イメチェンしよう・3(※)

続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい。





ユーリはとうとう我慢できなくなり、フレンに声をかけた。

「おいフレン、どうしたんだよ!?何でこんな……っ!?」

フレンの右手がユーリの左腕を力一杯掴み、そのまま引きずられるように階段を上る。ユーリの部屋の前まで来ると迷わず扉を開けて中に入る。

「フレン……っッぐ、うあっ!!」

部屋に入るなり、フレンはユーリをベッドに向かって突き飛ばした。壁に背中を強か打ち付けてユーリが呻く。

「ってめえ、何しやがる!!」

「もう演技はしないのか?」

「最初っから気付いてやがっただろうが!どういうつもりだ!?」

相変わらず考えの伺えない表情のまま近付いて来るフレンに一瞬恐怖を覚え、ユーリは固まった。
その瞬間物凄い力で両肩を掴まれ、一気にベッドに押し付けられる。
骨が砕けるんじゃないかと思うほどの力に、ユーリの顔が苦痛で歪む。

「ぅぐ…っ、あ!!」

「僕がこの数ヶ月の間、どれだけ君を想っていたかわかるかい?」

「久しぶり…に、会って、それでこの…っ、仕打ち、かよっっ!!」

緩むことのない力に、ユーリは話すのもやっとだ。

「だって、僕が想うほど、君は僕のことを気にしてくれてないみたいだからね」

「何、言って…」

「髪、切ったのか」

低い声で問い掛けられ、ユーリは体温が一気に下がる思いがした。

すうっ、と目を細めたフレンの顔が降りて来て、首筋に口付ける。そのまま頬までを舐め上げられ、ユーリは全身に鳥肌が立つのを感じた。決して快感などではない。

「ッ、ひ…!これ、はっ!!」

慌てて言い訳をしようとするが、その口はフレンの唇によって塞がれてしまった。喉元に届く勢いで舌を挿し込まれ、苦しくて堪らない。

「んっ…、ぐ!む…ぅ、ふッ…!!」

ユーリの口内を散々犯して、漸くフレンの唇が離れた。

「この服も、ユーリの趣味じゃないだろう?エステリーゼ様かな?」

「…は、何、言って」

インナーのシャツの衿元を指で弄びながら、フレンが呟いた。

「全く…、僕の言う事は聞いてくれないのに、相変わらず彼女には甘いんだな」

「な……ッ!あ!!」

フレンの指に力が込もったと思った瞬間、一気にシャツが引き下げられた。ぶちぶちと音を立てながらボタンが弾け飛び、肩口を擦り付けた布地がユーリの肌に赤い跡を付けた。

「…似合わないよ」

ボロボロになったシャツと、上着のジャケットを捲り上げ、そのまままとめて脱がして部屋の隅に放ると、フレンはユーリの胸に顔を寄せた。
そうして舌を這わすと、乳首を丹念に舐め回す。

「どういうつもりか知らないけど…」

軽く乳首に噛み付くと、頭上から小さな悲鳴が降って来た。

「僕が喜ぶとでも思ったかい?」

フレンはきっと、ユーリが髪を切り(切ってはいないが)、服まで変えて自分を驚かそうとしたのだろうという事は理解している。
それにしたって、この怒りようが理解できなかった。説明する暇も与えてもらえない。一体何だというのか。ユーリも段々、腹が立って来ていた。

「別に喜ばせようなんて思ってねえよ!これは、たまたま」

エステルとふざけて、驚かせてやろうと思っただけだ。髪だって切ったわけじゃない。

そう言うつもりだったのだが。
眼前のフレンの様子に気圧されて、またしても最後まで言葉に出す事ができなかった。

「へえ。僕が嫌がるのがわかってて、そんな面倒な事した訳だ」

「だから、違っ!」

フレンの手がズボンに掛かる。

「ちょっ、待てって!!」

「待たない。君だって僕の言う事ちっとも聞いてくれないじゃないか」

「訳わかんねえっつってんだよ!!」

「君が僕のものだって、判らせる必要があるみたいだし」

「いい加減にしやがれ…、おわ!?」

下着ごとズボンを引き下ろされて、慌てて身体を起こす。しかし次の瞬間伸びて来た右手に顔の下半分を押さえられ、そのまま勢い良くベッドに押し付けられてしまう。

「!!」

反動で跳ねた脚を抱え上げられ、大きく広げられた股の間にフレンの身体が割り込んで来る。
と、ユーリの顔を押さえ付けていた手が離される。脚を自身の身体で抑え付けて動きを封じたまま、フレンは既にはち切れんばかりになっていた欲望の塊を取り出し、ユーリの蕾に押し当てた。

