壊れた先に見る夢(※リクエスト・ユーリ女体化)

9/1 12:46拍手コメントよりリクエスト
『揺れる、壊れる』の続きで♀ユリ、暗い感じで裏表現ありですので閲覧にはご注意下さい。






何処から狂ったのかなんて、解りきっている。
だからもう、あの場所にはいられなかった。


自分が男だったら良かった、と何度思ったかわからない。ただ、あいつに負けたくなかったんだ。
肩を並べて歩く対等な友人でいたかった。
だけど男になんてなれる筈もなく、フレンと一緒に騎士団に入団してからは近付くどころかますます離される一方で、焦る気持ちばかり大きくなっていく。

どうしても敵わないと思い知らされたあの時、その気持ちは頂点に達していたんだと思う。


フレンはずっと、オレのことを『女』としか見ていなかった。
勿論それは単純な性別上の事実だけを言ってるわけじゃなく、性的な意味でもそうだった、ってことだ。

…要するに、セックスの相手としてオレを意識していたんだな。
いつからそんな目でオレを見てたのかなんて知りたくもなかったのに、いつだったかフレンが勝手にそんな話をした事がある。

聞きたくない、と言ったらあいつは酷く悲しそうな顔をした。

それでもあいつはオレを抱く。始めのうちこそ抵抗したが、今ではもうそんなつもりもない。


受け入れた、と言えば聞こえはいいが、諦めただけだ。
だって、どうやったってあいつには敵わないんだ。余計な抵抗さえしなければ、フレンはそれは紳士的にオレの事を抱く。あいつはあいつで、どうやら思うところがあるようだった。

…抵抗したからといって、別に暴力を振るわれるわけじゃない。
だがオレはそこらの女より腕力がある。下手に抵抗すると、フレンはそれ以上の力でオレをベッドに縫い留めて力ずくで従わせようとして、そしてオレはフレンの腕力に太刀打ち出来ない事を思い知らされる。

これ以上、情けない思いをしたくないから大人しくしているだけだという事を、フレンは気付いてるんだろうか。
…どうでもいい。


フレンに初めて抱かれた時の事は正直殆ど覚えていない。あまりに唐突で、性急で、何の悦びも感慨もなかった。


覚えているのはただ一つ、それが恐怖だったという事。


力で捩伏せられ、抵抗は出来ず、懇願は聞き入れられないままただ身体を暴かれた恐怖しか覚えていない。

無理矢理だった。…強姦されたんだ。

今となっては、相手がフレンだったという事がマシだったと思うしかないのか。もし他の男にあんな事をされたら、と思うと吐き気がする。そして恐らく、相手もオレもただでは済まなかっただろう。

フレンだったからまだ耐えた。そうでなければ、殺していた。



フレンは時折、騎士団を辞めたオレの元にやって来る。他愛もない日常を取り留めもなく話し、たまには食事を共にするその時間は決して悪いものじゃない。
その後に待っているものが面倒なだけだ。



好きだ、と囁いて触れる唇にも、熱い吐息にも、もう慣れた。
嫌悪感は麻痺してしまってよくわからない。快楽は……感じるようになっていた。


フレンの掌が胸元に滑り込んでくると、背筋にぞくりとした感覚が這い上がる。
身体を震わせるオレを見てあいつは嬉しそうに笑うんだ。
それがもう、恐怖から来るものではないと知ったから。

ゆっくりと服を脱がしながらオレをベッドに組み敷くと、フレンはあちこちに口づけを落とす。とても優しく、慈しむように繰り返しながら徐々に荒くなる息遣いを耳元に受けてオレが思うのは、こいつは一体何にこれほど興奮しているのか、という事なんだからどうしようもない。

獣みたいだ、と思う。

それは今も変わらない。ただフレンの呼吸が激しくなるほどオレの心は冷めていく。
オレには自分自身の魅力なんてわからないから。
フレンはいい男だと思うぜ?実際、騎士団にいた頃は他の女共からあれこれ聞かれたものだった。幼馴染みだからな、オレは。

でも、そいつらの質問にオレはあまり答えてやれなかった。聞かれてもわからない事のほうが多かったんだ。


フレンはどんな女が好みなのか、好きな食べ物は?趣味は、休日は何をしてるのか、子供の頃はどうだったのか、とか………

女の好みなんか知らない。
そんな話をしたことがない。
休みの日のことまで把握してない。
覚えてない……


こんな答えしか返せないオレに、質問してきた奴らは決まって落胆し、時に疑いの眼差しを向けた。知ってて教えたくないだけなんじゃないか、ってはっきりと言われたことまである。
…どうでもいい。

『そういう目』で見た事がなかったんだから仕方ないだろ。


じゃあ、今は?

