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無自覚恋戯(翼鳳)


不思議。そう、不思議だ。
なんで真宮さんはいつも六道のことを気にかけているんだろう?
俺からすればあんな奴、貧乏で髪が赤くて根暗でちゃっかり者で貧乏なイメージしかない。入学した頃からあのジャージで過ごしているらしいし、しかも住んでいる所は使われていないクラブ棟だし、親父はロクデナシだし。
ライバル意識があるからか、余計に奴の短所にばかり気を取られてしまう。
ほら、また。




「六道くん、ここ分かる?」

「いや…さっぱり」

「…てゆーか、教科書ないなら見せるよ?はい、」

「え、あ。すまん」




いくら隣の席だからって、真宮さんに近付き過ぎじゃないか六道…!しかもまたちゃっかり教科書なんて見せてもらいやがって!教科書くらい買えんのか!?机をくっつけるな貴様ぁぁ!!!!
ミシリと手に持ったシャーペンが音を立てる。授業中は常にストレスが溜まり、苛々して仕方ない。
チャイムが鳴り、少し気分転換でもしようと俺は教室を出た。
なんだか今日は邪魔をする気力が起きないな。




「やっぱり…真宮さんは六道のことを……いや、まだ望みを失ったわけじゃない!あいつには鳳がいるはずだし──」

「何が?」

「え」

「今あたしの名前、呼んだでしょ。なに?」

「と、突然現れるなっ!心臓に悪いだろ!!」




後ろを振り向くと、大きな鎌を持った鳳が目を丸くして立っている。こいつはいつも神出鬼没だ。
振り切って中庭に行こうとしても、鳳は興味津々に付いてくる。俺の代わりに六道と真宮さんの仲が深まらないように邪魔してきてくれればいいのに、なんでこういう時ばかり…。
ひそひそと周囲のざわつく声に、そういえばこいつは普通の人間には見えないんだと気付く。




「ちょっとぉ。聞いてんの、十文字!」

「…別に何もない。さっさと六道の所に行ったらどうだ」

「フン、言われなくてもそうするつもりよ」

「一応聞くが、そのでかい包みは弁当か?」

「あ、あげないわよ!りんねに食べてもらうんだから!」

「いらん。さっさと行って来い」




溜め息をひとつついて、俺はまた中庭に向かう。今度は鳳が付いて来ている気配はない。しかし、霊道ってどこにでも通じてるんだな。
ついと賑やかな校舎を見上げ、僅かに紅葉し始めた木の葉を眺めた。
秋になるとセンチメンタルになるっていうのはあながち間違いではないかもしれない。真宮さんの笑顔を思い出すとき、なぜかその隣にいるのは俺じゃなく六道で。
どうして、俺じゃないんだろう。
どうして……。



「はー…、」



俺が転校してくる前、あの2人に何があったのかはわからない。付き合ってはいないみたいだけれど、友達であるとは言い難いだろう。六道が真宮さんを好きなことは明らかだ。真宮さんの方は…よく、分からない。
誰かを想って想われたい。それは誰もが思うことだ。
必ずしも互いが同じ気持ちでいるとは限らないから、気持ちを伝えても応えてくれる保証はない。
難しいな、恋愛は。
鳳はちゃんと六道に弁当を渡せただろうか?




「もうサイアクー!あっ、聞いてよ十文字!りんねの黒猫が突然出てきてね、あたしの作ったお弁当ひっくり返しちゃったのよ!」

「…元気だなぁお前」

「何言ってんの!?怒ってんのよあたしは!」

「怒るくらいの元気があるだろ、少しは落ち着け」

「だ、だって、せっかく作ったお弁当〜!!」

「泣くなっ」

「泣くわよ!」




よほど弁当を食べて貰えないことがショックだったのだろう。または、自信があったのか。
どちらにしても以前見た鳳の弁当は"素材そのまま"なところがあったし、今回も期待するようなものでもないことは確かだと思うがな。
反対に真宮さんの弁当はいつも美味しそうだし、あんなのを毎日作ってもらえたら幸せだよな。いや、毎日じゃなくてたまにでもいいけど、真宮さんの作った弁当をいつか貰いたいものだ。




