28日
起きると朝の9時だった
ゆうじクンを
起こすと
まだ眠たそうなので
アタシだけ起きて
勉強していた
一時間くらいしてから
ゆうじクンが
起きてきた
ふたりで
カボチャのシチューを
作って食べた
ふたりでシャワーを
浴びたあと
前髪を切ってもらった
社会人になるから
と、前髪を
分けていたのだけど
自分でも無理をしていたのか
辞めたくなっていた
ゆうじクンに
切ってょ
と、言うと
やってくれた
前髪の間から
ゆうじクンの
真剣な表情が見えた
「分けるの似合ってないょ。まゆは見た目が、『これ』なんだからパッツンのがいいょ」
完成品は見事だった
自然でちょうどいい長さの前髪
にんまり笑うと
ゆうじクンも
笑ってくれた
「オレの好きなAV女優みんな綺麗系っていうか幼い感じの可愛い系の人ばっかりだった」
髪を切り終わってから
ゆうじクンが
いらない情報(笑)を
教えてくれた
ただ意外だった
ゆうじクンは
大人っぽくて
セクシーな人が
好きだと思っていたから
「綺麗でしっかりした人より、可愛くてキャピキャピしてて頼ってくれる人が好き」
そりゃアタシと
付き合ってるんだもん
ロリが好きよね
と、茶化してみると
ヘラヘラ笑いながら
「まぁ、まゆが彼女だしね」
と言われた
そのあと
着替えて
古本屋をハシゴした
お菓子も買って
ふたりで
毛布にくるまって
漫画を読みあった
帰り際に
あろうことか
アタシが
泣き出してしまった
ゆうじクンが
姪っ子ちゃんを
あやすように
アタシのことも
あやした
「忙しくて会えなくなるけど一生会えないわけぢゃないでしょ」
そう言って
ゆうじクンが
涙を舐めた
しょっぱい
と笑った
これから一週間
下手をしたら二週間
会えなくなる
でもやはり
これくらいのことが
乗り越えられないなら
アタシたちに
先はないのだ
26日
夜
ゆうじクン家に行った
ご両親+姪っ子ちゃんも
遊びに来たので
夕飯をご馳走していただいた
久しぶりに
焼き肉を食べた
姪っ子ちゃんは
アタシのことを
覚えていてくれた
焼き肉をしながら
姪っ子ちゃんのために
ハサミで肉を細かく切ってあげた
姪っ子ちゃんは
五歳
こんなに小さな親戚もいないので
すっかり自分の子どものような気分になってしまった
ごはんのあと
姪っ子ちゃんを連れて
ゆうじクン家に帰った
眠そうなので
ベッドに寝かしてあげると
ゆうじクンが
「まゆ、側で寝かしてあげて」
と言った
アタシは言われた通り
姪っ子ちゃんの隣に
横になると
お話しをしながら
寝かせた
子どもって
大変ね
ゆうじクンに
そう言うと
「でもね、子どもにとってはお母さんがすべてなんだょ。どんなに男が育児を頑張っても最後はママが落ち着くんだから」
と言った
それから
ベットから降りて
ゆうじクンと
ご両親のために
布団をひいていると
ふたりが帰ってきた
アタシたちは
寝る場所がないので
友達ん家に行く、と
嘘をついて漫画喫茶に行った
27日
明け方帰ってくると
ご両親はひとつの
布団で眠っていた
どうやら
アタシたちが
帰ってくるのを
見越してひとつ
開けておいてくれたようだ
アタシが我慢できなくて
布団の近くで
うずくまってると
ゆうじクンが
布団に入れてくれた
気がつくと
10時で
ご両親と姪っ子ちゃんが起きていた
隣りには
ゆうじクンが
眠っていた
ブランチとして
お寿司屋さんに
連れて行ってもらった
帰ってから
半日姪っ子ちゃんを
預かることになった
三人で小金井公園に
歩いて行った
ゆうじクンと
ふたりで行ったことが
あったけど
そのときは
遠く感じなかったのに
歩幅の小さな姪っ子ちゃんといっしょだと遠く感じた
それに車の交通が
激しいので
常に姪っ子ちゃんを
気にかける状態になった
ゆうじクンと
アタシの間に
姪っ子ちゃん
「若夫婦みたいな気分で行こうよ」
とゆうじクンが
