SWEET&BITTER LIFE(拍手文)

元・拍手お礼文
現代パロで、ユーリがパティシエ、フレンが雑誌編集部員のお話。連載中です。




大学を卒業し、今の会社に就職して一年。僕は今日、初めて訪れた店を後にして、頭を抱えていた。


僕の会社は、様々な情報誌を発行している出版社だ。取り扱ってる内容は様々だけど、僕はその中でも地域密着型情報誌を発行している部署に所属している。

仕事内容は営業。といっても別に、自分のところの雑誌を売り歩いてる訳じゃない。
その雑誌に載せるためのお店なんかを取材して、相手先のスタッフさんや店長さんから色々な話を聞かせてもらったり、時には企画に参加してもらえないか持ち掛けたり、まあそういう感じだ。

ちなみに、取材した店舗の紹介記事も自分で書く。あんまり得意じゃないけど。
今日は取材のため、日頃あまり行った事のない住宅街の一角にある洋菓子店へ来ている。

半年前にオープンしたらしい二階建ての小さな店はその地域じゃちょっと有名らしくて、さっきから見ていても客足が途切れる事がない。
若い女性だけじゃなく男性客も結構いて、幅広い支持を得ているのが窺える。

で、その様子を少し離れた路上で見ているわけなんだけど。
なんでさっさと取材に行かないのかと言われると、今回はアポを取ってないからだ。

別にアポなしで取材するのは珍しい事じゃないけど、忙しかったら邪魔する訳にはいかない。相手先の機嫌を損ねたら仕事にならないし。
この店は電話番号を非公開にしているため、こうして直接やって来て、タイミングを計っているという状況だ。

しばらくすると、ようやく客足が一段落したようだ。店内にも人影は見当たらない。

「よし、行くか」

僕はその店に向かって歩いて行った。




「いらっしゃいませ!」


入口の扉に取り付けられた鐘が来客を告げると同時に、店員の女の子の軽やかな挨拶が僕を迎えてくれる。
明るい笑顔の、感じのいい子だ。男性客の目当てはこれかな。

「あの、お忙しいところすみません。僕はこういう者なんですが」

女の子に名刺を渡す。

「…えと、雑誌社の方、です?」

小首を傾げる様子が可愛らしい。

「はい。こちらの評判を聞いて、是非お話をお伺いしたいと思いまして…。もしお手すきでしたら、責任者の方にご挨拶させて頂けたら、と」

「は、はあ。あの、少しお待ち頂けます?ちょっと、聞いてみますから」

女の子がカウンター裏に姿を消し、僕は店内を見渡した。
少し小さめのショーケースに並ぶケーキ類は、見た目の派手さはそうでもないが、比較的安めの価格で、まだ昼過ぎだというのに残りわずかしかない。
人気のほどがよくわかる。シンプルなディスプレイの棚には可愛らしくラッピングされた焼き菓子が並び、奥には喫茶スペースだろうか、テーブルが二席ある。
小さいけど、なんか暖かい感じがしていいな。

そんなことを考えていると、さっきの女の子が戻って来た。
そして、後ろにもう一人。

その人の姿に、僕は釘付けになっていた。


白いコックコートに映える、黒髪。後ろでひとつに結ばれた長い髪は、僕が知っているどの女性よりも美しく、艶やかだ。

整った鼻筋、意志の強そうな薄紫の瞳。こちらを見るその顔から、目を離せなかった。


「おい?」

美人だなあ。この人が店長さんなのかな。

「おい、ってば」

背も高いなあ。モデルさんみたいだ。いや、下手なモデルより断然、綺麗だ。

「………」

男性客の目当てはこの人のほうなのかな。彼氏とかいるのかな。いるよなあ、こんな美人、男ならほっとかないよな。

「おい!!!」

「は、え、はいっっ!?」


目の前の美人に見とれていた僕は、男性の怒鳴り声で現実に引き戻された。
思わずきょろきょろと辺りを見るが、この場にいる男は僕一人だ。

「あ、あれ?」

目の前の女性二人が、まるで不審者を見るかのような目つきで僕をじっとりと睨みつけている。
と、黒髪の綺麗な人がおもむろに口を開いた。

「大丈夫か?あんた。用があんならさっさとしてくんないかな。オレ、忙しいんだけど」


……え。
目の前の「女性」から発せられた、顔に似合わず低い声に、自分の耳を疑う。

まさか。

「あ、の」

「どっか具合でも悪いのか?なんか顔色、良くねえけど」

間違いない。これは、女性の声じゃない。
そう思った瞬間、僕は思わず大きな声を出してしまっていた。


「お、男っっ!!?」

「…………帰れ」


地の底から響いてくるような凄みのある声に、僕は冷や汗を流しながら先程までとは別の意味で固まった。




僕に背を向けた「彼」に土下座して謝り倒し、なんとか話を聞いてもらおうと必死の姿を哀れに思ったのか、最初に迎えてくれた店員の女の子がとりなしてくれたおかげで、とりあえず時間を割いてもらえることになった。