「鳳」

「うぅ、なによぉ〜」

「泣くとブスになるって知ってるか」

「!うるさいっ、バカ!」

「いでっ!な、泣きながら殴るな!!本当のことだろう!」

「言っていいことと悪いことがあるでしょ!女の子が泣いてるのにフツーそんな事言わないわ!」

「そ、そりゃ悪かったな」

「………がんばった、のよ、あたし」

「……」

「見た目は…あんまりよくなかったけど、味は…味も…あんまり美味しくないかもしれないけど、がんばったの」




結局、見た目も味もダメだったことに変わりはないのか。
どこからその根拠のない自信が溢れてくるのか、転校したての頃の自分を思い出す。真宮さんに好きだと告白して、まずは友達から、と言ってくれて、些細な事で舞い上がっていたあの頃を。
鳳が自分なりに一生懸命考えて行動してるっていうのに、俺は一体何をやってるんだ?




「鳳、お前って意外とすごいな」

「…なにが」

「お前の強気なとこ、俺も見習うよ」

「十文字?急に何言ってんの?」

「めげずにまた六道に弁当作って来い、俺も協力してやる」

「なに、突然。あんた熱でもあんの?そんなこと言うなんて気持ち悪っ」

「思ったから言ったまでだ。その代わり、お前も俺に協力しろよな」

「……そっか、そういえばあんたは真宮桜が…」

「お互い、条件としては悪くないだろ」

「一理あるわね」




ガシッと固く交わした握手。
お互いの恋を叶えるためにやれることはやり切ろう。




「あ、言っておくがな。万が一お前が俺より先に成就した場合でも協力しろよ」

「細かい男ねー、わかったわよ。あんたこそわかってんでしょうね?」

「当然だ」

「そ。じゃあお互い頑張りましょ」

「ああ。頼むぞ」

「念押ししなくていいっつの!」

「す、すまん」

「わかったならよろしい」




にこっと笑った鳳は、なかなか可愛いことに初めて気付いた。
六道は何故気付かないんだ?
真宮さんがいつも六道のことを気にかけているのも不思議だが、鳳の魅力に気付かない六道も不思議だな。
ふと、鳳がじっとこちらを見ているのに気付く。




「なんだ?俺の顔、なんかついてる?」

「う、ううん!別に?」

「?」

「(…黙ってればなかなかかっこいいのに、真宮桜はなんで十文字のこと好きにならないんだろ)」




睨んでるのかそうじゃないのか、鳳は唸りながら何か考えているみたいだ。こいつも六道なんかのどこがいいのか。
どうしてこんなことが気にかかっているんだ?
…不思議だよな。







end
翼鳳を普及してみ隊^^←

焦がす胸に降る秋雨(乱あ)


「なによ!」

「なんだよ!」

「ついてこないでって言ったでしょ!?」

「オレもこっちに用があんだよ!なんでてめーまで来んだっつの!」

「あたしのセリフよ!」




信じらんない。
今日も学校ではシャンプーと右京と小太刀が大暴れして乱馬にお弁当を食べさせて帰っていった。もちろん嵐のごとく。
思わず八つ当たりしそうだから、頭を冷やして帰ろうと少し遠回りして歩いていたのに、なぜかこのバカはあたしの後ろを歩いている。さっさと帰ればいいのに、帰ってくれないから、つい喧嘩腰になって言葉がトゲトゲしくなる。
こうなりたくなかったから、わざわざ遠回りしてたのに。
察しなさいっての!




