02/16 舞子様 よりリクエスト。フレユリでユーリ女体化ですので閲覧にはご注意下さい!










日頃、妙齢の女性が気に掛けている事とは何だろうか。
いや、この場合は気に掛ける『べき』と言ったほうが正しいのかもしれない。


「あなたはもっと、自分自身の魅力をきちんと理解したほうがいいと思うのだけれど」


そう言って柳眉を顰めるジュディスを見ながら、ユーリは『今度は何と言って話をはぐらかすか』を頭の中で考えていた。

ここのところ、ほぼ毎日同じ台詞を聞かされては適当ににやり過ごすことを繰り返していたため、はっきり言って言い訳のネタも尽きかけている。中途半端な言い逃れがしづらいというのが、ジュディスを相手にした時に一番困る事ではあった。

「ねえ、ユーリ?」

「何だよ」

「あなたもそう思うでしょう?」

「いや、あのな?今オレの話してたんだろ?」

「そうよ」

「……………」

だったらなんでそれを本人に聞くか。そう思わずにはいられなくて、ユーリもまた思い切り眉間にシワを寄せた。
自分の魅力、いわゆる『チャームポイント』について考えた事などない、と何度言ったら分かってくれるのか。いや、分かっていてジュディスはわざと話を振っているのだ。
そして、最終的にある人物の名前を出された上で『彼の為にも』とかなんとか、理解し難い方向に話を持って行かれるのが面倒臭い。
既に言い訳そのものを諦め、黙々と武器の手入れを続けるユーリに向けて投げ掛けられた悩ましげな吐息をスルーしつつ、ユーリも内心で大きな溜め息を吐き出していたのだった。



(魅力、なあ……)

その日の夕食を宿で取りながら、ユーリはふと昼間のジュディスとの会話を思い出して手を止めた。
あまりにも毎日言われるので、何となく気になるようになってしまっていた。かと言って、自分で自分のことは分からない。下町の知人に『黙ってれば美人なのに…』と残念がられたことならあるが、美醜の好みは個人差がありすぎて判断が難しい。

(まあ、顔が全てじゃないとは思うが)

とりあえず自分が美人かどうかは置いておくとして、じゃあ他に何かあるだろうか。

(うーん…わっかんねえな)

プロポーションがどうという話も、これまた個人の好みによって激しく違う問題だ。悪くはないんじゃないか…と思ったが、それこそ自分よりスタイルが良いと思える女性が実に身近にいるせいで、何となく自信が持てない。

(女らしさ…?いや、それこそねーな…)

言葉遣いが乱暴だとか振る舞いがガサツだとか、もっと恥じらいを持てとか云々。考えれば考えるほど、褒められるよりもあれこれ小言を言われた記憶しかなかった。小言を言われるということ、すなわちそれは欠点であって『魅力』ではない。気に食わないから直せと言われるのだろう。

(…じゃあ…)

なんであいつはオレを好きだと言うんだろう

些細なことの筈だった。
今まで、これといって気にした事がない。ところが、何故か今回に限って妙に気になって仕方なかった。

気になることは聞くしかない。

「なあ、フレン」

声を掛けると、向かい合った席で料理を口に運んでいたフレンが顔を上げた。

「なんだい、ユーリ」

「おまえさあ」

「ん?」

「おまえ、オレの魅力って何だと思ってる?オレのどこが好きなの」

「は……!?」

ユーリの言葉に反応したのはフレンだけではない。この場には仲間が勢揃いしているのだ。ある者は飲んでいたスープを吹き出しかけ、ある者は驚いて目を見張り、またある者は『やれやれ』といった様子で生ぬるい視線を二人にぶつけた。
フレンはと言えば、顔を赤らめて落ち着かない様子だ。俯いて口元をもごもごさせながらちらちらと周囲を窺う姿が、ユーリには少し意外だった。

「…何赤くなってんだよ」

「な、何って…き、君こそ何なんだいきなり!」

「いや、気になりだしたら止まんなくなったっつーか。おまえからそういうの聞いたことなかったなーとか、まあ色々と…」

「………」

フレンが僅かに表情を曇らせる。が、すぐに困ったような笑みを浮かべながら立ち上がるとユーリの隣へ来てその腕を掴み、半ば強引にユーリを椅子から引き剥がすようにすると、驚く彼女に言った。

「とりあえず、話は部屋でゆっくり聞く」

「え、いや別にそんな大層な話じゃ」

「いいから」

「ちょっ…!?」

腕を掴まれたままフレンに引っ張られて行くユーリを見る仲間達は、呆気に取られてぽかんと口を開けていたりおろおろと落ち着かない様子だったりとこれまた様々だったが、ただ一人ジュディスだけがなんとなく含みのある笑みを浮かべながら、二人の背中を見送っていた。




「で」

さして広くもない宿の一室で、一つのベッドに並んで腰掛けたところでフレンがおもむろに口を開いた。

「さっきの話は何なんだい?」

「何って、そのまんまだけど」

「…僕が、君のどこを好きか、って?何で今更そんなこと…」

「今更…」

そう、今更だった。
存在が近すぎて気にしていなかったが、いつの間にかごく自然に今の関係になっていたような気さえする。『男女のお付き合い』をするにあたって、特に何か言われた記憶がユーリにはなかった。

