよ」

「なんじゃそら」

「そんなに深く考えないで。この話はもうおしまい!」




…そこまで言って、自己嫌悪。またあたし、こわくなって逃げた。こんなんじゃダメなのに。さっきの本を思い出して、また視界がぐにゃりと歪む。
胸が苦しい。こわい。でも…好き。すき、なの、。




「…言っとくけどなー、オレは好きとか嫌いとか、大して重要じゃねぇと思う。まあ、根本的には重要なのかもしれねぇけど。……でも、気持ちを口に出せなくても、側にいたいと思ってる、って答えじゃダメか?」

「……」

「ったく、ムースと何かあったのかと思って一瞬心配したじゃねーか」

「なんでムースが出てくるの?」

「は?おめー、本屋に行く前に話してただろ」

「…あんた、あたしの後をつけてたのね?」

「え゛、いや、その、そ、そそそんなわワケねーだろっ!オレはさっさと帰ってきて道場にいたし!」




だらだらと汗を流して乱馬はしどろもどろ言葉を紡ぐ。ウソ付くの、相変わらず下手だなぁ。乱馬らしいっちゃらしいけど。
『好き』と伝えるには、口下手だから、まだ不安で臆病な恋心を、もう少しもう少し、育てていきたい。乱馬の言葉があたしの心を軽くしてくれたのは確かだもの。

明日になったら、あの本を買いに行こうかな。伝えられないもどかしさを、どう乗り越えたのか。ヒントと勇気を貰うために。




「ねぇ、乱馬」

「なっ…なんだよ」

「明日、一緒に本屋さん行かない?」

「…そこまで言うなら、行ってやってもいいけど」

「ありがと」




まずは深呼吸してみよう。
素直になるコツなんてわからないから、これからゆっくり探していけばいいよね。






end!
謝謝企画・グラポウさまへ!

繰り返す非日常的日々(乱あ)


乱馬がやって来てから毎日騒がしくってしょうがない。
乱馬に出逢う前が決して騒がしくなかったワケではないけど(毎朝グラウンドで男子と戦ったりしてたし)、なんていうか、あの頃のあたしにはそれが日常で、平和だなぁって思ってた。
今ではシャンプー、小太刀、右京が学校で乱馬に絡むのも、ムースや良牙くん、九能先輩が乱馬に勝負を挑むのも、八宝斉のおじいさんが厄介事を起こすのも日常茶飯事。
なびきおねーちゃんまで、『あかねやらんまくんの写真は以前にも増してよく売れる』なんて言い出すし。
今日もまた、そんな1日が過ぎていく。




「皆さんおはよーございまーす。出席取りますよーっ。…あら?天道さんと早乙女くんは?」

「ひな子先生、あかねと乱馬はいつもの事だから気にすることねぇよ。なー大介、ゆか、さゆり」
「うんうん」
「ひろしの言う通りね。先生、気にする事ないわよ」
「あの2人ならどーせ仲良く来るだろうし」

「そぉ?じゃー2人は遅刻…っと。悪い子ねぇ、学校に遅れるなんてっ」




キーンコーンカーンコーン、
チャイムが鳴ってあたしと乱馬は大急ぎで階段を駆け上がる。今朝は九能兄妹に加えシャンプーとムースが現れたせいでいつもより時間がかかってしまった。
でも、遅くなったのはそのせいだけじゃない。




「も〜!!乱馬が寝坊するのがいけないのよ!」

「何言ってんでぇ!あかねが走るの遅ぇからだろ!」

「あたしが起こしてもなかなか起きなかったくせに!今月に入って何回目だと思ってるの!?」

「あーわかったわかった、悪かったなぁっ!」




ガラッと教室を開けて、あたしと乱馬が中に入るとやっぱり好奇な目で見られる。
いつものことながら、なんとも言えないこの空気はすごく気まずい。黒板に文字を書いていたひな子先生は、あたし達を見てニッコリ笑う。




「おはよー早乙女くん、天道さん。遅刻はダメよ、廊下に立ってなさいっ!」

「げっ」
「…はぁ…」




机にカバンを置いて、廊下に立つ。何だかこうして乱馬と一緒に立たせられるのも久しぶり。遅刻の理由はあたしなりに納得がいかないけど、教室の音が遠く聞こえて、涼しい空間にいるのはとても心地良かった。きっとばだばた騒がしかったせいもあるんだろうな。
ちらりと乱馬を見ると、大きなあくびをして、まだ眠そう。




「ちょっと、立ったまま寝たりしないでよ」

「ああん?誰がするかっ」

「どーだか」

「可愛くねーなー」

「悪かったわね、文句言うなら明日からは自分でちゃんと起きなさいよ」

「そりゃー無理な話だ」




乱馬はあっけらかんとそう言った。無理?基本的に毎朝ロードワークしに行く奴が何言ってんの?矛盾してるじゃない。
あたしだって朝早く起きるのは辛いけど、昔からそれが日課になってるから起きられる。かすみおねーちゃんだって毎朝ずーっと一番早く起きて朝ご飯の準備してるんだから。
乱馬だって今までおじさまと暮らしていたなら、早く起きることなんて慣れたものでしょ?…あ、でも、ウチに来てからはそうでもないのかな。




