裏です、閲覧注意!




身動き一つ出来ない満員電車の中、ユーリは必死に耐えていた。

少しでも気を抜けば声が出てしまう。それは絶対に避けなければならない。もし声を出してしまったら…終わりだ。
身体も動かす訳にはいかない。今は自分の身体の正面に扉しかないから、『その場所』がどんな状態になっているかなんて事は誰も知らない筈だ。
気付かれないようにと固い扉に身体を押し付けるようにすると、腰に回された腕に少しだけ力が入って扉から引き離される。扉と身体の間の隙間が僅かに広くなり、自由度を増した手の動きが大胆なものになる。

「っ……ァ!」

扉の取っ手部分の浅い窪みに引っ掛けた指に力が入るが、体重を支えるには頼りなさすぎた。
カーブに差し掛かった電車が大きく揺れ、つられて身体が車内中央に向かって引き寄せられるかのようにのけ反り、ユーリは慌てた。
普段ならこれぐらいで身体を持って行かれる事などない。だが今は、敏感な部分を執拗に擦られ続けたせいで上手く下半身に力が入らない。
瞬間、倒れる、と思った。
しかし身体が電車の床に投げ出されるような事にはならなかった。

背後からしっかりと肩を受け止め、腕を掴んでユーリの身体を立たせると、揺り返しの反動を利用してわざとユーリを扉に押し付ける。小さな呻き声が聴こえ、フレンはユーリの耳元に顔を寄せて様子を窺った。

「…ユーリ、大丈夫?」

「てめえ…後で覚えてろよ…!」

肩越しにフレンを睨みつけるユーリの顔は、羞恥と悔しさで赤く染まっている。そんな顔をされても余計止まらなくなるだけなのに、と思いながら、フレンはユーリの股間を握る右手に力を入れた。

「ひ……ぅ」

ユーリの身体がびくりと震える。さらにゆっくりと上下に動かせば、すぐにそこは先程と同じ熱さと硬さを取り戻していく。ユーリの反応の良さに、フレンの顔に笑みが浮かぶ。ほんの微かな吐息が耳に掛かるのにさえ敏感に反応してユーリが身を捩った。

「ユーリ、あまり動いたら…」

「っ…せ…!だったら離れろ、よ!」

「無理だよ。僕も身動き取れない」

「じゃあ手…!も、いい加減に…ッ!!」

「…掴まるところがなくなったら、僕もツラいなあ」

―そこは『掴まる』とこじゃねえよ!

耳元でぼそぼそと囁かれるのも擽ったくて仕方ないというのに、まるでエロ親父のような台詞を吐きながら尚も右手を休める事のないフレンに、ユーリは心の中で悪態をつくしかない。

(くそ、言うんじゃなかった…!)

せめて家に着いてから言えば、少なくとも『ここ』で暴走される事はなかったかもしれない。
必死に声を抑えながら、これから先の事が思いやられて仕方なかった。



―――数時間前。

「なあ、おまえ今日ヒマ?」

鞄を手にして立ち上がると、いつの間にか隣にいたユーリに声を掛けられた。
今日は登校日だ。サボる気満々だったユーリにわざわざ連絡して、必ず来るように言ったのはフレンだし、勿論それには理由があった。

夏休みに入ってからというもの、ユーリはアルバイトで忙しいらしく全く会えていない。フレンもそれなりに忙しい身ではあったが、主に学校関連の用事が殆どで土日は比較的空いている。だがユーリのほうが週末はバイトが外せないとかで、とにかく都合が合わない。相変わらず携帯電話を持たないユーリとの連絡手段は彼の家に電話する以外ないのだが、そう頻繁にかけるわけにもいかず、かと言ってユーリからフレンの携帯にかかって来ることはまずない。

だが、今日ならユーリの家に電話をかける正当な理由になる。わざとユーリのいない時間に電話をし、家人に『絶対休ませないで下さい』と伝えたおかげで、ユーリは渋々ながら登校して来た。会うなり文句を言われるのは覚悟していたが、それ以上に素っ気ない、ある意味いつも通りの態度に落胆し、少しだけ腹を立てた。

絶対にそのまま帰すつもりはなかった。

だからミーティングが終わったらすぐにユーリの席に向かおうとしていたのだが、まさか先にユーリからお声が掛かるとは思っていなかったのでフレンは少々面食らってしまい、中腰のままユーリを見上げていた。

