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どんな姿も好きだから

ユーリ女装シリーズ第2弾です。










オレは今、帝都ザーフィアスの城に住んでいる。

正確には、「期間限定」で住み込んでいる、と言ったほうがいいか。
理由は…あまり、話したくない。
というか、できれば知り合いには絶対会いたくない。
…そんな状況だ。





星蝕みの驚異が去り、世界は平和になったが、魔導器は使えなくなっちまった。
まあ原因はオレ達にあるんだが、とりあえず今は説明は割愛させてくれ。
話すと長くなるんだ。

で、魔導器が使えない、ということは、強力な術技が使えなくなった、ってことだ。本人の実力がモノを言うわけだな。

あの戦いの後、フレンは騎士団の団長に就任した。
オレもギルドを続け、お互い忙しい日々を送っている。

フレンは騎士団の再編で大変みたいだった。
まあ仕方ないよな。
でもあいつがトップなんだ。絶対大丈夫だとオレは思ってる。

そういや、フレンが団長になってから、異常なまでに騎士団への入団志望者に女が増えたらしい。
まあ…わからないでもないけどな。

それで今度、女だけの隊を作ることになったとかで、何故かその件についてオレはフレンに呼び出された。
オレに何の関係があるってんだ。

まあ、仕方ないから呼び出しには応じたんだが。
またそこで、オレはとんでもないことをやらされるハメになった。
城に住み込んでるのはそのせいだ。








「女性新人隊員への実技指導だあ?」


フレンから示された依頼内容に、オレは素っ頓狂な声を上げた。

指導。
オレが?騎士に?
冗談きついぜ。

だがフレンは大真面目な面で話を続ける。

「ああ。騎士団には今、彼女達を指導できる人材がいなくてね」

「いない、って…んなわけねえだろ。他の隊の奴とか、いくらでもいるだろうが」

「まあ…そうなんだけど」

「なんならおっさんにやらせろよ。大喜びで引き受けてくれるだろうぜ」

確かおっさんは、騎士団のほうでも仕事してたはずだ。
だがオレの言葉に、フレンが渋い顔をする。

「いや、レイヴンさんは、ちょっと…」

「あん?何で」

「…まだ『シュヴァーン隊長』ならいいんだけど…その、あの人を女性だけのところに放り込むのは問題が」

…信用されてねえな、おっさん。

「せっかく希望を胸に騎士への道を志してくれた彼女達を、いきなり失望させるわけにはいかないだろう」

「…おまえ…容赦ねえな…」

「と、とにかく!ユーリならそんな事はない、と僕は思うんだ」

「…そりゃどうも」

信頼されてんのはいいが、男としてはなんか微妙だ。そんな女だらけのところで、何かないとはオレだって言いきれない。
なんだよ、オレだって健康な男なんだぞ。

「それに、騎士団もまだゴタゴタしているし、僕も人材の把握ができてない。ヘタな人物に指導を任せてもし何か間違いがあったりしたら、大問題になる」

「それでオレ?てか、根本的に無理があんだろ。オレはギルドの人間だし、城の中にはオレを良く思ってない奴らだっているんだぜ。そんな中をうろちょろできるわけねえだろ。ましてやそんな仕事、目立ちすぎるわ」

「ギルドの話なんだが、一応カロルには依頼として説明した。ユーリを借りる許可はもらったよ」

「はあ!?なんだよそれ、事後承諾かよ。オレの意思、関係ねえじゃねえか!」

そんな話、一切聞いてない。
依頼ったって、フレンの個人的な頼み事だと思ってたのに。
ギルドとして依頼を受けちまったら、逃げ場がない。

「カロルには事情を説明しただけだよ。受ける、受けないはユーリが決めていい。でも、僕はユーリに引き受けてほしい…というか、多分ユーリにしかできない」

フレンが何故か顔を赤らめた。
なんだ?なんか照れるようなとこあったか?今。
しかしカロルに話が行ってる以上、もう断るほうが面倒だ。断ったら、絶対あとで追求される。

