部活の飲み会に行くためにゆうじクン家を出た
ゆうじクンは
二年生なので
少し早めに出た
アタシはドレスに
着替えて
家に帰る母といっしょに出た
一次会は
飲むというより
食事会のようで
卒業生ひとりひとりに
お手製のアルバムと
花束を渡していた
ふと
ゆうじクンを見ると
何やら厨房の方で
店員さんといっしょに
料理を出している
あとから聞くと
周りの子たちが
動いてなかったから
全部指示を出していたらしい
その分
周りの後輩が我慢している中
料理を食べていた、とか
(ホント調子いいんだから)
二次会は
いつも部活で飲む居酒屋だった
部活の飲み会は
これで最後
ゆうじクンを
盗み見みるのも最後
飲み会の間
アタシは
何回もゆうじクンを見た
向こうも
視線を送っていて
何回も目が合った
だけどわざと
気づかないふりをした
今までで
一番
ゆうじクンが
見てくれてる
気がした
後輩の女の子と
恋愛の話を
していると
「(ゆうじクン)とどうなんですか」
と聞かれ
素直に仲がいいことを
話した
「(ゆうじクン)とまゆみさんのカップルは部活の中でも一番理想的ですょ。ふたりとも自然体で羨ましい」
と言われた
お酒が入っているから
なのか
頭がポーッとした
単純に
嬉しかった
飲み会の最後の方では
いつものように
ゆうじクンに
頭を揺さぶられた
一気に酔いが回った
アタシ以外の
女の子にも
デコピンしてるのは
なんだかちょっと
淋しかったけど
敢えて何にも
言わなかった
二次会が終わって
店を出ると
ゆうじクンが
「まゆを家まで送ったらまたこっち帰ってくる」
と言って駅まで
連れて行ってくれた
しかし
電車がもう無く
ゆうじクンは
自転車で吉祥寺に
来ていたので
アタシ、ひとりで帰れるよ
と言うと
ゆうじクンが
ホームで見送ってくれた
ゆうじクン家に
帰ってから
シャワーを浴びて
眠った
次に目が覚めたときは
ゆうじクンが
帰ってきていて
キッチンで
何かをしていた
次に目が覚めたときは
ゆうじクンが
ヘッドホンを
つけながら
ゲームをしていた
起こさないように
配慮してくれたのだろう
次に起きたときは
ゆうじクンが
座椅子で眠っていた
朝の8時だった
ゆうじクンを
ベッドに寝かすと
朝ご飯を作った
だけど
ゆうじクンは
いっこうに
起きなかった
結局
ゆうじクンは
昼過ぎまで
起きなかった
ご飯はラップをかけて
置いといて
アタシは荷物を
まとめたりしていた
ゆうじクンは
のっそり
起きてきた
ゆうじクンは
寝起きが悪い
ホントに悪い
たまに
無理に起こすと
反撃に会う
こういうとき
北風と太陽を
思い出す
無理矢理
北風で
こじ開けようとすれば
旅人はコートを余計
閉じてしまうのだ
だけど
太陽のように
ぽかぽかと
優しく降り注いでも
ゆうじクンは
起きようとしない
まぁどちらかといえば
太陽の方が成功しやすい
そりゃいつも
イライラしてる人よりは
優しくニコニコしてる人の側にいたいのが
人間だろう
とりあえず
ゆうじクンは
のっそり起きてきて
「もっと早くに起きれば良かった」
と、ひとりごちていた
続く
泊まっていた5日間
ご飯係りだった
おまけに
洗い物、洗濯も
アタシの係りだった
なんだか
花嫁修行してるみたいで
楽しかったけど
失敗したり
ゆうじクンに
注意を受けると
少し落ち込んだ
それでも
「起きたら朝ご飯があるなんて嬉しいょ」
と言ってくれる
ゆうじクンの
柔らかい言葉を
受けるたびに
頑張ろうってやる気になった
ゆうじクンと
付き合い始めて
一年半
まだまだ味は
美味しくないけど
やっと
その場にあるもので
メニューを
考えられるようになった
ゆうじクンは
ゆうじクンで
相変わらず
美味しいときと
美味しく無いときで
反応が違うので
そのたびに
内心一喜一憂した
それでも
毎回残さず食べて
くれるもんだから
作り甲斐がある
ゆうじクンの風邪が
完全に治ってきた頃
ゆうじクンオススメの
パン屋に向かった
安くて素朴で
ゆうじクンが
好きになるパン屋は
外れがない
あれもこれも
としてるうちに
山ほどプレートに
パンが乗って
「たくさん買っちゃったね」
と笑いあった
卒業式典は
なくなったものの
卒業証書授与式は
あって
ギリギリ袴を着ることができた
学校まで
自転車で
ゆうじクンが
送ってくれた
式典が終わった頃
待ち合わせをして
ゼミの友達に
ふたりの写真を
撮ってもらった
帰りはアタシの母と
三人で
ゆうじクン家に帰った
一息ついたころ
ゆうじクンが
冷蔵庫から
タルトケーキを
取り出した
「ホワイトデー、風邪で作れなかったしオレからの卒業祝いだよ」
アタシは
びっくりし過ぎて
固まった
母は
ゆうじクンが
ケーキを作れることに
驚いていた
ふたりで
ケーキを切り分けていると
「まるで共同作業ね」
と言って
写真を撮ってくれた
(何言ってんだか
)
三人で
ケーキを食べた
やっぱりゆうじクンは
料理がうまかった
続く