美しさは罪…?

フレユリ・ユーリ女装ネタシリーズその一です!







最近どうも、自分の性別を勘違いしてるんじゃないかと感じる奴らが増えてる気がする。

ぱっと見がどう映るのか知らないが、少なくとも体型で判りそうなもんだ。
胸もケツもまっ平ら。
身長だってまあ高いと思う。
髪を伸ばしてるのがあるかもしれないが、何だか今更切るのも面倒だ。
だいたい、髪が長けりゃ女か?逆に短い女はどうなんだよ。
世話になってる下町の宿屋でも、一時期「黒髪で長身の美女が出入りしている」とか噂になったらしいが、前二つはともかく「美女」って何だ。
それはつまり、顔が判別できないぐらい遠くから見掛けたってだけじゃないのか。
自分が女顔だとか思ったこともないし、ましてや綺麗だ美人だ可愛いだの言われてもこれっぽっちも嬉しくない。
素直に「イイ男」って言っとけよ。それなら嬉しいから。





「何が『イイ男』よ…。なんか、無性にハラ立つわね」

「リタ、仕方ないですよ。…なんか、わたしも切ないですけど…」

「あら、私は別に気にしないわ。今回は彼が適任、ということなのだから」

「まあ、ユーリなら何でも似合うから大丈夫なのじゃ!」


微妙に刺を含んだ女性陣の言い様に、オレは口をつぐんだ。
旅の途中で立ち寄ったナム孤島でまたしても演劇の手伝いを頼まれ、その有り得ない配役にキレたオレの文句に対する女共の反応は冷ややかだった。


「だいたい、こんなデカい姫とか有り得ねえだろうが」

未だ納得のいかないオレにカロルが言う。

「だから相手役がフレンなんでしょ?他の人じゃ釣り合わないもん」

「そういう話じゃなくてだな」

「僕は構わないけど」

「おまえは黙ってろ」


そもそも、ここへ来たのはフレンのためだった。
バウルで世界中を飛び回るオレ達は、まだあまり人に知られていない場所もよく訪れている。それらの話を旅の仲間となったばかりのフレンにしたところ、まだ行った事のない場所の中でも、様々な遊びの溢れたナム孤島に強い興味を示したのだ。
だが、世界がこんな状況だというのに、ただ遊ぶだけの場所に行きたい、とは素直に言えないフレンの為に、息抜きも必要だ、と言ってわざわざ来たのだが。
正直、後悔していた。


「もうこの演劇ギルド、潰れちまえよ。メインがみんな余所のギルドのやつとかないだろうが」

「そんな事言うものじゃないよ、ユーリ。随分困ってるようだし、これも義を以って事を成せ、じゃないのか?」

「…おまえはいいよな…、そのまんまじゃねえか。もういっそ、騎士団の鎧のままで出たらどうだ」

「…さすがにそれはちょっと」


今回の物語もまた、ご他聞に漏れず「姫を王子(前は勇者だったが)が助け出す」といったストーリーだったのだが、演劇ギルドの奴はあろうことかオレを姫役に指名した。
しかもオレを男と知った上で、「この役のイメージに合うのはあなたしかいません!!」とかなんとか、周りのエステル達に見向きもせずに言ったもんだから、女性陣が面白くないのも無理はない。
ちなみに王子役はフレンだ。
こっちは似合いすぎてて文句も出ない。


「とにかくみんな、早く着替えようよ。練習する時間、なくなっちゃうよ!」

カロルの声に、皆それぞれの衣装を手に取り、更衣室へと入って行く。
ちなみにおっさんはオルニオンでもらった衣装がちょうど役に合うとかで、先に着替えていた。
大して出番もないらしく、台本をパラパラとめくっている。
と、何やら意味ありげにちらちらとオレを見ているのに気付く。


「なんだよ、おっさん」

「んー、青年、ホントにこれやるの?」

「仕方ないだろ、もう引き受けちまったんだから」

「そ。まあ、しっかり台本読んで、フレンちゃんと打ち合わせしときなよ?」

「…?ああ、まあそうするけど」

真意がよく分からないまま、オレも更衣室へと向かった。



「うわーフレン、すっごい似合うよ!もう、本物の王子様みたい!」

「カロルもよく似合ってる。可愛いよ」

「え、ホントに?前はさんざんな役だったし、今回はまともな役で良かったあ!」


間仕切りの向こうに楽しそうな会話を聞きながら、オレは情けなくて泣きそうだった。
鏡に映る、ドレス姿の自分。
肩が大きく膨らんだ短い袖と、胸元の赤いリボン。同じ色のカチューシャを髪に飾ってみれば、なる程それは「女性」に見えないこともない。
微妙に似合ってる、という事実に傷ついていると、背後に人の気配を感じた。