「大体、あかねが寄るところなんて本屋くれぇだろ」

「そうね。あたしは乱馬みたいに普段はあまり寄り道しないから」

「オレが寄り道ばっかだってか」

「当たり前でしょ」

「言っとくがオレはシャンプー達が勝手に追いかけてくるから逃げてるんだぞ」

「逆に追いかけられなかったら、あんたは追う奴なのよね」

「そ、それは……」

「あんたがどーゆー人間かは、もう分かってるから。あんたもあたしがどーゆー人間か分かってるでしょ。だからしばらくほっといて」

「…まーたヤキモチか?」

「うるさい。ほっといてって言ったでしょ、バカ」

「へーへー」




ヤキモチ?そうね、ヤキモチなのかもしれないわ。乱馬の前では絶対肯定なんてしてやらないけど。
あたしが不器用なのは事実だし、あたしがシャンプーや右京に勝っているところなんてあるのかしら?九能先輩はあたしを好いてくれてるようだけど、自分のどこに魅力があるのかよく分からない。
本屋に入ると、乱馬はそのまま商店街の中に消えた。




「…なんなのよ、あいつは」




気を取り直し、ふと参考書のコーナーを見る。そう遠くないうちに進路を決めなければならなくなることを考えると少し憂鬱だ。あたしは将来何をしたいのかな。毎日が慌ただしくて、考える暇がない。否、それを理由にして考えないようにしてる。
本屋内を一周し、料理雑誌を一冊手に取った。作ってみたいと思っても、本のようにはいかないのよね。大体、こういう雑誌や本が役に立った例がない。
棚に雑誌を戻し、私は自分の欲しかったハードカバーの小説を一冊買った。




「………帰ろ」




本屋で気分転換が出来るかと思ったのに、心の中のもやもやしたものがずっしりと重たい。
賑やかな商店街を抜ければ、静かな道に川の流れる音が聞こえてくる。橋の上から暫く川を眺めていると、次第に雨が降り出した。
今日はなんだかついてない。乱馬とケンカするなんていつものことなのに開き直ることが出来ないし、シャンプーや右京に立ち向かう勇気も出なかった。気を抜けば、すぐ不安になる。




「…─あかね!」

「………?」

「おめー何してんだよ、雨の中」

「…何だっていいでしょ。さっきほっといてって言ったはずよ」

「あかねが風邪引いたら、オレが怒られんだろ」

「引かないからほっといて」




ひとりにして。乱馬のこと、考えたくない。考えられない。わがままに意地を張るのはもうあたしの癖だ。
髪から滴る雫が服を濡らした。
傘をさす乱馬は呆れたように溜め息をつくと、あたしに傘をさしかけた。しとしと降る雨が、今度は乱馬を濡らす。




「いつまで拗ねてんだよ」

「拗ねてないわ」

「じゃあなんでそんなに不機嫌なんだっつの」

「ただの自己嫌悪ね」

「オレに八つ当たりしてんのかお前」

「したくないから1人にしろっつってんでしょ」

「………」

「あたし、傘いらないから。らんまが風邪引いちゃうよ」

「…〜あのさ、」

「なに」

「そんなに、気ぃ使うなよ」

「は?別にあんたなんかに気なんか使ってないわよ。ただ、…自分が子供みたいで嫌なだけ」




あたしがもっと器用で、おしとやかで、かすみおねーちゃんみたいな人だったら、乱馬はシャンプーや右京より、あたしを見てくれるのかな。
あたしがもっとクールで、状況判断がすぐ出来て、物事をテキパキこなせるなびきおねーちゃんみたいな人だったら、あたしは魅力的になれるのかな。
シャンプーみたいに、右京みたいに、小太刀みたいに、もっと積極的だったら……。
羨ましいんだ。あたしにはないものばかり。みんなよりあたしは劣っているんじゃないかって、焦ってしまう。




「…んな事で悩んでたのか?」

「悪かったわねっ」

「いや…おめーにもそういうところあんだな」

「え……」

「さっさと帰ろーぜ、腹減った」

「ちょ、ちょっと!あんたの用事は何だったの?」

「んー?買い物」

「?何買ったのよ」

「これ」

「………」




らんまは傘を指差してにかっと笑うと、あたしの手首を掴んで歩き出した。あたしも折りたたみ傘持ってるのに、わざわざ買ってきたの?
いつもより小さい手だけど、しっかり掴まれた手首は振りほどけない。
羨ましいよ、らんまも。