オレにとってフレンはどんな存在なんだろう。あの頃と何か変わったのか?


衣服を全て取り払われて、重なる身体が熱い。
フレンの指先に導かれて次第に感覚が昂ぶり、まるで自分のものとは思えない声を上げ、気を抜くと『もっと』欲しいと強請ってしまいそうな自分がいる。
フレンがオレの何に興奮するのかわからないくせに、自分自身もこうやって興奮してる。
気持ちなんて篭ってない。性感を高めるようにフレンがあちこちを弄るからだ。

…残念ながらオレは不感症ってわけじゃなかったみたいだな。何度も繰り返し抱かれるうちに、すっかり『女』としての悦びを教え込まれちまった。
女であることが嫌で仕方なかったってのに、我ながら皮肉なもんだと思う。身体は正直、ってことか。全く、笑えないよ。


絶え間なく口づけを繰り返しながら巧みに乳房を愛撫され、固くなった先端を優しく口に含んで転がされ…ほら、もう全身に甘い痺れが走ってされるがままだ。

…抵抗しないんじゃない。
抵抗する余裕もない、と言ったほうが正しいな…。

強く抱きついて歯を食いしばっても堪えきれずに漏れた吐息が自分の首筋を擽るのが、何故かフレンは好きなようだった。
浮いた背中に両腕が回され、するすると優しくなぞられて力が抜ける。
ああ、と甘く鼻から抜けた声がまるで自分のものではないように聴こえるのもいつもの事だ。そして、フレンがオレのこの声が好きで、わざとそれを誘うようにしているのも。


好き。


フレンはオレの事が好きだと言う。

口煩くて、いつもオレの事を心配しているフレン。
その気持ちは嘘じゃないんだろう。面倒臭いと感じる事はあっても、不快には思わなくなっていた。

オレを激しく突き上げながら何度も好きだと繰り返し、大丈夫か、と尋ねるくせに己の欲望を何度も吐き出し、熱の篭った瞳で見つめられて、そうか、フレンはオレの事が好きなんだな、と漸く理解した。


フレンの好みの女はオレ。

オレの作った料理は何でも美味いと言って食ってくれるし、趣味は鍛練。休日はオレとその鍛練をした後、オレの部屋で過ごす。

かつてオレにフレンのことを尋ねた女共に、今ならこう答えるだろう。

…どんな顔をするんだろうな、あいつらは。
羨望か、嫉妬か。
でも、あいつらは知らないんだ。
フレンの中にある仄昏い『何か』を。


初めてが無理矢理だった、って言っただろ?
好きな相手にそんな事が出来るのか、と思うと同時に、好きだからこそ歯止めが利かない事もあるんだろう、というのは理解してる。きっと、フレンはずっと我慢してたんだ。オレはあいつを異性として意識してなかったから、オレの振る舞いはかなり『目の毒』だったらしい。最近になって言われた事だ。…そんなの、フレンに対してだけじゃなかったと思うが。

だから余計に乱暴になったのかも知れない。


『好きでもない』上、親友だと思ってた相手に無理矢理裸に剥かれて身体中舐め回されて、初めてだったってのにいきなり突っ込まれて好き放題動かれて、挙げ句の果てに意識を吹っ飛ばす程の目に遭わされて、何度も言うがフレンじゃなかったら殺してる。

気が付いた時にはフレンに抱き締められていて、全身が痛くて怠かったけど不快感はなかったから、後始末はされたんだろう。


目の前で眠るフレンの頬には、涙の跡があった。


…おかしいだろ、人のことめちゃくちゃにしておいて自分が泣くなんて。目覚めた後も当然というか、何度も詫びるフレンにオレは何も言えなかった。
理解不能な罪悪感に襲われて、これじゃどっちが被害者なんだかわからない。