「フレン?ヒマか、って聞いてんだけど。…何やってんだ」

「いや、まさか君から声を掛けられると思わなくて」

「…用事があるんならオレはこれで」

「ちょっ…待ってくれ!」

慌ててユーリの腕を取ると振り返ったユーリにうんざりしたような眼差しを向けられて、フレンはすぐに腕を離した。ユーリは自分達の関係については人目をとても気にするのだ。
これぐらい何でもないじゃないかと思いつつ、フレンはユーリに答えた。

「ヒマというか、別に用事はないけど」

「そっか。だったらちょっと、オレん家来ないか?」

「……え?」

「おまえ昨日、またわざわざうちに電話しただろ。大変だったんだからな、『フレンに面倒掛けさせるな』とか言われて」

「そうでもしなきゃ、絶対に今日もサボってただろ?」

「当たり前だ」

「………」

フレンにジト目で睨まれ、バツが悪そうにユーリが視線を外す。が、すぐにフレンに向き直ると肩を竦めて言った。

「まあそれで、たまにはおまえを家に連れて来いってさ。晩メシ食わしてやるけど、どうする?」

どうするも何も、行かないなどという選択肢が存在する筈もない。笑顔満面、二つ返事で首を縦に振るフレンに苦笑しつつ、ユーリとフレンは連れ立って学校を後にした。


駅までの道すがら、フレンがユーリに話し掛ける。

「ユーリの家に行くのは久しぶりだね」

「そうだなー。いつもオレがおまえんとこに行くばっかだからな」

「ほんとは今日もそのつもりだったんだけど」

だって最近全然じゃないか、と言われてユーリが赤くなる。フレンの部屋に行くのと身体を重ねるのがほぼイコールの為の反応だ。
そんなユーリの様子に、フレンは思わず頬が緩むのを抑えられない。

「ねえユーリ、泊めてもらえるんだろう?」

「…図々しいやつだな」

「だって終電に間に合わないよ。夕飯を食べたらすぐ帰れって?おばさんだってそんな事言わないだろう」

「まあそれはいいんだけどな……ただし、何もするなよ」

「…えっと?それはどういう意味で?」

「どうもこうもねえよ。聞かれたらどうするつもりだ」

「そこはユーリに我慢してもらうしか」

「否定しろ!!たまには『そんなつもりない』ぐらい言えねえのかおまえは!!」

「…だって元々、そのつもりだったし」

「だったらオレの晩メシは諦めるんだな。自分ちでそんな事出来るか!」

「でもユーリ、そういう条件だと余計に興奮し……」

「……マジで今すぐ帰るか?一人で」

一人、を強調され、仕方なくフレンは口をつぐんだ。
まさか「ユーリとセックス出来ないから行きません」と言う訳にもいかないが、心中はなかなか複雑だった。

(意識したら…もう無理だよ)

フレンの視線にユーリは気付かなかった。



そうして乗り込んだ電車は乗車率が200%以上あるのではないかと思う程の混雑ぶりで、冗談抜きで身動きが出来ない状態だった。
駅のホームから既に人が多かったのでそれでも何本かやり過ごしたものの、キリがないので仕方なく乗ったのだが、またタイミングが悪かった。

夏休み中、週末、夕方。
しかも特急。数少ない停車駅の一つが自分達の乗り込んだ駅で、入れ替わる人波に流されてあっという間に反対側の扉に押しやられてしまった。次の停車駅は自分達の降りる駅で、扉もこちら側が開くのだからまだいいが、有り得ないほどの密着度に落ち着かないのはユーリもフレンも同じだった。


ユーリは初め、フレンが自分を庇っているのかと思っていた。だからフレンに『大丈夫だから少し離れろ』と言ったのだが、返って来た答えに目眩のする思いだった。

『嫌だ。他の誰かにユーリを触れさせたくない』

そう言って更に身体を密着させて来るフレンに本気で焦った。うなじにかかる吐息が熱を持っている事に気付いた時には既にフレンの左腕は鞄を持ったまましっかりと腰に回され、右手がユーリの下半身に触れていた。

