フレユリ・ED後。前半エステルです。






「ユーリ!!お久しぶりです!!」


坂の向こうから駆けてくる女性の姿に、ユーリは一瞬目をしばたたいた。


「エス……テル?」


エステルと会うのは数ヶ月振りではあった。最後に会った時も、彼女はあの時と変わらぬ姿のままだった筈だ。
だが今目の前にいる彼女は、明らかに数ヶ月では有り得ない変化を伴っていた。
ごく一部が。


「どうですか?似合います?」

風に揺れる淡いピンク色の髪は、エステルの腰のあたりまで伸びていた。

「ねえねえ、どうです?」

「どうって…、どうしたんだよ、それ。なんでそんな長さに…。まさか精霊の影響とかか?身体は大丈夫…」

自身の望む答えが全く出て来ないことにがっかりしつつ、エステルはユーリの言葉を遮って言った。

「もう、違います!イメチェンですよ、イメチェン!!どうです?似合います?」

「イメチェンだ?…なんだ、カツラかよ」

ユーリの言葉にエステルは大きく肩を落とし、盛大に溜め息をついたのだった。


ハルルと帝都を行ったり来たりしているエステルは、かつての旅の仲間、とりわけユーリとはなかなか会う機会がなかった。今回はユーリがギルドの仕事としてハルル周辺の魔物退治を請け負ったと知り、帰りを待っていたのだ。
久しぶりに会う彼をちょっと驚かせてやろう、と思って。

エステルがハルルで借りている家のリビングで、ユーリは出された茶を啜りながらふぅん、と頷いた。

「それでその髪か。いいじゃねえか、似合ってるぜ」

「…なんかもう、いいです…」

「何でだよ、褒めてんじゃん」

「ユーリが普段わたしのことをどう思っているか、思い知りました」

「訳わかんないんだけど。それにしてもよく出来てんなー、そのカツラ。元の髪と全然見分けつかねーぜ」

見て欲しいのはそういうところではないのだが。

「もうっ、カツラカツラ連呼しないで下さい!これは『えくすて』です、『えくすて』!!」

聞けばいわゆる被りもののカツラではなく、付け毛らしい。男女問わずお洒落の一つとして、気軽に髪型を変えられるのが人気なのだとか。

「かつてカツラと呼ばれていたものは、『うぃっぐ』と言うんですよ」

「なんか違うのかよ」

「……カツラより高性能、です?」

ますますもって訳が分からない。大体、カツラを着ける必要がある場合なんて、変装して何処かに潜入するか、或いは演劇ギルドの奴らに手伝いを頼まれた時ぐらいのものではないだろうか。
今のところユーリにはそういう予定はないが。

そんなことを考えていると、何やら思案顔のエステルがこちらをじっと見ているのに気が付いた。

「なんだ?」

「ユーリは髪、ずっと長いままです?」

「…まあそうだな」

「切るつもりはないんですよね?」

「今のところは」

「私、髪の短いユーリも見てみたいです」

「切るつもりがない事を確認したのはエステルだよな」

「ですから」

コレで、と笑うエステルの手には、いつの間にやら黒いウィッグが握られていた



結局押し切られてしまい、ユーリはショートヘアのウィッグを着けさせられていた。どうやって元の髪を納めているのかわからないが、出来上がりはごく自然で、何の違和感もない。

「おおー……」

「どうです、どうですっ?」

やけにはしゃぐエステルを横目に、ユーリは鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめた。
耳の前の一部分だけ少し長めだが、後ろ髪は襟足の辺りまでしかない。ここまで短くした記憶はなかった。首周りが妙にすーすーする。

「似合ってますよっ、格好いいです!!」

「そりゃどーも。そんなに格好いいならいっそこんな感じに切っちまうか」

「それはダメですっっ!!」

「………………………」


どいつもこいつも。フレンもユーリの髪にはうるさい。以前、切ろうかなと言ったら物凄い勢いで反対された。
そうだ、今の自分を見たらフレンはどういう反応をするんだろうか。ちょっと気になる。

「あのさ、エステル。ちょっとコレ、借りていいか?」

自身の頭を指しながら聞くユーリに、エステルは笑顔で答えた。

「フレンに見せたいんですね?」

にこにこしながら即答されて、何となく恥ずかしくなる。

「…よく分かったな」

「ユーリが自分の事を見てもらいたい相手なんて、フレンしかいないじゃないですか」

「………………そう、か?」

フレンとユーリは現在、恋人という関係だった。だが男同士だし、お互いの、特にフレンには立場がある。だから当然のこと公にはしていないし、仲間にも黙っている。のだったが。

(…どこまで気付かれてんのかなー…)

時折、かつての旅の仲間にはバレてんじゃないか、と思うことがある。自分とフレンを妙に会わせたがったり、会えば会ったで二人きりにしたがったり。
もしそれが、「親友」としての自分達に対する心遣いではないのだとしたら。
…やめよう。不毛だ。敢えて意識すると余計に態度が不自然になってしまう。

「まあちょっと、驚かせてやろうかと思ってさ」

「どうせなら服も変えて、別人を装ってみてはどうです?」

「いや、そこまでは」

「もしかしたらフレン、気付かないかもしれませんね。だってユーリ、だいぶ雰囲気違いますし」

「……」

「でもフレンですから、やっぱりすぐにユーリだって気付くかもしれませんね」

どうなんだろう。すぐ気付くと思うが。だがフレンとも暫く会っていない。もし気付かなかったら、それをネタにからかってやるのも面白いかもしれない。

「…面白そうだな。ちっと遊んでみるか」


エステルの、してやったり、という表情にユーリは気付かなかった。






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続きます。
▼追記