ケトルの視界の端でテロルが膝をつく。彼女は全身に汗を浮かべ、荒く呼吸を繰り返している。傍らではネコモドキが身を低め、警戒心も露に長い尾を小刻みに揺らしている。
霧が晴れていく。
朧気な視界の向こうで、ローブの男は変わらずにいた。

「無傷……!?」

ケトルは信じられない気持ちで男を凝視する。豪奢なローブには焦げ痕ひとつ無い――いや、シュウシュウと音を立てて幽かに白い煙が上がっていた。
その光景には見覚えがあった。

「……遺跡の再生プロセスと同じね。あんた、何をしたの?」

テロルが汗を拭いながら言う。

「判らないのか?」

己の優位性を確信しきった態度で男が返す。
テロルは鼻で笑った。

「大体察しはついているわ。でも、解説の機会を奪っちゃ可哀相でしょ?」

ケトルは二人の会話に口を挟む余裕もなく、剣を構えたまま動けずにいた。