結局絆されたんだ、オレは。
許した訳じゃない。でも、もう少し付き合ってやってもいいか、と思った。


知らない事が多すぎる。
フレンの事を、オレは結局何も解っていない。フレンだけがオレの事を解ったような顔をしているのが腹が立つ。
…どうしようもないだろ、こんなところでまで、結局負けたくないだなんて。

それからもう一つ。
オレを抱く時に見せる、あの狂気を孕んだ昏い瞳だ。あんな顔をするフレンをオレは知らない。知らなかった。


激しく抵抗するオレを押さえつけた時に見せたあの顔を忘れる事なんてない。
それは今でもそうなんだ。
もう無理矢理じゃない。乱暴でもない。でも、フレンは今でも時折あの瞳でオレを見る。



あれは支配欲、というやつだ。



フレンに抱かれる事に抵抗しなくなったとはいえ、好き好んでしたくない格好だってある。
明かりを落とさずに隅々まで見られるのは嫌で堪らない。
四つん這いにされて後ろから犯されるのも好きじゃない。だって、なんだか動物みたいじゃないか?…まあ動物なんだけどな、人間も。
フレンのものを啣えさせられるのも嫌いだ。顎は疲れるし、先走りの何とも言えない味にはいつまで経っても慣れない。慣れないと言えば勿論、口の中に出されるのもそうだ。生暖かくて生臭くて、あんなもの飲めなんてどうかしてるよ。


嫌だと言っても結局はそれを受け入れるオレを見る時のフレンは、いつもあの瞳をしている。
男なら誰もが恋人にそういう感情を抱くのか?

恋人…恋人なんだろうか、オレ達は。

今の関係が正常なのか異常なのかすらオレにはわからない。
身体を許してその行為に没頭しても、オレはフレンのことが好きなのかどうかまだわからない。


…なあ、何かおかしくないか?

最低なのって、フレンとオレのどっちなんだろうな。

フレンには理想がある。元々、その理想のためにオレ達は騎士団の門を叩いたんだ。オレが騎士を辞めてもフレンは騎士団に残って頑張ってる。それは確かだ。

でも、その理想のためにはフレンに潜む支配欲や独占欲は危険なものだ。あいつは絶対に自分じゃそれに気付いてない。
気付いているのはオレだけだ。


…もしかしたら、フレンにそんな感情を植え付けたのはオレなのかも知れない。オレが頑なな態度をとり続けたせいで、あいつの中の何かを歪ませたのか。
もしそうなら、オレはあいつに何がしてやれるんだ?


最近、身体を重ねながらそんな事を思うようになった。フレンの態度は変わらない。甘い言葉を囁いて何度も好きだと繰り返し、優しく、時に激しく求められてそれに応えるオレを見つめる蒼い瞳に、時折灯る昏い炎。


フレンの言う『好き』の意味がわからない。

自分自身はフレンを『好き』なのかわからない。


こんなのおかしい、歪んでる。
オレが素直じゃないから?フレンが素直すぎるから?


ああ……もう、何がなんだかわからない

オレ、何がしたかったんだっけ……



このまま快楽だけを追っていたら二人とも駄目になる。…もう、駄目になってる?まだ…間に合うよな…?


フレンは本当にオレの事が好きなのか?愛していると言うのは真実なのか?

そして、どうしてオレはこんな事が気になるんだ?



なあ、誰か教えてくれよ

オレ達ってどう見える?
どんな関係?


肉体的な繋がりだけじゃない何かがあった筈なのに、今じゃそれを見失ってしまった。
いつかまた、それを見つけられるんだろうか。



見つけられなかったらどうなるか、考えたら怖くなった。
結局、オレもフレンから離れられないのか…?



ただの幼馴染みを越えた先に、オレ達が見るものは一体何なんだろうな………





ーーーーー
終わり
▼追記

相互記念頂き物

がむしゃら・早良さまより頂いた相互記念イラストです!女装メイドユーリさんをなんと!2パターンも!!
クリックで大きい画像です。PC閲覧の方はこちらで。
携帯の方は追記に小さいサイズのほうを載せてあります。

だいぶ前に頂いてたんですがこちらに上げるのが遅くなりました。

お持ち帰りは厳禁です!