「ユーリ、まだか?何かあるなら手伝うけど」

「…いや、大丈夫だ。もう着替えたから」


間仕切りから姿を現したオレを見て、二人がなんとも言えない表情になる。

「……なんだよ」

「…え、ああ、似合ってる、よ」

「う、うん。すごいよユーリ、お姫様みたい」

何だそのリアクションは。

「みたいって、姫なんだろうが。ってかおまえら、なんだよその微妙な反応は!?似合ってねえならいっそ大笑いされたほうがマシだってんだよ!!」

恥ずかしさのあまり叫んでしまったオレに、カロルが慌てて両手を振りながら言う。

「い、いや、違うって!逆にあんまり似合っててびっくりしたっていうか、ね、フレン、そうだよねっ!?」

「あ、ああ」

「何のフォローにもなってねえよ!!」

つまりこいつらはオレに見とれてたって訳か。
最悪だ。
自分じゃそこまでとは思ってなかったのに、「女装」が似合うと太鼓判を押されてしまったことのショックはでかい。

先に皆のところへ行く、と言ってカロルが出て行ってしまい、オレはフレンと二人で部屋に取り残されてうなだれていた。


「くっそー、情けねえ…」

「ユーリ、その…本当に良く似合ってるから、大丈夫だよ」

「何がだよ!おまえ、女装が似合うとか言われたら嬉しいか?」

「いやまあ…。でも、本当に似合ってる。…綺麗だ」

「は……」

恥ずかしい台詞を真剣に言うフレンに、オレは言葉を失った。
だいたい、オレは真っ先にフレンに笑われると思ってた。なのにこいつは笑うどころか、真面目な顔して「綺麗だ」ときた。どう返せばいいのか分からない。

「…とりあえず、台本読んどこうぜ」

「皆と一緒に練習しないのかい?」

「や、するけど。でもなんかさっきおっさんが、フレンとちゃんと打ち合わせしろとか何とか言ってたからさ」

「レイヴンさんが?何でわざわざ僕らだけなんだろう」

「さあ。一応主役だからじゃねえの?」


ふうん、と言いながら台本を読み始めたフレンに倣ってオレも台本を読んでいった。



しばらく読み進めて、はた、とフレンの指が止まる。
オレも固まった。
多分、同じところを読んでいるんだろう。


「…これ、は」

フレンの顔は耳まで真っ赤だ。おそらくオレもだろう。
オレの場合は半分怒りだが。
台本を持つ手を震わせながら、オレは更衣室の扉をぶち破らんばかりに脚で蹴り開けて、外へ飛び出していた。





ーーーーー
続く
▼追記

想いの行き先・4

一日の執務を終えて自分の部屋に戻ってみれば、何やら人の気配がする。

警戒しつつ扉を開けて素早く室内の様子を伺うと、そこにはベッドに大の字になって寝転ぶ親友の姿があった。


「ユーリ?」

声を掛けるが反応がない。近付いて見下ろしてみると、ユーリは絶賛爆睡中であった。


「勝手に入り込んだ上に人のベッドで熟睡、か」

屈み込んで間近に顔を寄せてみるが、起きる気配がない。
周囲の気配に聡いユーリにしては妙だと思った。
もう一度名前を呼んでみると、煩さそうに顔をしかめて僅かに身じろぎこそしたものの、やはり目を覚ます様子はない。


疲れているのだろうか。

ギルドの仕事が相当忙しいのか、帝都に戻って来たのも半年ぶりだ。昨日は帰ってすぐ休むと言っていたが、下町の皆と久しぶりに盛り上がったのかもしれない。
それとも、魔物の被害の話で悩ませてしまったか。

フレンはそっとベッドに腰掛け、ユーリの顔をしげしげと眺めた。
薄く開いた唇の端に涎の跡を見つけて、思わず吹き出してしまう。

こんなユーリの寝顔を見るのは何年振りだろう。子供の頃以来か。
何だか可愛くて堪らなくなり、頬を指でつついてみる。

「んー―…」

まだ起きない。そのまま頬を撫で、髪を一房つまんで、鼻先を擽ってみたりする。
冷静に考えてみると、傍から見るとどうなんだ、という状況である。
寝起きの悪い恋人に悪戯をする馬鹿な男みたいだ、と思って、フレンは自分で自分の考えたことに赤面した。

――恋人。

フレンはそういう意味で、―いわゆる「恋愛対象」として自分がユーリを想っていることを、自覚したばかりだった。
気付いてしまえば想いは膨らむ一方であり、いつの間にかユーリのことばかりを考えている自分を嘲笑ってしまった。
ユーリに伝えれば、きっと深く悩ませてしまうだろう。彼はとても優しいから、なんとか自分を傷付けないような言い訳を考えるだろう。
もしくは逆に、思い切り突き放すフリをして諦めさせようとするかもしれない。
そこまで理解してなお、ユーリにも自分を愛してもらうにはどうしたらいいんだろう、などと考え、肉体的な繋がりまで欲している浅ましさに吐き気すら覚えた。

「ユーリ…起きなよ。でないと我慢、できなくなる…」

互いの鼻先が触れそうなほどに顔を寄せて呟くと、突然ユーリの腕が伸びて来てそのまま抱き締められ、フレンは驚きのあまり両の瞳を大きく見開いて硬直した。

「ゆっ、ユーリ!?起きてるのか!?」

慌てて声をかけるが、ユーリはフレンの髪に顔を埋めたまま小さく唸っただけだ。
その可愛らしい声に腰が砕けそうになりながらも、フレンは必死で耐えた。

まずい。まずいまずいまずい!!

