僕のことを好きだと言ってくれてる後輩…


だから?
だからなに?


けんちゃんは誰にでも優しいし、
頭もいいし、
大学では頼れるアニキ的な存在になってきて、

後輩たちの悩み事相談もいっぱい受けてる。
論文のアドバイスや手伝いもしてあげてることは知ってる。

そんな彼を好きにならない方がおかしいとは
常々思ってたから、
思いを寄せてる女の子がいても不思議ではない。


問題はその後。



『で、
けんちゃんもそのコのことが気になるの?』



『わかりません…


ただ、
どちらにしてもキチンと対応したいと思ってます。』



出た。

けんちゃんの、
絶対悪者になりません! ていう、
いつものボンヤリさせるやつ。


しかも、

わかりません?

どちらにしてもって?



Yesも Noもあるってことよね。

何言ってんの?
私への対応はテキトー?



一瞬、
暴れ出したいぐらいの衝動に駆られて、
それが怒りなのかパニックなのか分からなかったけど、

それを抑えるのに精一杯で…

何か、別のことを考えよう。


ぁ、

目の前にいるこの人は、
本当は バカで愚かでかわいそうな青年なんだ。

私、頭の悪い人は嫌いだもの。
ちょっとこの人とは合わないな。
男のくせにメソメソしてみっともない…



そんなこと考えてたら、
体の中から ス〜ッと何かが抜けて
全てがバカバカしくなった。



『私 何やってんだろ。

バカみたい…

ごめんね、けんちゃん。
ツラい思いさせて。』



この時、

生まれて初めて『冷酷な自分』に遭遇した気がした。




私の手は
既に帰り支度をしている。





立ち上がろうとすると、


凄い力で掴まれた。



『待って!

行かないでください!!』