まさか。

ユーリは恐怖で凍りついた。
フレンとこのような関係になってから何度か抱かれたが、未だ慣れたとは言い難い。時間をかけて丁寧に解され、漸く繋がる事が出来るのだ。

それなのに。

「い……、嫌だ…!やめろ、フレン!!」

「っ…!」

ユーリの嘆願など聞こえていないかのように、フレンは自身の腰を押し進める。

「ふ…っ」

「っぐぁ、ああああぁぁ!!」

あまりの激痛に視界が霞む。恐らくはまだ先端ぐらいしか挿入っていないだろうが、これ以上受け入れるのは不可能だった。
力を抜く余裕など全くない。これではフレンの方も辛いだけだろう。

「いっ…あ、抜け、って……ッ!!」

「………っ!」

しかし次の瞬間、さらに突き込まれて一瞬呼吸が止まる。悲鳴を上げようとする口を手で塞がれ、ユーリは泣きたくなった。
いや、実際泣いていた。


なんだよ、これ。
こんなの、ただの強姦だろ。

あまりの痛みと呼吸の不自由さに、吐き気がする。身体の自由は奪われていないが、抵抗する気力もなかった。
ただひたすらに揺さぶられながら、自分を愛している筈の男の顔をぼんやりと眺めていた。






ーーーーー
続き、ます
▼追記

イメチェンしよう・2

続きです。






「そういう事情ですので、フレンによろしくお願いします」


エステルに説明を受けた騎士は、はぁ、と気の抜けた返事をして目の前に立っている青年を凝視した。

短く切り揃えられた黒髪の、清潔感漂う容姿の青年だ。
すらりとした長身、白を基調とした衣服に身を包んだその姿は凛々しく、不審な様子は見受けられない。だが。

「…僕のことを信用してもらえませんか?」

静かに問い掛ける青年の声に何故か騎士が飛び上がる。

「ととと、とんでもありません!エステリーゼ様と、ユーリ・ローウェル殿のご友人を疑うなど、そんなっっ!!すぐご用意致します!!!」

騎士は物凄い勢いで敬礼すると、帝都へ出立する為のキャラバンの準備へ取り掛かる為に走って行ってしまった。


「さすが、アドリブ大魔王ですね!!」

「……ここまでする気はなかったんだが……」

フレンをちょっと驚かせてやるだけのつもりだったのに、いつの間にやら服まで着替えさせられ、今やユーリは完全な「別人」となっていた。


今回の魔物退治は、フレンから直接依頼があったものだった。凛々の明星からはユーリのみが参加しているが、他のギルドや騎士団の者も混じった混成部隊だ。
ユーリはもともと、仕事が終わったら他の連中と一緒に帝都に戻るつもりだったが、どうしても外せない、緊急の依頼が入ってしまった。ギルド代表としての報告は「友人」に代理で行ってもらうので、彼を代わりにキャラバンに同道させてもらいたい。

エステルの考えた「言い訳」が以上だった。

「すっげー無理があるような…」

「やるならとことんです!ユーリ、フレンに会うまで絶対にバレないようにして下さい!」


やっぱやるんじゃなかった。
すでに相当めんどくさくなっているユーリであった。
…それにしてもさっきの騎士の態度はなんだったのだろう。何やら不穏な雰囲気を感じつつ、ユーリは帝都への帰路についたのだった。



「では、こちらでお待ち下さい」


道中これといった問題もなく、二日後にはユーリは帝都へ到着していた。
とりあえず身元不明(エステルの口添えがあるとはいえ)の人間をいきなり騎士団長に会わせる訳にはいかない、ということで、ユーリは城門前で待ちぼうけを食っている。もちろん城の中で待つよう勧められたが、断った。
城の中にはユーリを知る者も多い。これ以上面倒は増やしたくない。

道中問題はなかった、と言ったが、とにかく面倒だった。誰もかれもが何故か「ユーリ」との関係を聞きたがった。
特に女性の食いつきが凄まじく、恋人の有無やら何やらしつこく尋ねて来る。
始めはまさか自分とフレンの事を知った上で「第三の男」とでも思われているのかと勘ぐったが、どうやら違った。
単に「アベル」(……エステルの考えた偽名だ)がモテているのである。ユーリ自身にあまり自覚はないが、ユーリはモテる。男女問わずに、だ。
ただ最近はやたら男性からの直接的なアプローチが増え、気分が悪くなる事が多かった。自分が女に見えるのか、ふざけるな、というのが正直なところだ。
決して女に見えるから、という単純な理由だけではないという事に気づいていないのはユーリだけなのだが。

逆に女性からきゃあきゃあ言われる事はあまりなかった。だが今はどうだ。途中で立ち寄ったデイドン砦でも、ここに来るまでに通って来た市民街でも、やたら女性の熱い視線が注がれて、ユーリは複雑な気分だった。