「ユーリ、いい加減に起きろ、ユーリ!!」

「んん…あれ、ここ…?」


首に回されたユーリの腕が緩んだので身体を起こせば、真正面から目が合ってしまった。相変わらず、距離は近い。
必死で冷静を装って声を絞り出した。


「…やあ。目、覚めたかい?」

「え、フレ…、う、おわああぁぁぁっっ!!」


物凄い勢いで飛び起きたユーリに突き飛ばされそうになりながらもなんとかそれを避け、肩で息をするユーリの少し離れたところから声を掛ける。愛しい時間の終わりは寂しいが、仕方ない。


「あれだけ熱烈に迫っておいて、随分と色気のない悲鳴だな」

「な、何言ってんだ、おまえ!」

「そんなに寝心地が良かったんなら、毎日来てもらっても構わないけど」

「来ねえよ!!」


来てたんならさっさと起こせ、と文句を言うユーリに苦笑しつつ、フレンは気持ちを切り替えてユーリに本題を話すよう促す。

「まさか昼寝しに来た訳じゃないだろう?」

「…ああ」

ユーリは自らが得た情報をフレンに話し始めた。





「っつーわけだ。どうも南の森に、何かありそうだな」

「そうか…。ジュディスの情報待ちだな。彼女はいつ頃戻るんだ?」

「はっきり日にち決めた訳じゃねえけど、二日かそこらで戻ると思うぜ。報告待ってからのが良かったかとも思ったが、とりあえず、な」

「いや、助かったよ。実は今日、陛下には話をさせて頂いたんだ」

「さっすが。仕事が早いな」

「茶化すな。それで近々調査隊を編成して、周囲に派遣するつもりだったんだ。手間が省けたよ。ありがとう」

「別に構わねえよ。まあ、ジュディが何を見つけてくるかわかんねえけどな」

「そうだな…。場合によっては、調査隊ではなく討伐隊を編成する必要があるかもしれない」

「いきなりか?騎士団でもちゃんと調査したほうがいいんじゃねえの」

「自分達を頼れ、と言ったのはユーリだろ?信じてるよ」


そう言って微笑むフレンに、ユーリは少し驚いていた。
昨日はもっと追い詰められたような感じだったが、今日は随分と雰囲気が柔らかい。

「なんか良い事でもあったか?」

「…どうしてだい?」

「いや、昨日と随分違うと思ってさ。」

「良い事……か。まあ、なかったとは言わないよ」

「なんだよ、それ。…ま、いいけど。んじゃ、そろそろ帰るわ、オレ」

「あ、ちょっと」

ずっと腰掛けていたベッドから立ち上がったユーリに、フレンは何故そこで寝ていたのか尋ねてみた。どうせ大した理由ではないだろうが、何となく気になっていたのだ。
するとユーリは己の醜態を思い出したのか、ばつの悪そうな様子だ。

「…少し朝が早かっただけだよ。いろいろ聞いて回るつもりだったからな。寝っ転がって考え事してたら、あんまりにも気持ち良くてつい寝ちまった。さすが騎士団長のベッドは違うよなあ」

「誰かに見つかったらどうするつもりだったんだ…。それより、考え事?」

「魔物の事とか、下町の事とか、な。そういやハンクスじいさん、相変わらずオレのことはガキ扱いだぜ。たまんねーよな」

それでも嬉しそうなユーリの様子に、フレンも笑顔になる。
ともすれば抱き締めたくなる衝動を堪えながらも、フレンはユーリの顔に手を伸ばしていた。

口元に指を添えると、さすがにユーリが怪訝な表情になって身を引いた。

「なんだよ?」

「…ヨダレ。跡、ついてるよ」

「ば…!早く言え!!」

今まで放置か、馬鹿みたいだと喚くユーリが可笑しい。

「子供扱いが嫌なら、ちゃんと拭いたほうがいいと思うよ」

「うるせえ!…ったく。んじゃ、ジュディが戻ったらまた来るから、それまで大人しくしてろよ?」

「君もね」





一人きりの部屋で、フレンは先程ユーリに触れた指で自分の唇を軽くなぞってみた。

跡などとうになかった。ただ触れたかっただけだ。

日毎に増してゆく衝動にいつまで耐えられるか。

空色の瞳に仄暗い陰が宿っていた。




ーーーーー
続きます
▼追記
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