実体の無い翅だ。
少女の手足には蔓あるいは茎あるいは根を思わせる数多の管が巻き付いている。管の伸びる先は装置だった。

「蝶の標本……否、蜘蛛の巣に捕らわれた蝶ですかな、プリンセス」

少女は答えない。その瞼は固く閉じられていた。
エラムは鼻で笑った。少女の意識があろうとなかろうと計画の障害になりはしない。無駄な手間をかけさせてくれたが、それももう終わりだった。

「凄いですよね。我々が数人がかりで動かす装置をたった一人で……」

計器を見ながら助手が呟く。

「混ざりものの無い妖精であったら更に素晴らしい力を発揮したでしょうな。まことに惜しい」

エラムは顎を撫でる。少女のすべらかな肌を見上げながら。

「元来、妖精というのは魂しか持たない種族。だがプリンセスには肉体がある。これは人間である父から得たものでしょうな」

「肉体があるから、妖精としての力を出しきれないということですか?」

「然り。だが計画に支障は無い。これでも不足無しとは恐れ入る……。この力さえ……」

エラムは生涯を振り返る。昔から妖精に惹かれていた。魅了されていたのだと言ってもいい。