頂き物・その1

頂き物・その2
▼追記

恋人宣言!(リクエスト・ユーリ女体化)

9/4 17:57拍手コメントよりリクエスト、フレ♀ユリ学パロ。お付き合いがバレちゃうお話です。







夕焼けに染まる教室で、そっと彼女の頬に手を添えてみる。
伏せていた瞳が上向くと真っすぐに僕を見つめ返してきて、そのままゆっくり顔を近付けてキスを――――


「あ、い、いたたたた。痛い、痛いよユーリ!!」

「フレン、おまえな…学校じゃやめろって何回言わす気だ!?」

「っちょ、痛いって!!分かったから離してくれ!!」



―――キスを、しようと思ったのにそれは拒否された。

思い切りつねられた頬をさすりながらユーリを見ると、ぶすっと膨れっ面をして僕を睨みつけている。

…恋人にキスしようとして、なんでこんな顔されなきゃいけないんだ。

いつもの事とは言え、理不尽ささえ感じるその態度に僕は深い溜め息を吐いた。


僕とユーリは小さな頃から一緒に育った幼馴染みだった。
そして、今では恋人同士でもある。
ある時、ユーリを一人の女の子として好きな自分に気が付いてから実際に告白するまでに相当の葛藤と苦労があったけど、想いが通じて晴れて幼馴染みから恋人に昇格できた。ん、だけど。


男女のお付き合いをしているという事を、僕らは周囲にひた隠しにしていた。

もともと幼馴染みで仲は良いから、学校でもよく一緒にいた。登下校だって都合が合う限りは一緒にしていたし、天気のいい時は昼食も外で二人一緒に食べたりしていた。
男の子のような口調で大雑把に見られがちなユーリだけど、料理は上手だしこれで意外と細かなところに気が付くし、そんなところは女の子らしくて大好きだ。

ただ、その『意外と細かい』部分が災いして、と言うか…恋人同士という関係になってから、むしろ僕らは前よりも一緒にいる事が減っていた。

ユーリが言うには『おまえのイメージダウンになる』からだそうなんだけど、意味がわからない。どうしてユーリと付き合っている事が僕に対してそういう評価になるんだろうか。
仮にそう思われるんだとしても一向に構わないけど、納得はいかない。だってそれは、ユーリが周りから良く思われていない、という事に繋がるからだ。


絶対に、そんな事はない。

確かにユーリは制服を着崩していたりたまに授業をサボったりしてはいるけど、そんなに、その…問題視するレベルじゃない。生徒会長の僕がこんな事を口にしてはいけないのかもしれないとは思う。でも、実際もっと素行に問題がある生徒ならいくらでもいる。

ユーリがやたらと先生方から注意を受けるのは、彼女が目立つからだ。


腰まで届くさらさらの黒髪はいつまでも触れていたいほど綺麗で、抱き締めて顔を埋めるとシャンプーの甘い香りがする。
すれ違い様に振り返るのは、何も男子生徒だけじゃなかった。

背も女の子にしては高いほうで、すらりとした身体にしなやかに伸びた脚の先まで全てが凛とした佇まいを醸し出している。
意思の強さを秘めた瞳も、すっと通った鼻筋もふっくらとした唇も全部引っ包めて可愛い。本当にそう思う。

そういった、外見的な意味でも目立つから、他の誰かよりもユーリが真っ先に何か言われる事が多いだけなんだ。
…制服の胸元は閉めて欲しい、と思うけど。

今までだってずっとそうだったし、ユーリ自身もあれこれ言われたところで直す気もなさそうだった。なのにどうして、僕と付き合うようになってから急にそんな事を言い出したのか、さっぱりわからなかった。


「ねえ、ユーリ」

「なんだよ」

ぶっきらぼうな返事が少し悲しくなる。…さっき、キスしようとしたから?

「何をそんなに気にしてるのか、教えて欲しい」

「…何度も言ってるだろ、おまえの評判が悪くなるからだって」

「僕も何度も言ってるよね、関係ないって」

「……………」
「……………」

二人して黙り込む。教室にはユーリがシャーペンでプリントに書き込む音だけが響いていた。
ユーリが書いてるのは反省文だ。最近、遅刻が多くなっているユーリはとうとう今日、担任に呼び出されて散々にお説教を食らった挙げ句、こんなものまで書かされている。
僕はそれを受け取って持って来るよう言われていた。