おまえは痴漢か、と小声で責めるも『じゃあ、他の誰かに触られたい?』等と見当違いの答えと共にズボンの前を開けられて手が中に侵入し、下着の上からやわやわと揉まれて思わず腰を引くと、後ろに当たった硬い『何か』に気付いて血の気が引く。

いくら何でも、まさか。

固まったユーリの考えを読んだかのようにフレンが小さく囁いた。

『久しぶりにこんな近くで君を感じたから……ねえユーリ、練習しようよ』

何の、と言いたくても口を開く事が出来なかった。

『ここで声が我慢できたら、家でも聞かれる心配ないよね。ユーリが我慢してくれたら、僕も『我慢』するよ』

強く腰を押し付けられてフレンの言う『我慢』の意味を理解するが、そうでなくても声を出すつもりはない。電車を降りるまでの30分間、とにかく耐えるしかなかった。


「う…っ、く…ぅ」

歯を食い縛って耐え続けるユーリの首筋に、つう、と汗が流れる。舐め取りたい衝動を抑えながらうなじに少し鼻先を寄せると、汗だけではない何かが甘く薫る。
これがフェロモンだと言うならそうかもしれない。
そう思うと余計興奮して、ユーリ自身を握る右手に力が入った。
とっくに下着の中で直接触れ続けているそれは、先端から溢れる先走りに塗れてフレンの指を汚す。緩急を付けて竿を擦り、時折袋を揉み込めばぱんぱんに張り詰め、とろとろと流れ落ちて来る雫が下生えに絡まって湿り気を増していく。
指の動きに合わせるかのようにユーリの腰が小刻みに揺れる度、フレンの下半身を刺激した。

「んっ…ユーリ、動かないで」

「だから…ッ、ァ、もう…っ!離し…んっ!」

フレンの爪が先走りの湧き出す元に軽く食い込み、瞬間ユーリの身体が引き攣るのを強く抱いて押さえる。ユーリが僅かに顔を動かして恨みがましい視線を送って来た。

「今、離したら…立ってられないだろう?」

「く……ぅあ、も、ヤバいって……!」

「ヤバい…?もう、出そう?」

「違っ…!そっちの意味じゃ、な……ッ、んァ…!」

右手の動きが加速して、堪らずに声が漏れたのを何とかごまかそうと俯いて口元を手で押さえる様子に、フレンのほうの我慢が効かなくなりそうだった。
浅い呼吸が鼻から抜け、赤い顔で額に汗を浮かべて目を閉じている様子は、傍から見れば一見気分が悪いのを堪えているかのように思えるかも知れない。そんなユーリを支えてさも心配そうに声を掛けるのがたまらなく愉しくて、より一層手の動きを早くした。

「ひ……!ァ、やっ…!!」

片方は口元に、もう片方は扉に押し付けた手を固く握り締めて耐える。声を出すのもそうだが、今ここで『出す』なんて出来ない。そんな事はフレンにも分かる筈なのに、まるで絶頂へ導くかのように動きを加速させられてユーリは泣きたくなった。

「ユーリ…あと、少しだね」

「………っ、ぅ、く……!」

「出していいよ?…こっちは」

「や、やめ…っ、あ、ァ―――ッッ!!」

ぎゅう、と強く握り込まれ、絞り上げるように擦られ、鈴口に指先を割り込まれ、フレンの手の中でユーリの塊がどくん、と大きく脈打つのを感じ、フレンは素早く掌で先端を覆ってそこへ叩き付けられる熱い飛沫を受け止めていた。

ふるふると震えて肩を上下させながらも耐える姿が愛しくて堪らない。自分の手を汚した白濁をユーリの下腹や力をなくしたユーリ自身にねっとりと撫で付けて下着から手を抜き、ズボンの前を閉じたところで丁度電車が駅に到着した。


崩れ落ちるようにしてホームに倒れ込んだユーリを後ろから支えて立たせると、駅員が駆け寄って来た。救護室への案内を丁重に断って向かった先はトイレだ。
ぐったりしているユーリを個室に座らせて額の汗を拭おうとしたら勢い良くその手を叩き落とされてしまった。


「……とりあえず、下着買って来るから大人しくしててくれ」

「…マジで覚えてろ。タダじゃ済まさねえからな…」


(…少し、やり過ぎたかな…)


背中に冷たいものを感じつつ、フレンはその場を離れたのだった。


ーーー
続く
▼追記