「仕方ねえなあ…。わかった、やってやるよ」

「本当か!?ありがとう、ユーリ!!」

オレの両手を握りしめ、溢れんばかりの笑顔で喜ぶフレンに、オレは苦笑するしかなかった。





「でもどうすんだ?オレ、さっきも言ったけどあんま城の中、うろちょろしたくねえんだけど」

「君は僕の知り合いということにする。さすがにギルドのメンバーに騎士の育成を頼むとなると、うるさい奴らもいるからね」

「知り合いって、まんまじゃねえか」

「だから、…その、変装してもらって、別人ということで紹介する」

「……変装、ねえ」

ますますもって面倒だ。やっぱ引き受けるんじゃなかったか。

そんな事を考えているオレを、フレンはチラチラと落ち着かない様子で伺っている。
…なんだ?
なんか嫌な予感が…

「さっきも説明したけど、隊は女性のみだ。間違いはあってはならない」

「はあ」

間抜けな返事をするオレに、フレンが説明を続ける。

「ユーリのほうにそのつもりがなくても、相手がそのつもりになってしまう可能性は低くない」

「……何が、言いたい…?」

背中にひと筋、冷たい汗が流れた。まさかとは思うが。


「ユーリには、指導をする間、『女性』として生活してもらう」

「お断りだふざけんなバカ野郎!!!」


オレはフレンの座る机を力一杯叩きつけ、奴に詰め寄った。

「なんでオレがそこまでしてやんなきゃならねえんだよ!?そんなに不安ならおまえがやりゃいいだろうが!!」

「それが出来ればやってるよ」

「ああ?女装する覚悟だったってか?」

「僕がそんなことする必要ないだろ。毎日その為の時間を作る余裕がないんだ」

必要ない、ときたか。そりゃそうだが。

「頼むよ、ユーリ。君にしかできない」

「どっかの演劇ギルドのやつみたいなこと言ってんじゃねえよ。絶っっ対、お断りだ!大体、すぐバレるに決まってんだろうが!」


するとフレンは椅子から立ち上がると、オレの隣に来て真剣な表情になる。
と、オレの肩を掴んで真正面から見つめてきた。

…う、落ち着かない。

そしておもむろに口を開くと、妙に自信たっぷりに言い放った。

「大丈夫、ユーリならバレない」

「………あの、な……」

もはや何からツっ込めばいいのかわからず脱力したオレに、フレンは女物の騎士服を手渡すとニッコリと笑って部屋の奥の扉を見る。

「とりあえず、着替えてみてくれ。それであまりにも似合わないようなら、その時また考えよう」

「……………」

似合う似合わない以前の問題だと思うんだが…。

オレはなんだか前にもこんなことがあったな、と思いつつ、重い足取りで奥の部屋へ向かった。
…結局、断りきれねえんだよな…。






「…なんだかな…」

妙な既視感を覚えつつ、オレは鏡に映る自分の姿を見ていた。
前にも、自分を見てこんな気分になった事がある。

星蝕みを倒す前、ナム孤島で。
よりによってドレスを着るハメになったオレは、情けない気持ちでいっぱいだった。

いっそ似合ってくれなくていいんだが、自分でも微妙に否定しきれない。
しかも周り中からは大絶賛され、フレンに至っては大真面目な顔で「綺麗だ」とか言いやがった。
まあ今回は騎士服だし、綺麗とかはないだろうが。

上半身だけ見てるぶんにはいいが、下は短いスカートだ。インナーは穿いてるが脚も全部覆われてないし、何よりガーターベルトが鬱陶しい。

てか前回同様、胸はまっ平らなわけだし、女装の意味、ホントにあるのか…?


「ユーリ、まだか?」

扉の向こうからフレンが呼び掛けてきた。
ああ、これも前と同じだ。

「…今行くよ」

ため息混じりに言うと、オレは扉を開けて部屋を出た。






「ああ、やっぱりよく似合ってるよ」

笑顔満面で言うフレンに、オレは無性に腹が立った。
やっぱり?確信犯じゃねえか。
もし似合わなかったら、なんてよく言うぜ。

「…なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「え?」

「オレで遊んで楽しいか?そんなにオレが嫌がってんのが嬉しいのかよ」

「…そういうわけじゃないけど」

「けど?けど、何だってんだ」

はっきり言って、オレはキレる寸前だ。いくら仕事だからって、何でこんな格好ばっかしなけりゃいけねえんだ。
しかも今回はフレン直々ときた。親友だと思ってる相手を、わざわざ恥ずかしい目にあわせたがる理由がわからない。

「…ごめんユーリ、別にからかってるわけじゃないんだ。本当に似合う、って思っただけだよ」

「それが嫌だって……!」

怒鳴りつけてやろうとした瞬間、フレンの両手がオレの顔に伸びてきて、思わずオレは身構えた。

するとフレンはそのままオレの髪をまとめて頭の高い場所で手を止める。

「うん、髪は上げたほうがいいな」

「っ、なっ」

予想外の行動に固まるオレを見るその笑顔には嫌味なところなんか全くなくて、何も言えなくなってしまった。
…この前といい、どうしても怒ることができなくなる。
どうかしちまったのか、オレは…。


「とりあえず、ユーリが使う部屋に案内するよ。細かい話は、また後で」


オレは、もうどうにでもなれ、と半ば投げやりになりつつ、フレンの後に続いて部屋を出た。






ーーーーー
続く
▼追記
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