「…前みたいに、僕と一緒に登校すればこんなことしなくていいのに」


ユーリは答えず、黙々と手を動かしている。
『前』は、僕がユーリに告白する前は、毎日一緒に登校していた。遅刻しそうになった事は何度もあったけど、そんな時は僕がユーリの手を引いて全速力で学校までの道を走った。

今ではそんな事もない。
帰る時も別々だ。僕が生徒会の仕事で遅くなることが多いとはいえ、ユーリが僕を待っててくれた事は一度もない。

一度も。
…どうして?これじゃまるで、『今』が恋人同士じゃないみたいじゃないか。


「ユーリ」

「なん…」

顔を上げたユーリの頬に再び手をやる。ユーリの顔が引き攣って肩が震えたけど、今度は邪魔させなかった。

素早く引き寄せて、文句を言われる前に唇を塞いだ。
キスするのも久しぶりのような気がする。…柔らかい。

机を挟んでユーリの上半身を抱き寄せ、もっと深いキスを、と思って身を乗り出した僕を、ユーリが強く押し戻した。


「っ、やめろってば!」

「どうして?誰も見てない!」

「そんなのわかんないだろ!?」


勢い良く立ち上がったユーリの顔は真っ赤なのに、なんだか泣きそうに見えて僕は困惑していた。


「それ、書いたからな!責任持って担任に渡しとけよ!!」

「ちょ、ユーリ!君も一緒に」

「帰る!!」

「ユーリ!!!」


教室にたった一人取り残されて、僕は暫くその場に立ち尽くしていた。






「はあ……」

翌日の昼休み、僕は自分の席で一人、もそもそと購買のパンを囓っていた。ユーリのお手製のお弁当もこの頃はすっかりご無沙汰だ。
『付き合う』ようになってから、それまで当たり前だった事の殆どをなくしてしまった感じだ。…キスしたり、触れたりする事だけを求めてるわけじゃないのに…


「…何でなのかな」

「何がー?」

「は?うわ、びっくりした…!」

机の前に立っていたのはクラスメイトのアシェットだった。
少しお節介だけど気さくでいい奴で、僕だけじゃなくユーリとも仲がいい。


「何か用か?アシェット」

「用ってかさ…」

辺りをキョロキョロと窺って、アシェットがずい、と僕に顔を近付けて来た。

「…何なんだ一体」

「ユーリ、どうしたんだ?」

「どうした、ってどういう意味で」

「いや、最近一緒にいるとこ見ないなあ、と思ってさ」

「……そうかな」

「俺、おまえら付き合ってるんだと思ってたんだけどなあ」

「……………」

違う、とは言いたくない。でも後で知られてユーリに怒られるのも嫌で肯定も出来ずに黙っていたら、アシェットは一人で勝手に喋り出した。

「なんだーやっぱ違うのか?じゃああの噂、ほんとだったんだなあ。道理で」

「ちょっと待ってくれ、噂って何だ?何が道理で、なんだ」


「おまえらは付き合ってたけど、別れたって噂」

「何だって!?」


思わず大きな声を出してしまった。
確かに、恋人同士だっていうのはおおっぴらにしてないけど、それにしたって元から僕らは仲のいい『幼馴染み』だ。別れた、とかそんな言い方されるのは心外だ。