「い、一応言っとくがなあ!その、何かよくわかんねーけど……あかねが、あ、焦る必要なんかねぇんだからな!」

「え?どういう意味?」

「ど、ど、ど、どういう意味って…そのまんま、だろ」

「ハッキリ言いなさいよね」

「るっせぇ!お前が元気ねーと調子狂うんだよ!バーカ不器用寸胴おん…っでぇ!?」

「あんたの方がうるさい」




条件反射で殴ったあたしに、らんまはぶつくさ言いながら頭をさする。
だけど横目で見たらんまが、少し安心したような、嬉しそうな顔をしてたのは、きっとあたしの気のせい。もう少し自分に自信が持てるようになったら、こんな些細な嫉妬もしなくなるかしら?
あたしが胸を張って、乱馬の許婚だと言える日はくるかしら?
開き直るとかヤケになってじゃなく、真剣に乱馬と一緒になりたいって思える日はそう遠くないのかしら?




「あかね」

「ん?」

「機嫌、直ったみてーだな」

「…そうでもないわよ」




素直になんて簡単になれやしないけど、絡めた指先から伝わる体温はとても心地良く、あたたかい。






end.

メルティ・キス(りん桜)


涼しい風の吹く夕暮れ。
依頼もないし、腹も減ったし、やる気が出ない。オレは屋上で寝転がり、ぼんやりと空を眺めていた。




「あ、ここにいたんですかりんね様」

「……六文」

「ぼく、今夜は定例会があるので遅くなりますから。…りんね様、十文字に負けないよう頑張って下さい!」

「は?」

「昇降口の所で、桜さまが十文字と一緒にいましたよ」

「………そうか」

「ちょ、りんね様!妨害しに行かないんですか!?十文字の奴、絶対桜さまと一緒に帰ろうとしてますよ!」

「真宮桜が決めることだろ」

「も〜…少しは自分から行動しましょうよ…。じゃあぼく、定例会に行ってきます……」

「ああ…」




霊道の中に六文が消える。
オレはゆっくり立ち上がって、屋上から昇降口の辺りを見下ろした。そこには六文が言った通り、真宮桜と十文字の姿。
ちくり、と胸が痛んだような気がしたが、オレは真宮桜にとってただのクラスメートでしかない。事実、彼女はそう言っていた。ショックを受けたのは、自分が思っていた以上に真宮桜に惹かれていたから。言葉に出来なくても、近くにいるだけで精一杯だ。
意識すればするほどぎこちなくなるんじゃないだろうか。
ふいに、上を見上げた真宮桜と目が合ったような気がして、オレはその場に座り込んだ。



「……っ」



目、合った、よな?
十文字は気付いていないようだったが、間違いなく真宮桜には気付かれた気がする。
…だが、鞄も持っていたように見えたし、これから帰るんだろうな。
"自分の家"との縁が既に遠いせいか、去年までおじいちゃんと住んでいた家が懐かしい。家賃が勿体なくて引き払ってしまったが、あそこはもう新しい人が入ったのだろうか。
少し、寂しさを感じた。
空は夕焼けで朱く、東の方は藍色に染まっている。

ガチャン、屋上の扉がそっと開いた音がした。




「あ…やっぱり六道くんだった」

「…真宮桜…」

「何してるの?」

「え……あ、ああ。空を見てた」

「空?」

「うん」

「……ほんとだ。今日は晴れてたから、すごく綺麗だね。いつものベンチで見るより雲が近く感じるよー」




傍らに立ち、空を見上げている真宮桜をそっと盗み見る。
十文字はどうしたんだ?1人でここに来たのか?オレが、いたから…?
……聞けたら苦労しないな。
自問自答して、苦笑する。六文の言うことはもっともだ。オレはいつも他人と向き合うことを躊躇う。

真宮桜と出逢った時も、オレが人間と死神のクォーターで、幽霊をあの世に導いているなんて信じてもらえるなんて思わなかった。
オレなんかを気遣って弁当を作ってくれたり、仕事を手伝ってくれるなんて思わなかった。
だからこそ、おやじが堕魔死神で、あんなロクデナシだなんて知られたら、真宮桜は離れていくんじゃないかと不安だったんだ。
それでも、今こうして側にいてくれるのは何故?