「フレン、ね」


喫茶スペースのひとつに案内されて向かい合わせに座る僕の名刺をいじりながら、彼は全く僕と目を合わせてくれなかった。
そりゃそうだ。女性に間違われたことに、相当腹を立てていたから。

「オレはユーリだ。んで?いきなり何の用?」

ユーリ、か。名前の響きも綺麗だなあ。

「…おまえマジで大丈夫か?」

「はっ!?あ、すすすいません!!」

「…………」


僕は今日、ここへ来た理由を簡単に説明した。
僕の話を彼は黙って聞いていたけど、相変わらず目は合わせないままだ。
うう、完全に嫌われたかな、これは。


「…という訳で、是非紹介させて頂きたいんですけど…」

「却下」

「え、そんないきなり!」

「そっちこそいきなりだろ。オレは別に、うちの店を雑誌とかに載せる気ないって言ってんの」

取材を断られることは珍しくない。でも僕は、何故かこのまま引き下がることができなかった。
普段だったらまた日を改めて、とか言って帰る状況なのに。

「今回の特集は若い女性向けで、掲載すれば必ず集客に効果があります!お店をたくさんの人に知ってもらう絶好の機会だと、自信を持ってご案内できます!」

必死で説明する僕のことを、ここに座ってから初めて彼が正面から見据えた。
でもその表情は相変わらず厳しいままで、僕の話を好意的に受け取っていないことが分かる。


「集客、か」

「はい!」

「…あんたさ、うち来るの初めてだろ」

「え?はい、最近になってこちらの評判を耳にして」

「そんなことはどうでもいいんだよ」

「え?…あ、ちょっと待って下さい!!」

いきなり席を立った彼を、慌てて追いかける。
彼はショーケースからいくつかケーキを取り出して僕に渡すと、腕組みをして何事か考えている。

「あのっ、」

「とりあえず、土産やるから今日はもう帰れ。オレは今からまだ作業が残ってるし、はっきり言って邪魔だ」

「………!」

邪魔、と言われて、何故か僕は胸が締め付けられるように苦しかった。
でも確かに、これ以上は迷惑になる。いや、今までだって迷惑だったんだろう。

「…すみません、ご迷惑おかけしました。失礼、します」

「…………」

お辞儀をした僕に、彼は何も言わなかった。




「はああぁー…」

僕は盛大にため息を吐いていた。頭を抱えていたのはこういう事情があるからだ。
アポなしだったというのもあるが、何より自分の失礼な態度のせいでろくに話を聞いてもらえなかったのがツラい。
それなのにお土産までもらってしまって。


「どうしよう、かな…」


とりあえず会社に戻ってから考えよう。

僕はとにかく落ち込んでいた。






ーーーーーーーー
続く




続・好奇心に勝てなくて(※)

「好奇心に勝てなくて」の続編です。微裏ですのでご注意を。






フレンとユーリは幼なじみで、親友だ。
いや、親友だった。ついさっきまでは。



「はー、さっぱりしたー」

シャワーを浴びたユーリが、頭にタオルを乗せたままバスルームから出て来た。

「ユーリ、ちゃんと髪拭きなよ…ああもう、床がびしょびしょじゃないか!」

フレンは自分もシャワーを浴びるために着替えを用意しつつ、ユーリの足元に新しいバスタオルを投げつける。

「へいへい、すんませんね」

床に落ちたタオルを手に取って、ユーリは勝手に冷蔵庫を物色し始めた。



ここは二人の通う学校から程近いアパートで、フレンはここに一人で住んでいる。
子供の頃はこの街に住んでいたが、引越したためユーリとも離れ離れになっていた。
この街の高校に通うことになったため、家族のもとを離れて一人暮らしをしているのだ。