驚いて固まっている僕に、さらにアシェットが追い打ちをかけた。


「で、ユーリがフリーになったらしい、ってんであいつにコクる野郎が」

「はあ!?」

「……いる、って聞いて確認しに来たらマジでユーリがいないからああほんとなんだなー、と…」

「そんなわけないだろ!?アシェット、ユーリがどこにいるか教えろ!!」

焦りと不安でつい乱暴な口調になる僕をさほど気にする様子もなく、アシェットがニヤニヤしながら腕組みをしている。


「アシェット!!」

「なんだよ、そんなにユーリが気になるのか?」

「当たり前だろ!?」

今、ユーリが僕の知らない誰か…他の男と一緒かもしれないなんて我慢出来るはずない。ただでさえ、ユーリは…


「どこにいるかは知らないけど、どうせどっかベタなとこだろ、体育館裏とか」

「っ……!!」

椅子を蹴り倒して、僕は教室を飛び出していた。
アシェットが何か言っているのが聞こえたような気がしたけど、構っていられなかった。





「ユーリ!!!」


結局、本当に体育館の裏でユーリの姿を見つけた僕は、驚く彼女に早足で近付くと腕を掴んで自分のほうへと引き寄せた。

「お、おいちょっとフレン!?」

「…何してるんだ、こんなところで。もう昼休みも終わる、早く教室に戻ろう」

「え、うん…つか腕離せよ!」

僕の腕を振りほどこうとしたユーリを、逆に抱き締めてその頭越しに視線を前にやると、呆然とこちらを見ている男子生徒と目が合った。

…見覚えのある顔だ。確か、隣のクラスの…

「ふ、フレン!?何すんだ離せってば!!」

僕の腕の中でじたばたともがくユーリをちらりと見て、背中を抱く腕の力を少し緩めた。抜け出そうとユーリが僕から身体を離したところで、その肩をしっかりと掴んで――――


「え…っっん、んん!?」


「……ん……」


ユーリの唇と、自分の唇を深く重ね合わせていた。

当然ユーリは逃げようとしたが、もう一度その身体をきつく抱き直して腕に閉じ込め、更に深いキスを繰り返す。目を開けると、きつく瞳を閉じたユーリの顔が視界いっぱいに広がった。


「……ん、は…ぁ、っは…」

唇を離すと、ユーリの口から、可愛らしい吐息が漏れる。僕を見上げる潤んだ瞳も、制服のブレザーに縋りつく白い指も、僕のものだ。
他の誰かになんて、渡すつもりはない。


「…ユーリは、僕の彼女だから」


突っ立ったままの男子生徒を睨みながらそう言ってやると、その彼は慌てて走り去って行った。



「ほらユーリ、戻っ……」

「…の、バカ!!!」

「ゆ、ユーリ」

「あいつ絶対他の奴に言うぞ!?しかも目の前であんな…あんな……!!何考えてんだバカ!!死ね!!」

……ちょっとやりすぎたかな…。
涙目で叫ぶユーリを見ていると、少しだけ罪悪感を感じる。でもいい機会だ。


「…もう、隠す意味ないな。これで、堂々と君が僕の彼女だって言える」

「な…!!おまえ生徒会長だろ!?風紀だなんだ言う立場の奴がオレみたいなのと付き合ってたら示しがつかないだろ!!」

「……直す気、ないんだ?」

「いまさら…!」

「だったら直すまで言い続けてあげる」

「な、に?」

「そうすれば先生方はごまかせるんじゃないかな、多少は」

「そんなの…!!」

「…それに、今日みたいな事があるんじゃ困る。自分の彼女が他の男に呼び出されて告白されるなんて、気分が悪い」

「……断るつもりだったのに」

「当たり前だ!!ユーリは、もし僕のそんな場面を見たら何とも思わないのか?」

そう聞くと、ユーリは俯いて小さく首を振った。

「なら決まりだね。今までが不自然過ぎたんだよ。誰にも文句なんか言わせないから、堂々としていよう」



まだ少し不満そうなユーリを引っ張って教室に戻るなり、クラスメイトが一斉に僕らを振り返る。
その中心で、アシェットが笑っていた。



「な…、何だ?」

「…ごめんユーリ、多分もうクラスメイトにはバレてると思う」


心当たりがたあるとすれば、ユーリを捜しに行く前に、大きな声で騒いでしまった事だった。




真っ赤になって俯くユーリの手を握って教室の中に戻ると周囲の視線が一斉に僕らに集まって、僕もユーリと同じように少なからず顔が熱くなるのを感じていた。





ーーーーー
終わり
▼追記

カミングアウト!!〜SM編〜(※リクエスト)

8/31 13:04拍手コメントよりリクエスト。タイトルのまんま、フレユリでがっつりSMプレイです。裏ですので閲覧にはご注意下さい。







「あっ、ああぁアアッッ!!」

「ユーリ、そんなに感じるの?いつもと全然違うな」

「やっ…ァ、おまえ、の、触り方が……ッ!!」

フレンが顔を上げた。
見下ろしたユーリの顔は表情が半分ほど隠れてしまっているが、おおよその想像はつく。

整った眉を寄せてきつく瞳を閉じ、薄く涙を滲ませているに違いない。その涙を舌先で拭ってやると、ユーリはいつもひくひくと舌の動きに合わせて小さく顔を震わせ、鼻にかかった可愛らしい声を上げるのだ。
今はそれができないが、後で存分に堪能させてもらおう、と思った。