「………この時間が、一番景色が綺麗に見える」

「そうなんだ?確かにすごく綺麗。夕暮れに屋上来たの初めてだから、なんか嬉しいな」

「十文字と帰らなくて良かったのか」

「うん、大丈夫」

「……」




何が『大丈夫』なんだ?
真宮桜の横顔が、大人っぽく見えて一瞬どきりとする。




「今六道くん、『何が大丈夫なんだ?』って思ったでしょう」

「え」

「…なんか、まだ家に帰る気分にならなかったの」

「?」

「そーだ。今日リカちゃんからマシュマロ貰ったの。2つあるから1つ六道くんにあげるよ」

「あ、ああ…。何かあったのか?真宮桜がそんなこと言うなんて珍しいな」

「ん…ちょっとママとケンカしちゃって…。大したことじゃないんだけど、気まずくてさ」




家族とケンカなんて、オレはしょっちゅうだな。
そう言うと真宮桜は笑った。家庭の事情はそれぞれ違うから、真宮桜の悩みもオレには解決できないかもしれない。だけど、家族が近くにいることが羨ましくも思えた。
だからと言って、あのおやじと住むなんてのはごめんだが。
真宮桜でも、家族とケンカなんてするんだな。なんだか少し意外な気がした。




「…あまり遅くなると心配するんじゃないか?」

「あと10分」

「………」

「そういえばさ、マシュマロって唇に押し当てるとキスしてる気分になるんだって。ミホちゃんが言ってた」

「は?」

「ホントかどうかわからないけどね。…あ、このマシュマロおいしー」




ぱくっとマシュマロを口の中に放り込み、真宮桜はオレの隣に腰掛け空を見上げている。
好奇心が少し疼き、マシュマロを包装から取り出して、そっと唇に押し当ててみる。本当にこれがそうなのか?確証がないからわからない。
そもそも……無意識なのか誘われてるのか、判断の難しいところだな。
愛しい、と思う気持ちは以前よりずっと強い。誰かに取られでもしたら、きっと堪えられない。思い切って真宮桜の肩を引き寄せ、空を映すその瞳にオレを映して目を閉じた。




「……っ」

「んっ……ふ…」




そっと唇を離し、柔らかいその感触を確かめるように、そっと指でなぞった。頬を染めて少し震える真宮桜は節目がちにオレを見上げる。
緊張を悟られないように、いつもの調子で声を出した。




「…確かに、感触は似てるな」

「そ……そう…」

「…─…嫌、だったか」

「……六道くんは…ずるいよ…」

「ずるいって…」

「びっくりして、そんなの、考えられなかっ…た、」

「………」




これは本当に無意識?それとも確信犯?
─この際、どうでもいい。


もう一度2人の唇が触れるまで、あと1秒。





end

あくまで友人Aである(良右)


「あー!良牙何しとんねん!!」

「な、何って生地を混ぜて…」

「ちゃうねん、手つきがなってへん!もっとこう…具材をサクサク混ぜへんかい!」

「さ…さくさく?」

「なんっでぺったらぺったら混ぜるんや!もうええ!あんたに頼んだウチがアホやったわぁ!」

「悪かったな手際が悪くて!」




あんまりだ。手伝えというから手伝ってたのにダメ出しばかり。こんなことをしているくらいなら、あかねさんに会いに天道家に行っていた方が良かった。
がっくり肩を落とし、勇ましく生地を作る右京を見る。
俺よりもずっと小さなこの体のどこに大きなヘラを武器にする力があるのか不思議で仕方ない。
なんだか右京が俺よりもずっと男前に見える。