ユーリとは高校の入学式で再会した。
以来三年近くの間、彼らは「親友」として付き合っていたのだが、ほんの数時間前から、その関係は全く別のものとなった。


「あ、ちょっとユーリ、紙パックから直接飲むなよ!」

「いいじゃん別に…今さら」

どことなく含みのある言い方をしつつ、ユーリはフレンに近づく。

「間接キスどころじゃないやつ、散々しただろ…?」

「…ユーリ」

上目遣いでにやりと笑う姿に我慢できず、フレンはユーリの身体を抱き寄せ、唇を重ねた。
ユーリの唇から、今さっき彼が口にしていた牛乳の甘い味がする。

「んっ…」

ユーリの腕はフレンの首に回され、掌で金色の髪を撫でながら、フレンの頭を自分に押し付けるようにしてくる。
もっと深いキスをねだっているかのようだった。

「んん…ふぅ、っん…」

鼻にかかる、可愛らしい声。キスの際にユーリが漏らすこの声にフレンは弱い。

「っん、ユーリ、だめだよ」

唇を離すと、ユーリはあからさまに不満げな顔をした。

「…なんでだよ」

「僕はまだシャワーを浴びてない」

「いいじゃん、後でも」

「だめだよ。ほら、離して」

腕を取って身体を離すと、ユーリはぶつぶつ言いながらもリビングへ戻り、ベッドに寄り掛かるようにして座りながら傍らの雑誌を手に取って読み始めた。

「さっさと出てこいよー」

「はいはい」

よっぽど僕とキスするのが好きなんだな、と思うと自然と顔がにやけてしまい、フレンはそれをユーリに悟られないよう、慌ててバスルームに向かったのだった。


つまりは、そういう関係だ。
二人は「幼なじみで親友」から、「男同士だけど恋人」になった。

きっかけはとある漫画だった。男性同士の恋愛、しかもセックスを描いたそれによってフレンは自分のユーリに対する想いに気付き、また信じられないことにユーリもフレンに対して好意を持っていた為、めでたく結ばれたのであるが。



「漫画よりよっぽどすごいこと、したような気がするなあ…」


シャワーを浴びながら、フレンは数時間前のユーリとの行為を思い出していた。

放課後の生徒会室の、机の上。
長い髪を振り乱しながら快楽に喘ぐユーリの、淫靡な肢体。
身体を繋げた時の、切なく歪んだ表情。

まさか本当に、ユーリとあのようなことが出来るとは。

自分に抱かれるユーリの姿は、漫画よりも、己の妄想の中よりも、何倍も艶めいて、何よりもその「熱」が、これが現実だと感じさせてくれた。


「…あ、やば」


気が付けばフレンの下半身は、完全に元気になっていた。





「遅えよ!!」

バスルームから出るなりユーリに怒鳴られ、フレンは慌てて謝っていた。

「ご、ごめん」

「まったく…。オレ、腹減ってんのにずっと待ってたんだぜ?」

テーブルには一度温めたらしいコンビニ弁当が並んでいる。

「ごめん、温めなおしてくるから待っててくれ。飲み物、牛乳でいいか?」

「ああ、構わねえよ」





「で、風呂で何やってたんだよ」

「…はい?」

食事中、テレビを見ながら普段通りの会話を交わしていたため、食べ終わると同時にそのようなことを聞かれ、フレンは少々間の抜けた返事をしてしまった。

「何って…何も」

「へえ?それにしちゃあ随分と時間かかったじゃねえか」

シャワーを浴びる前、キスをする前と同じ表情で、ユーリがフレンの顔を覗く。

ユーリが自分に何を言わせたいのかは分かっているが、素直に言ってやるのも癪な気がして、フレンはユーリを見つめ返した。

「なんだよ、言えないようなこと、してたのか?」

「さあ、どうだろうね。ユーリは僕が何をしてたと思ってるんだ?」

「そうだなあ…」

ユーリがにじり寄って来て、フレンの股間に手を伸ばす。

「昼間のことを思い出して、右手と仲良くしてた、とか」

「っ、う…」

軽く擦り上げながら身体を寄せて来るユーリの顔は微かに朱く染まり、見上げる瞳は情欲に潤んでいる。


反則だ、とフレンは思った。
好きな人にこんな様子で迫られて、反応しないほうがおかしい。

「正解?」

「…当たり、だよ」

「すげえな、おまえ。昼にヤって、さっき風呂で出したばっかなのに、もうこんな固くしてさ」

ユーリの手は先程から止まることなく、ズボンの上からフレン自身を擦り続けている。

「ユーリがいやらしい触り方、するからだろう」

「そうか?どんな触り方しようが、勃たねえもんは勃たねえよ。おまえは、まだいけそうだけど」

「…いけそうかどうか、試してみるかい?」

「そうだな…。今度はオレが、してやるよ」


ユーリは口角を上げて小さく笑みを浮かべ、フレンをベッドに押し倒した。





ーーーーー
続く
▼追記
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