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めいくあうぃっしゅ

眼下に自動車展示場が
見える


外はすっかり暗くなって
六本木のビル群が
浮き出て見える



Nさんがうっすら笑ってる


特に眼が笑ってる


その眼をよく知ってる



「考えてみなょ。部下にこんなこと思わせてるんだからその上司どうなの」


Nさんの薄い唇が歪む


端がくぃっと
持ち上がる



ゾクッとした


やっぱり
その眼を知ってる


「オレとその上司の差は歴然だと思うけど??」


ゆうじクンの眼と
同じだ


相手を見下すような
心から優越感を
楽しんでるような
禍々しい眼


「渡辺、オレとその上司。どっちと同行してるとき営業しやすい??」


Nさんが真っ直ぐ
こっちを見つめた


危ない
逃げよう


本能的にそう思った



Nさんは
人を説得させることのプロだから


人を説得させて
印鑑を押させることのプロ


改めて自分が
クロージングに
かけられてることに気づく


「オレの会社に来いよ。オレが面倒見てやるよ」



普段Nさんとアタシの
力関係は
社会的地位とか抜けば
完全にアタシの方がマウントを取ってる状態だ



多分、侮ってた
甘く見てた


アタシの悪い癖だ


危険な橋へ近づきすぎる


渡りだしたら戻れない





この女、この会社、この業界

ちょろいな

Nさんの眼が呟いた

サブウェイ

前日
ゆうじクンがオムレツを作ってくれた


作り方は簡単で
アタシにも出来そうだったから一回で覚えた




泣き疲れて
眠ってしまった


起きてシャワーを浴びて
ゆうじクンを起こした


ゆうじクンがシャワーを浴びてる隙に
オムレツを作ってみた


やっぱりうまくいった


ゆうじクンの言っていたコツをアタシは忘れてなかった



ゆうじクンが
シャワーから上がってきた


「なんかある」


ゆうじクンに
オムレツを渡した


ゆうじクンが
ひとくち食べた

合格の顔だった



ゆうじクン



アタシ
ゆうじクンに教わった通りにやったら
オムレツこんなに上手に出来たよ


ゆうじクンの言ってたこと一字一句逃してなかった



「なんか育成ゲームみたいだな」


ゆうじクンが
笑った



ゆうじクン


アタシと真剣に付き合って


喉がカラカラに乾いた


告白するのが
こんなに勇気のいることだと思わなかった


ゆうじクンは
間髪入れずに言った


「いいょ」


口元が笑ってた


アタシもすかさず言った


真剣にってことは
アタシに対して
真剣にってことだょ


アタシ
ゆうじクンが今
OKくれたら
また一年経っちゃうょ


「…別にオレはいいけどな」


そうじゃなくて
その先を考えちゃうよってこと


「……いいょ」


ぢゃぁ
ちゃんと言って


もっと具体的に


ゆうじクンが口を噤んだ


アタシは
焦ってた
何故だか




酷いことをしてるのに
気づいてなかった



「…オレ、シャイだからさ…」


ゆうじクンが
そう言って
顔を背けた



ダメならダメで
ちゃんと諦めさせて…



冷静になれば
自分がどれだけ勝手なことしてるかすぐにわかる


どうして気づけなかったんだろ


どうして相手の
気持ちを考えてあげられなかったんだろう


「先のこともいっしょに考えよう」


アタシが言わせたんだなぁ…きっと

えくす

ゆうじクンと
付き合ってすぐに
悩んだこと


そうだ


ゆうじクンが卒業するときアタシは27歳ってこと



本格的にネックになってきた



ゆうじクンが言った
良い人がいたら
そっちにいきなよって



ゆうじクンだけには
言われたくなかった



オレといても
ずっとこのままだょ



オレは結婚なんか
考えてないから


結婚するときは
それさえも
越えられる子が
現れたときだから



あぁそうか






アタシは
「その子」ぢゃないのか



悔しかった



自分なりに頑張ってきたつもりだった




ダメかもしれない



怖くなった



明日にはもう
いっしょに居られないかもしれない



というか
今この瞬間にも



苦しくて
いろいろ言った


アタシの顔が
童顔なのは
27歳になっても
年相応に見えないためだょ


アタシの背が低いのは
ゆうじクンとピッタリ
手を繋いで
ゆうじクンを見上げるためだょ


アタシが子どもっぽいのは
ゆうじクンに
甘えるためだょ



言いながら涙が
止まらなくなった



言いながらわかってた



ダメだ
何を言っても


何を言っても

ダメだ



本当に…
別れた方が良いかもしれないね



心が大きく緩んだ


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