「良牙」

「なっなんだ」

「店ののれん出して来てくれへんか。そんくらいなら出来るやろ」

「そりゃあ…」

「さっさとしい!これから忙しくなるんやからな!」

「な、何怒ってんだよ…」




商売となるといつもこうだ。商人魂とでも言うのか、人が変わったようにお好み焼きを作り始める。
これが乱馬の前だと急に女らしくなるんだよなぁ…。
のれんを出して店の中に戻ると、右京が鉄板を温めて油を引いていた。




「良牙、あんたはいつも通りお冷と会計頼むわ」

「お、おお」




心なしかいつもより、右京の雰囲気がピリピリしてる気がする。
…乱馬と何かあったのか?
それでも客が入ると笑顔で対応してやがる。流石というか、なんというか…。
やがてやってきた沢山のお客にあたふたしながらも、なんとかミスせず混雑する時間帯を乗り切った。右京はといえば、眉間にシワを寄せて帳簿を睨みつけている。




「う、右京?お前どうしたんだよ」

「どーもせぇへん」

「今日は変だぞ、お前」

「良牙には関係あらへんやろ」

「………話くらいなら、聞くけど」

「余計なお世話や。構わんといて」

「だったらなんで不機嫌な顔してんだよ、気になるだろ」

「…知らんっちゅーねん……、ウチにも何がなんだか…分からへんのやから…」




右京は俯くと黙り込んでしまった。様子からして、乱馬絡みなのは確かだろう。
それなら、あかねさんとも関係があるのか?
嫌な予感が、する。




「…乱馬、に…何か言われたのか」

「………」

「……そうなんだな」

「…ぁ……あかねちゃん、と、付き合う…とか…しゅ、祝言、とか……乱ちゃんが言っててん」

「な…っ…」




床にぽたりと、雫が落ち、ひとつふたつとまた落ちる。




「もぉウチ、訳分からへん……。いつの間にそないな事になっとったのか、気付きとうなかっ…」

「……」




両手で顔を覆い、右京はその場にしゃがみ込んだ。
俺は一旦外に出てのれんを外し、店の中に立てかけた。頭がぼーっとして、うまく右京の言葉を理解してくれない。
乱馬と、あかねさんが?
俺が道に迷っていた間に何があったんだ?同じ町内にいる右京でさえも困惑してるなんてどういうことだ?
どちらにしろ、今日は店仕舞いをして右京の話を聞いた方がいいだろう。




「ちょお…良牙、何勝手にのれん下げてんのや」

「そんな状況じゃ、客の前には出られねぇだろ」

「………」

「ちゃんと聞くから、話せよ」

「聞いたら…あんたも辛い思いするで」

「…どうせ、遅かれ早かれだ」




こんな風に泣く右京を見たのは初めてだった。いつも強気な印象があったから。
許婚という立場では、あかねさんと右京は同じだけど、俺の中ではあかねさんの方が守ってやりたくなる弱さを持っているんだと思っていた。右京は強いから、と、心のどこかで思っていた。
俺はいつも情けないところばかり、右京に見せてきたよな、とも思った。
少しずつ話し出した右京に相槌を打ちながら、やっと乱馬とあかねさんがくっついたのか、と感じる気持ちの方が大きいことに戸惑う。すごく好きなのに。憧れなのに。救われていたのに。何故?




「…ウチは…もうこの町にいる意味が無くなってしもた…」

「………」

「あかねちゃんの事は恨んでへんよ。ライバルなのは分かってたことやから。…乱ちゃんも悪うない。誰も悪うないんや」

「…そういう風に考えられるお前はすごいな」

「誰かを責めたって、乱ちゃんの気持ちがウチに向く訳やない。そんなん虚しいだけやんか」

「ああ」

「ほんまは…ほんまはめっちゃ悔しい。なんでやねんて怒鳴り込んでやりたいわ。…だけど…それこそ負け惜しみみたいで情けないやろ…?」

「……ああ、そうだな」

「…そこまでは、ちゃんと分かっとんのに…」

「右京…」

「はは、何でウチ、こんなこと良牙になんか喋っとんのやろ」

「俺が聞くって言ったんだから、いいんだよ」




話したことで少し落ち着いたのか、右京は涙を拭って軽く笑った。
失恋したのは同じ身なのに、俺はどうして落ち込めないんだろうか。いずれはこうなると、どこかで分かっていたからかも…しれないな…。