言うので
余計に姪っ子ちゃんが
愛しく感じた
公園に着くと
姪っ子ちゃんがはしゃいで
ついでにアタシも
はしゃいだ
だけど
スカートに
ブーツだし
姪っ子ちゃんを
見ていなきゃいけないのでグッと我慢した
ゆうじクンは
ずっとデジカメで
姪っ子ちゃんを
撮っていた
姪っ子ちゃんと
アタシで並んで
ブランコを
してる姿を写真に撮られた
「ひとりだけでっかいのがいるぞ」
と、ゆうじクンが
笑った
きっとゆうじクンは
自分の子どもが
生まれたら
こんな感じなのだろう
アタシは
涙が出そうになるのを
堪えながら
ゆうじクンの
子どもを生んでみたい
っていう衝動的な気持ちを呑み込んだ
姪っ子ちゃんと
遊具で遊んだり
大きなすべり台に並んだり
ひとしき遊んだあと
帰ることになった
帰りはご両親が
車で迎えに来てくれた
家に着いてから
荷物をまとめて
三人が帰っていった
ゆうじクンと
アタシは
最後まで
見送った
ふたりで家に帰ると
倒れるように
眠り込んだ
アタシたちは
想像以上に
疲れ切っていた
会社の試験が
3月14日になった
3月は
秒単位で
スケジュールが詰まっている
泣く泣くだった
他に余地がなかった
ゆうじクンに
電話した
事情を
伝えながら
泣き出してしまった
(ピルと生理のせいだと思う)
泣き出したアタシを
ゆうじクンが
笑った
「そんなこと伝えるために電話してきたの??」
微かに
ゆうじクンの声が
違っていた
ゆうじクンは
アタシを
励まそうとしていた
「クリスマスといっしょだょ。ふたりでまた違う日にホワイトデーしようよ」
ゆうじクンが
優しい声で言った
アタシは
嗚咽を呑み込みながら
頷いた
そして
3月
ほとんど会えないことも話した
これには
ゆうじクンも
さすがに
ちょっと動揺してる雰囲気が伝わってきた
だけど
必ず時間見つけるから
アタシとしても
学生最後の
1ヶ月が
こんなことになっちゃって
正直心が折れそうなんだ
だけど
ゆうじクンが
いてくれるってだけで
アタシ頑張れる
だからいっしょに頑張ってほしいの
泣きながら
わけわかんない頭のまま
そんな内容の話をした
ゆうじクンは
話を遮ることなく
静かに聞いていてくれた
「電話だっていつでもしてきていいょ。勉強だっていっしょにしようょ。オレもテスト終わったけど勉強したいし」
そこまで
話終えると
ゆうじクンが
間を置いた
「…再テスト期間中さ、料理自分でやらなくてコンビニとかで買ってたんだ。それで終わったから自分で米炊こうとしたの。そしたら米の残りが少なくてさ。あれ??って思ってよく考えたら、まゆが来て毎日炊いてたんだょな。まゆ、ずっといたんだょな、って思っちゃったょ」
息を呑んだ
ゆうじクン家では
残ったお米は
全部冷凍するから
いくら炊いても
炊きすぎることはない
むしろ
あらかじめ
冷凍しておけば
すぐに食べることができる
だから
寝る前にお米を
炊いていた
ゆうじクンに
淋しい思いを
させてる
今この瞬間も
ゆうじクンは
男の子だし
アタシが泣いてるから
淋しいって言えない
色んな想いが重なって
アタシは余計泣いた
そんな思いさせて
申し訳ない
と思った
それと同じくらい
アタシたちは
今度こそ
壊れるんぢゃないか
と思った
それは
怖いと思った
だけど
この程度で壊れていては
この先はやっていけないのだ
アタシにとっても
ゆうじクンにとっても
正念場だ
これを
乗り越えられたら
この先も可能性が
あるかもしれない
ダメなら
ダメで
もともと
アタシたちは
先に進む資格なんてない
頑張るしかない
そんなことを
考えてるうちに
泣き止んできた
「落ち着いた??」
ゆうじクンの声が
優しかった
うん
アタシも
頷いた
淋しかったら
いつでも電話してあげてもいいんだからね
そう
高飛車に言い放つと
ゆうじクンが
電話を切ろうとしたので
慌てて止めた