それでも君が好き?の続編です。オールキャラギャグです、くだらないので注意!




空を覆う星蝕みを打倒するべく、オレ達は旅を続けていた。

オルニオンの地を出てからタルカロンに向かったんだが、さすがにデュークがわざわざ復活させた古代の兵器なだけはある。
徘徊する敵がなかなか強く、このまま進むのはキツい、ということで、オレ達は一旦、戦力を増強することにした。

ま、平たく言えばレベル上げ、ってやつだ。

強力な武器の入手やらまだ行ったことのない街の探索やら、なんだかんだ結構やること残ってんだな。

…そんなヒマあんのか、って気もしないでもないが、初めて行く土地で、初めて出遭う魔物との戦いには純粋に心が躍る。
特に、最近ストレス溜まって仕方ないからな。発散しなきゃやってられない。


そんな訳で、昨日もユウマンジュに程近い森でレベル上げ…もとい魔物退治に精を出し、そのままキャンプを張って休んだ。の、だが。


「…う、ん…?」

翌朝、不思議と心地好い重みと温かさを感じて、オレは目を覚ました。
昨日張り切ったせいで、まだ少しだるい気がする。ぼんやりする視界に、こちらを見ている誰かが映った。…二人?

「……おはよー、青年」

「あ、あの、ボクはまだ起こさなくていいかなって思ったんだけどねっ!?」

妙に冷めた視線のレイヴンと、妙に落ち着きのないカロルが、テントの端からこちらをじっと見ている。

オレの意識は一気に覚醒した。

「……………っっ!!」

全身にイヤな汗が噴き出す。今、オレの視界にいないのはあいつだけだ。
そう、今、オレを後ろからがっちりとホールドして、未だすやすやと寝息を立てている男。オレのストレス発生源。

次期帝国騎士団長、フレン・シーフォ。

幼なじみで、親友だと思っていたこの男は、あろうことかオレに惚れているらしい。

本人が告白してきたんだから間違いないんだろうが、すったもんだあってそれを仲間に知られちまった。
以来、こいつはオレへの好意を隠そうとしない。


「っっ、てめえ!!離しやがれ!!!」

「ん…ユーリ…」

さらにきつく抱きしめ…いや、ホールドされて、息が苦しい。

「ぐっ…、この、馬鹿力、が!っうひぃっ!?」

フレンが顔をオレのうなじに擦り付けてきて、物凄い勢いで全身に鳥肌が立つ。
言っとくが、オレにそっちの趣味はない。気持ち悪くて変な声が出ちまったんだからな!?しかもこの、尻に感じる、異物感というか、コレは。

「んー、ユーリ、いい匂い…」

「……この……、いい加減、に、」

オレはめいっばい、顔を下に向ける。

「しろっつってんだろうが!!!」

言うと同時に首を振り上げると、ごすっ、と鈍い音が響く。

「がふっ…」

一瞬腕が緩んだ隙に素早く抜け出し、そのままフレンの腹に技をお見舞いしようとしたところでレイヴンとカロルが慌ててオレを抑えにかかる。止める相手、間違ってるだろ!?