「そんなに違うかねぇ…」

溜め息を吐いて城門へ続く階段脇の壁に寄り掛かる姿にもまた、女性の視線は突き刺さっているのだった。



「……代理?」


今日の執務を終え、私室で着替えようとしていたフレンにもたらされた報告は、にわかに信じ難いものだった。報告をするソディアの表情も困惑気味だ。

「ええ…。アベル、という名の青年という事なのですが、団長はご存知ありませんか」

「私は覚えがないな」

ユーリの友人の名前を全て把握している訳ではない。だが、わざわざ代理として寄越すという事はそれなりに親しい、信頼のおける間柄という事なのだろうか。自分の、知らない、誰かが。

「団長?いかがいたしますか」

「ああ…、わかった。直接、私が会いに行く。」

もともと今日はユーリに会って下町に行くつもりだった。その為にだいぶ前からスケジュールをやり繰りして、今日の午後と明日の休みをもぎ取ったのだ。だというのに。

「大丈夫ですか?その、何処の誰とも知れぬ相手にお一人で、など…」

「ユーリの友人というのが本当なら、信用はできるだろう。その為にも直接会って確認する必要がある」

「了解いたしました。くれぐれもお気をつけて」

ソディアの心配は有り難いが、今のフレンは自らの身の心配をするどころではなく苛立っていた。

やっと会えると思ったのに。あの美しい髪に指を滑らせ、唇を確かめたい。白い鎖骨に、細い腰に、全てに所有の徴をつけて、そして…。
こんなにも焦がれてやまないのは自分だけなのか。そう思うと堪らなく切なくて、同時に腹が立って、自然と乱暴な歩調になる。ただならぬ様子に何事かと怯える周囲を気にする余裕もなかった。


そうしてようやく城門の外へ出る。視線を動かせば、数人の女性に取り囲まれて笑顔で話をする青年の姿が目に留まった。

あれか。

フレンは一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、その青年の元へ近づいて行った。


「…失礼。ユーリの代理というのは君か?」

突如現れたフレンに女性達は一瞬喜色を見せたが、次の瞬間には何故かそそくさと散って行ってしまった。何かを感じたらしい。

青年がゆっくりとこちらに向き直る。

「ええ、そうです。騎士団長閣下」

「君、は」

笑顔で答える「青年」を見るなり、フレンの身体は固まった。




ユーリは困惑していた。フレンはすぐ自分に気付いただろう。だというのに、厳しい表情を崩すことなくずかずかと自分の前を歩いている。一言も発しない。こちらを見ようともしなかった。
詳しい話を聞かせてもらうからついて来い、と言って歩き出したきり、ずっとこの調子だ。

(…まさか、気付いてない、のか…?)

それにしたって、何故こんな様子なのか皆目見当がつかなかった。
ひたすら沈黙したまま歩き続け、ようやく下町にやって来た。

少しだけフレンの歩みが遅くなる。今までかなりの早足でここまで来たが、さすがに疲れたのだろうか。

そんな事を考えていると、前方によく知った人物が現れた。その人物はフレンの姿に気が付くと、満面の笑顔を見せながら近づいて来る。

「おおフレン、元気じゃったか」

「お久しぶりです、ハンクスさん」

二人のやり取りを少し後ろでぼんやり眺めるユーリに気付き、ハンクスが首を傾げた。

「フレン、こちらは?」


おいおいマジかよ。

ユーリは動揺した。まさかハンクスじいさんが気付かないなんて。他の者ならいざ知らず、幼い頃からずっと世話をしてくれたハンクスが、自分の事がわからないなんて。

「ユーリの友人だそうですよ」

感情の伺えない声音で言うフレンの様子に、さらにユーリは戸惑った。
こいつはほんとに、気付いているのか、いないのか。

「……はじめまして」

掠れた声で挨拶をするユーリに、やはりハンクスは気付かないようだ。

「おお、こりゃご丁寧にどうも。いや、ユーリの知り合いとは思えんほどの好青年じゃな」

どういう意味だ。髪切って(ウィッグだが)ちょっと服が違うだけじゃねえか。ボケたんじゃねえのじいさん。

心の叫びをぐっと堪えて笑顔を作る。

「んん…?おぬし、何処かで」

「すみませんハンクスさん、急ぎの用事がありますので。失礼します」

「お、おお?」

呆然とするハンクスを気にする様子もなく、再びフレンは歩き出した。ユーリも後に続く。

おかしい。フレンがハンクスじいさんにあんな態度を取るなんて。
いよいよ訳がわからない。意を決してフレンに声をかけようとして、ユーリは初めて自分達の辿り着いた場所に気が付いた。

そこは下町の自分の部屋がある、宿屋「箒星」だった。





ーーーーーーー
続きます。長い…
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2011年05月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31