「なんで無理なの?」

「なんでって…もー習慣付いちまったからなぁ」

「は?」

「あかねに起こしてもらうのも、毎朝走って学校行くのも日課、っつーかさ」

「日課って…」

「ま、走って学校行きゃートレーニングにもなるし、一石二鳥!ってな」

「そ…そういうものかしら」

「そーゆうもんだろ」




それがさも当たり前であるように乱馬は言ってる。毎日繰り返されることは、きっとこれからもずっとそうなんだろうって事?
どうしてそんなに自信が持てるんだろう。人生何があるかなんて、分からないのに。
手に持つバケツの中の水に、ぼんやり自分の顔が映る。考えてみれば乱馬と学校に行くのも、喧嘩をするのも、あたしの日課。乱馬と出逢ってから、確かに習慣付いたものが多くて何だか可笑しい。それだけたくさんの時間を乱馬と過ごしてきたってことなのかなぁ。




「早乙女乱馬ー!あかねくんと廊下で2人きりなどこの僕が許さーん!!」


「なっ、九能!?」

「九能先輩も廊下に立たされてたんだ…」




しゅたしゅたと九能先輩は水がたっぷり入ったバケツを両手に持ってこちらに向かってくる。ああ、こんな場面、乱馬が転校生として来た日にもあったわね…
乱馬は投げつけられたバケツをよけて、華麗に先輩の頭の上に立つ。




「いきなり何しやがんでぇ」

「でええいっ!貴様、人の頭の上に乗るなっっ!!」


「ちょ、乱馬!九能先輩!今授業中…っ」


「ふっ…案ずるな天道あかね。僕がいるからにはノープロブレムだ」

「のぉぷろぶれむ?テメーがいると問題ばっかり起こるじゃねーか!」

「何だと!?それは僕のセリフだ!」




あたしが止めるのも聞かず、乱馬と九能先輩はどかばきといつもの取っ組み合いを始めてしまった。こうなると手がつけられない。
溜め息をつくと、いきなり教室のドアが開いた。




「授業を妨害する悪い子はあなた達ねっ!」

「あ、ひな子先生…」

「いい加減にしなさぁい!八宝五十円殺ーっ!!」


「い゛!?」

「ち、力が…っ」




ズズズ…と2人は闘気を吸い取られて、どしゃりとその場に倒れてしまった。ひな子先生はアダルトチェンジして、何事もなかったように教室に戻って授業を再開する。
静かになって気が済んだのかしら、なんてね。




「おーい乱馬、らーんまっ、大丈夫?」

「…大丈夫に、見えるか?」

「そうね、見えないこともないかも」

「お前な…あー、まあいいや、手ぇ貸して。力入んねぇ」

「情けないわねー、時と場合を考えて行動しなさいよ。九能先輩ものびちゃってるじゃない」




あたしが手を差し出すと、乱馬はその手を掴んでゆっくり立ち上がる。ひな子先生にだいぶ闘気を吸い取られたせいかぐったりした様子で、乱馬はふらつく。
慌てて肩を支えると、乱馬があたしに寄りかかってきた。どきん、と、心臓が跳ねる。




「うー…わり、ちょっと寝かせて」

「は!?な、何言ってんのよ!起きて乱馬!離れ…っ」




すーすー聞こえる乱馬の寝息。夜更かしでもしたのかしら。いくら闘気を吸われたからって、こんな風に乱馬が眠ってしまうのも珍しい。とくんとくん、ゆっくりではあるけど、いつもより速い鼓動が聞こえる。これはあたしの心音?乱馬の心音?よく分からないけれど。
はた、と辺りを見渡せばまた静かな廊下がそこにある。でも背後にはちくちくと視線が集まっていて。




「乱馬も随分ダイタンな…」
「いいわね〜、2人とも仲がよろしくて」
「おのれ早乙女えぇぇ!!!呪ってやる呪ってやる呪ってやる〜っ!」
「おい五寸釘、ワラ人形なんか持って何してんだ?」
「んまっ、早乙女くんたら廊下で寝るなんて悪い子にも程があるわねっ」
「ちょおあかねちゃん!乱ちゃんのこと誘惑でもしよったんか!?」


「ゆ、誘惑なんてするかっ!これは乱馬が…」




ダメだわ、これ。もう何と弁解しようと通じないパターン。トホホと肩を落としてあたしはうなだれる。毎日こんな調子だもんね、『またか』って思うのは仕方ない。
乱馬があたしの"許婚"としてやって来てからそれはもう毎日騒がしくってしょうがない。
彼に出逢ったばかりの頃のあたしにとってはそれが非日常的で、鬱陶しいと思っていたけど、時を重ねていくうちにこれが日常で、平和なんだなぁって思うようになってた。
慣れって怖いな。




「ふふ」

「あかねちゃん?どないしたんよ、いきなり笑い出して…」

「ううん、なんかね…」




毎日こうして友達と騒いで、喜怒哀楽して、目まぐるしく変わる感情は忙しいけど、毎日充実してるんだなって。昔とは違う、何だか清々しい気持ちになる。
楽しいんだ。毎日が。




「すごく、平和なんだなあって思ったの」




こんな風に過ごせるのは、今ここにいる人達のおかげよ、って。あたしにとっての非日常は日常に変わる。青春してるってこういうことなのかな?
あたしが笑うと、クラスのみんなも笑顔になって。きっと思うことは同じなんだと実感した。昔と今は違うけど、感じる思いも変化するけど、まだまだ高校生活を楽しまなくちゃ損よね。
ぐっすり眠ってしまっている乱馬を見て、あたしはもう一度微笑んだ。

─こうして今日も、"いつもの"1日が過ぎていく。─






end!
謝謝企画・乱音さまへ!
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