「あんたは、悔しくないん?」

「ない訳がないだろう」

「そーやろなあ」

「……でも、お前が耐えてるのに俺が耐えない訳にはいかんだろう。なにより、女に負けるのは癪だしな」

「ほぉ?ウチのこと女だと分かってたんか」

「初めて会った時、言ってただろ」

「男やと思ってたくせに」

「そっそれは…!」

「まったく、いつまで経ってもはっきりしない奴やなあ」




目を赤く腫らしながらも、笑顔を見せる右京に一瞬どきりとした。
女って強いと改めて思う。
男が守ってやろうと思う反面、実は逆に守られているような気がして、なんだかばつが悪い。




「…俺ははっきり言えるお前が羨ましいよ」

「なら、ウチを見習うことやな」

「元気出てきたじゃねーか」

「おかげさんで。愚痴ったらスッキリしたみたいやわ」

「そうか」

「あんたも元気出しぃ!」

「─ってぇ!!」




俺の背中をバシッと勢い良く叩いて、右京は立ち上がった。今…すっげぇいい音したぞ……。
じんじんとした痛みに堪えていると、楽しげに笑う右京の声が聞こえてくる。まだ、我慢しているんだろう、堪えているんだろう。だけど、少しでも気が晴れたなら良かった。




「良牙がおってくれて、助かった」

「役に立てたなら良かったよ」

「なんや、偉そうに」

「お前に言われたくないっ」






end

不安は安心へ(りん桜+六)

※六文視点


桜さまはとてもお優しい人。
りんね様は凄くたくましい人。
ぼくはそんな大好きな2人と一緒にいられることが嬉しくて、クラブ棟でりんね様とお話しながら桜さまを待っている時間も楽しくて。ずっとずっとこんな日が続いたらいいなと思ってる。




「あれ?りんね様、今日は学校に行かないんですか?ただいま帰りました…って、どうしたんですりんね様!?」

「…っ、六文…?」

「具合悪いんですか!?」

「大丈夫…平気だ、少し休めば治る…」

「ぼくっ、桜さま呼んで来ます!」

「な、おいっ…」




ぼくは子猫の姿で学校の廊下を全力疾走。目指すは1年4組の教室、桜さまのところ。
ドアの隙間から教室に入ると、ちょうど休み時間だったのかザワザワと賑やかだった。やっとのことで桜さまの姿を見つけ、出来るだけ大きな声でにゃあんと鳴く。




「…あれ?六文ちゃん…?」

「真宮さん、どうかしたの?」

「ごめん翼くん、私ちょっと…」




桜さまはぼくをそっと抱っこして、人がいない廊下の隅におろしてくれた。
子猫の姿から戻ったぼくは、桜さまの顔を見てほっとした瞬間、苦しそうなりんね様が頭に浮かんで涙がぽろぽろこぼれてしまった。




「しゃっ、しゃくっ、しゃくらしゃまぁ〜!!」

「ど…どうしたの六文ちゃん」

「りんね様が…りんね様が死んじゃうかも…!」

「え、また頭に箱でもぶつけたの?」

「違います!なんか…お腹かかえてうずくまってて…顔色悪くて……、ぼ、ぼく、どうしたらいいのか…っ」

「…わかった。泣かないで六文ちゃん、すぐ行くから」

「桜さま…」




優しく頭を撫でられて、安心したらもっと涙が出てきた。桜さまは僕を抱っこしたまま、教室に戻って十文字に鞄を取ってもらっていたみたいだった。
授業はもうないのかな、迷惑をかけてしまったかな?不安だらけで、何も考えられない。