「三散…」

「わーわーダメだって!死ぬ!フレン死んじゃうから!!」

「そうよ青年!落ち着きなさいって!」

「うっせえ!!てかお前ら、黙って見てねえで助けろよっっ!!」

ああ、最悪の目覚めだ。




「朝から騒がしいったらありゃしないわね」

エステルに治癒術をかけてもらうフレンを横目に、リタがオレを睨みつける。
なんでオレなんだよ。

「文句ならフレンに言ってくれ」

「あんたのせいでしょうが」

「なんでだよ!?」

物凄く聞き捨てならない。

「あなたがハッキリしないからではないの?」

「これ以上ねえぐらい拒絶の意を示してるんだが…?」

「どうだか。なんだかんだ言って戦闘中は仲良くやってんじゃない。それに、新しい技の修業にも付き合ってもらったんでしょ?」

「それとこれとは話が全く別だ」

戦闘に私情を持ち込むわけにいかないだろうが。

「まーヒドい、青年、フレンちゃんを都合よく使っちゃって、彼も報われないわね〜」

「…おっさんも鼻血まみれになりたいか…?」

仕事人モードになりかけたオレのところへ、治療を終えたエステルとフレンが戻って来た。

「すみません皆さん、お待たせしました」

「ユーリ、もう少し手加減してあげて下さい!鼻の骨、粉々でしたよ?」

「うむ、男前が台無しだったのじゃ」

「いや、悪いのは僕なんだ。ユーリを責めないで下さい」

「あら、素直なのね。誰かさんと違って」

…なんでオレが悪い的な流れになってんだ。前回といい、被害者は間違いなくこっちなのに。

「だいたいフレン、おまえ昨日は外で見張りの筈だったろうが。なんでちゃっかりテントの中で寝てやがったんだ」

「ラピードが替わってくれたんだ。昨日は少し、寒かっただろう?」

「はあ?何の関係があるんだよ」

「君は昔から、寒いとよく眠れないから」

「っ……………」

柔らかく語りかけるフレンの笑顔に、何故か胸が詰まった。確かにオレは寒いのが好きではない。ガキの頃は、それこそ二人でひっついて寝たりしたもんだ。
だがオレ達はもう大人で、今は昔みたいに寒さに震える夜を過ごすこともない。
自分がそういう、所謂恋愛対象として見られているのでなければ、バカ言ってんな、で済んだかもしれないが…

…ん?待てよ、こいつは確か…

「そっかあ、フレン、ユーリを気遣ってあげたんだね」

「わあ…、美しい友情です…!」

なんだか美談になりそうな雰囲気になりかけている中悪いが、これは多分、そんなキレイな話ではない。


「フレン。おまえこないだ、物心ついた頃にはオレをそういう目で見てた、っつったよな」

「げ、そうなの?」

嫌そうな顔で一歩引いたリタとおっさんに構わずオレは続ける。今さらかまうもんか。

「うん、そうだよ」

「断言したね…」

カロルも引く。

「子供の頃のユーリは本当に可愛くて、柔らかくて、すごく抱き心地が良くて大好きだったんだ。昔は寒いとユーリから『一緒に寝よう』って言ってくれたのに、今じゃすっかりつれなくなったよね、ユーリ」


「抱き、ごこち…」

「まあ」

「フレン、ずるいのじゃあ」

女性陣が三者三様の反応を示す。

「だからもう、我慢出来なくて…。君を抱いて眠るのは久しぶりだからつい興奮し」

「うるせえ黙れこのセクハラ野郎!!」

オレはある事を思い出していた。ガキの頃、確かにフレンと寝るのは暖かかった。
だが、しばらくするとだんだん奴の鼻息がうるさくなり、全身を撫で回してくる手が鬱陶しくなって、結局オレは眠れない事が殆どだった。
寒くて眠れないんじゃない。フレンのせいで寝られなかったのだ。あの頃は何故そんな事になるのかわからなかったが。

「ガキの頃はまだ良かったがな、今じゃ真剣に身の危険を感じるんだよ…!」

「そんな、大袈裟よ青年」

「野郎の固くなったモンをケツに擦り付けられて目ぇ覚めてみろ、死にたくなるから」

「いやああぁぁ!?何下品な事言ってんのよアンタ!!」

「フレンに言えっつってんだろ!!?」


静かな森の中にオレやリタの怒号が響き渡る。たがやっぱり、あいつは笑顔でオレを見詰めていた。



その後、オレはフレンと一緒の部屋やテントになるのは勘弁してほしい、と皆に懇願したものの、予算等の都合であえなく却下されちまった。
ござでも何でもいいから一人で寝ると言えばこれまた物凄い剣幕でフレンにダメ出しされ、結局押し切られて今日も男四人でテントに寝ることになってしまった。




見張りをすると言い張って抜け出し、ラピードと二人で夜空を眺めながら、オレはひとり、大切な想い出が失われてしまったことを嘆き哀しんでいた。






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終わり
▼追記