壁だけではない。魔法で隆起させられたり破壊された石畳もまた、元に戻っている。
テロルのすぐ横を瓦礫が通り過ぎ、彼女が嫌そうに足をどかす。

「……うーん、これ自動修復ってのかしら?」

「よくわからないんだけれど、テロルが戦っている間にどんどん直るのが早くなっていったよ」

「で、よ。この現象、あたし達の不調と関係あったりする?」

「いかにも!」

答える声は通路の先から聞こえてきた。
さっさと逃げたはずのローブの男の声。
壁が湾曲しているためケトルからその姿は見えない。声だけが幾重にも反響して聞き取りにくく、相手の位置も掴めない。

「この遺跡の特徴のひとつだ! 自ら瑕疵を修復し、維持する! かの五百年前の大戦中に魔王への対抗策として建設された遺跡が歴史に忘れ去られた後も当時の姿のままなのは、こういう理由なのだよ」

「村の近くにそんな遺跡があったなんて……」

ケトルの声は向こうには届いていないだろう。ローブの男は続ける。

「そして自己修復にかかる魔力は周囲から補う。平時であれば森から吸い上げているようだが、先程のように急激な破壊活動を受けた場合は発動した魔術から奪っていく」

横目でテロルを見ると、頭を抱えていた。