親しい人達に別れを告げた。残ったのは小さな鞄がひとつ。
お迎えの馬車はとても立派で、ミーナは個室と侍女を与えられた。馬車の内部とは思えないくらい細やかな装飾に目を見張り、美味しい料理に舌鼓を打った。用意された服に袖を通すとそれだけで違う自分になった気がした。心のどこかで憧れていたお姫様の暮らし――胸がどきどきして落ち着かない。
だが数日後、ミーナは体調を崩した。「環境の変化に体が着いて行けていないのだろう」というエラムの説明を信じた。
食事や飲料水に薬が混ぜられ段々と量を増やされていることや、自分の体調の変化を事細かに記録されているとは全く考えもしなかった。
生来、疑うことが苦手な気質である。
疑惑を抱いたのは、己の背に翅が生じた時だった。