「…じゃあ逆に聞くけど、ユーリは…僕のどんなところが好き?」

「聞いてんのオレなんだけど…」

「それこそ、僕は君の口からそういう話を聞いた覚えがないんだけど」

「……………そうだっけか」

少し考えてみたが、確かに言った事はないかもしれない。というより、改めて相手のどこが好きかを語るなんてガラじゃない。フレンには聞いておいてなんだが。

どこが、と言われて何か際立つ部分も思い付かず、首を捻るユーリを見てフレンは少し肩を落とし、それから疲れたように息を吐いた。

「…なんだよ…ぱっと出て来なかったんだから仕方ないだろ」

「まあ期待はしてなかったけど…でも僕だって同じだよ。特にここだけが、という話じゃないんだ。君という存在の全てが僕にとっては必要なんだ、それじゃダメなのか?こんなこと、わざわざみんなの前で言いたくない」

「いや…あのな…」

ユーリの手を取って切々と語るフレンに『また真顔でクサいセリフ言いやがって』とややうんざりするも、はたと気が付いたことがあってユーリはフレンに質問してみた。

「おまえ今、全て、って言ったよな。それは嫌いなところはないってことか?」

「え?」

「え、じゃねえよ。普段から言葉遣いが汚いだの身嗜みがどうだの文句ばっかじゃねえか」

「それは別に文句とかじゃなくて」

「そうだよ…オレ、おまえからは小言の記憶のほうが多いんだよな。褒められた覚え、ほとんどねえし」

「いや、だからそれは」

ここにきて甦るのは、最近ジュディスに繰り返し言われているあの言葉だ。

自分自身の魅力。

自覚しろ、と言われてもわからないから聞いてみたが、やっぱりわからない。それどころか、フレンが自分に感じている『魅力』に性格的なものは含まれないんじゃないか。そんな疑念すら生まれてユーリはさすがに不安になった。

普段ならこんな事を考えたりしない。フレンが今の自分と同じことで悩んでいたりしたら、『何言ってんだ』と一蹴したかもしれないのに。

こうなるともう、実際フレンが自分をどう思っているかなどという事はどこかへ吹っ飛んでしまい、ただひたすら『何が自分の魅力なのか』を必死で考えてみる。内面でないなら外見しかない。
多くの男がそうであるように、フレンだって女性の見た目に全く無関心という訳ではないだろう。

「ちょっと、ユーリ?僕の話を…」

そうだ、いつだったか水着を貰ってみんなで着たことがあった。フレンの姿は『水着』なのかどうか微妙だったが、まあ似合っていたのかもしれない。似合っていたと言えば自分以外の女性陣、特にジュディスだ。

布地面積の非常に少ないビキニ、しかも色は黒。

着る人間を選びまくるその水着をジュディスは完璧に着こなし、男性陣のみならず女性陣の視線も彼女の悩ましげな肢体に釘付けだった。

あの時、フレンはどうしていた?

真っ赤な顔で固まりながらもその視線が注がれていたのはどこだったか。
…間違いなく、胸、だった。
それからおそるおそると言った感じで視線が下がり、何を考えたか知らないが大慌てでジュディスから顔を背け、その先にいた自分を見て妙にほっとしたような、そんな笑顔を向けられたのをユーリは思い出していた。

(あん時は大して気にしなかったけど…)

記憶の糸を手繰り寄せた結果、思い出されたフレンの様子が今になってやけに腹立たしい。

「……なんか比べたか」

「は?あの、ユーリ?話が全く見えないんだけど」

「まあそうだよな…目がいくよな、あのデカさだもんな」

「ちょっと、頼むから僕に分かるように話してくれないか」

「おまえさ…普段慎みがどうとか言ってるけど、やっぱ女の身体は好きなんだろ」

「な……!?!?」

「…オレの身体、好き?」

「かっ………!!!?」

全てはユーリの脳内で完結しているので、フレンは全く話の内容が理解できないでいる。ユーリの手を握ったまま、これ以上ないぐらい顔を赤くして口をぱくぱくとさせているフレンを見て、ユーリはいまいち違和感というか、『今更感』が拭えない。さっきといい今といい、フレンの反応がどうにも過剰というか、大袈裟というか、そんなふうに思う。

「わっかんねーなあ」

「だから、なにが!?」

「いや…だってオレらさ、もうとっくにやることヤってるのになんでそこまで照れるってか、恥ずかしがって」

「そういう問題じゃないだろ!?」

「今まで気にしてなかったんだけどさ、おまえオレの身体のどのへんが好きなわけ?」

「人の話を…って、それじゃまるで僕が君のかっ…身体にしか興味ないみたいじゃないか!!」

「違うのか」

「当たり前だろ!?断じて違う!…いい加減にしないと本気で怒るよ」

少しトーンの低くなった声にユーリも言葉を詰まらせた。身体に『しか』、というのは言いすぎたか。
しかし。

「だってさ…なんか自信なくなって来たんだよな…」

「…ユーリ…?」

性格も容姿も、自分より優れていると思える女性は周りにいくらでもいる。普段ならこんなことを気にして落ち込むことなどないのに、今はやけに『フレンに自分はどう思われているのか』が気に掛かる。

フレンがはっきりどこ、と言ってくれない事がますます不安に拍車をかけ、俯いた頬をフレンの指に優しく撫でられキスをされても、心の靄が晴れる事はなかった。


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続く
▼追記