「ごめんね翼くん、鞄ありがとう」

「それはいいけど…六道に何があったんだ?その猫がそんなに慌ててるとこ、初めて見た」

「うん…。心配だから、様子見てくるよ」

「じゃあ俺も…」

「もし何かあったら連絡するから、翼くんも六道くんの力になってあげてね」

「え、あ、ああ!真宮さんがそう言うならもちろんさ!」

「また明日ね、翼くん」

「うん、明日………って、まさかはぐらかされた!?」




トゲトゲしい十文字の言い方は気にくわなかったけど、今はそれどころじゃない。
りんね様は大丈夫だろうか?
桜さまが走ってくれているのがわかって、ぼくはりんね様の無事を祈ることしか出来なくて、また涙が出た。



「大丈夫だよ。六文ちゃん。大丈夫、だから」

「……っ、はい…っ」



カチャリ、と、桜さまが部屋のドアを開ける。中にいたりんね様はうずくまったまま動かない。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、りんね様!
りんね様が死んじゃったらどうしよう…!!




「六道くん!大丈夫?しっかりして!」

「………っ…ま、みや…?」

「お腹痛いの?熱…というか汗すごいよ、何か悪いものでも食べたりしたんじゃ…」

「……気持ち悪い…」

「六文ちゃん、水持ってきてくれる?」

「は、はい!」




まだ蒼白した顔のりんね様だけど、桜さまが来てくれたことに少し驚き、同時に安心もしたみたい。
桜さまのおかげで、ぼくも安心した。
ぼく1人じゃなにも出来ない。お金がないから病院にも行けない。頼れる身内は魂子さまだけだけど、そうそう迷惑はかけられないってりんね様が言ってたし。
だからこそ、桜さまの存在が何よりありがたく感じた。




「今日、学校休みだったからどうかしたのかと思ってたけど…体調悪かったんだね」

「…なん……まだ、学校じゃ…?」

「六文ちゃんの様子見たら、授業なんて受けてる場合じゃなさそうだったから。それに、六道くんがこんな状況じゃなおさらほっとけないよ」

「……」

「とりあえず、私が持ってる薬、腹痛にも効くから飲んで」

「すまん…」




インフルエンザの時よりも、りんね様は顔色が悪い。今にも気絶してしまうんじゃないかとまた不安になる。
桜さまから受け取った薬を飲み、再び横になったりんね様は脂汗をかいていて、とても苦しそう。それに少し、震えてる…?




「あ…もしかして寒い?うーん…羽織だけじゃ心許ないし…。そだ、ひざ掛けなら使えるかな…」

「桜さま、ひざ掛け持って来てるんですか?」

「うん、教室のクーラー効き過ぎると寒いから。ちょうど持ってて良かったよ。六文ちゃんは具合悪くない?」

「ぼくは大丈夫です!りんね様が…」

「少し眠れれば、良くなると思うよ。六道くん、床じゃ頭痛いでしょ?ちょっとだけ頭上げて」

「…う……」




桜さまはテキパキと指示をして、りんね様の頭を自分のひざに乗せると、その背中を優しくさする。
その光景が、なんだかとても微笑ましくて。
薬が効いてきたのか、りんね様はやっと眠った。寝顔でも、まだ少し青白い。ぼくはそっとりんね様のそばに丸まって座る。
りんね様と桜さまと一緒にいるときが一番ぼくの好きな時間。
だから、りんね様の病気が早く治るといいな。早く、元気になって欲しい。ぼくの頭を撫でてくれる桜さまの手が温かくて、なんだか眠くなってくる。




「さくら…さま…」

「なに?六文ちゃん」

「…ぼく、が…起きるまで……いてくらさ…ぃ…」

「……うん。わかった」




遠のいていく意識の中、優しい桜さまの声が子守歌みたいに聴こえた。




「真宮さん!六道がどうし…っええええ何その状況…!!」

「しー…っ!あのね翼くん、買い物頼んでもいい?六道くんが体調悪いんだって。六文ちゃんも寝ちゃったから、私動けなくて」

「何がどうしてそうなったんだい!?」

「え、えーと……なりゆき?」

「(なりゆきってどーゆー事だー!?また真宮さんに介抱されやがって許せん六道…!!)」






end
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