涙の代わりに、唇から零れた透明な液体を舐め取った。
そのまま全体に舌を這わせ、わざと音を立ててあちこちを啄むようにしてやると、薄く開いたユーリの唇からそろそろと紅いものが覗いた。
何かを探すように頼りなく震えるユーリの舌を見て、フレンの口元には笑みが浮かぶ。
何を探しているのかなど、考えるまでもない。

形のよい鼻の頭にも口づけを落とし、ユーリの『瞳』を見つめて囁いた。


「僕は特に変わった事はしていないよ。ユーリが感じやすくなってるだけだろう?」

「ひぁっ、う」

ふ、と軽く耳元に息を吹きかけると、それにすら大袈裟とも言える反応を示し、ユーリが身体を大きく捩った。

押さえ付けている腕に力を込めながら、これほどまでに変わるものなのか、とフレンは悦びを隠せなかった。今の自分の表情を見たらユーリはきっと忌々しそうに顔を歪めるだろうが、取り敢えずそのような事はない。

僅かに身体を起こし、フレンはユーリをまじまじと見つめた。肌の離れる感触にさえ小さく不安げな掠れ声を聞き、優しく頬を撫でてやりながらもどうしようもない加虐心が心の奥底から沸々と込み上げて来るのを感じていた。



幼馴染みで親友という壁を越え、ユーリと身体を重ねるようになってからそれ程経っているわけではない。
だが悲しいかな、互いの立場が違う為に頻繁に逢うことは叶わず、そのせいかひと度行為を始めればそれは非常に激しく濃厚なものだった。

一晩に何度も求め合うことも珍しくはない。多くの場合はユーリが先に落ちてしまうのだが、ぐったりとベッドに身体を投げ出すユーリのしどけない姿に再び欲情してしまい、意識のないままの身体を犯すこともままあった。

もっと色々な事をしてみたくなって、思い切ってユーリに頼んでみたら、驚いた事に渋々ながらも承諾を得たので早速『それ』を取り入れたのだったが、これ程までに良い反応を示すとは思わなかった。


いわゆる『緊縛プレイ』というものだ。


手足を拘束して自由を奪った相手を犯す、そんなある意味特殊な方法だったが、いつもと違う状況に二人とも確実に興奮の度合いを増している。

ユーリの両手は、彼自身の腰帯で肘のあたりまでを縛り上げられて頭の上に掲げられ、端はベッド脇のポールに結び付けて固定されている。ユーリが身を捩る度にベッドが軋む音にまで興奮が高まってしまう有様だ。
両脚も大きく広げられ、それぞれに折り曲げられてこちらは紐で縛られ、宙に浮いた状態でやはり紐の先はポールに縛り付けてある。柔らかめの生地で出来ている赤い紐がユーリの両太股に食い込み、その中心で天を向いているユーリ自身の様子からは、ユーリもこの状況にしっかりと興奮し、感じていることが良くわかる。


「フ…レン…?なに、してるんだ……?」

ユーリの口から心細げな言葉が紡がれる。

太股の内側に掌を滑らせながら、フレンは再びユーリの胸へと顔を寄せた。


「君の姿があまりにいやらしいから、どうしようかと思ってたんだ」

目の前にあるユーリの乳首を唇で挟み、つまみ上げるようにする。

「ああッ、んああぁァ!!」

「本当に…いつもより感じやすくなってるね。ユーリ、こういうのが好きだったんだな」

「や、あ、ちッッ…違うッ…は、ヤああ!!」

イヤイヤをするように髪を振り乱して否定するものの、全く説得力はない。フレンが軽く撫でただけでその腰は大きく跳ね上がり、ユーリの性器から溢れ出る先走りが腹に散る。

「違わないだろ、こんなにしておいて」

「は、なに……うぁッッ!!」

ユーリの性器を握って先走りを塗り付け、軽く上下に扱く。またしてもユーリの腰が浮き、フレンは身体をずらしてユーリの脚の間へ自らの上半身を潜り込ませると、薄い下生えを掻き分けるようにしてまだ柔らかさの残る部分を口に含んだ。
甲高い悲鳴じみた声を聞きながら、それを口の中で転がすようにしているとすっかり柔らかさは消えてしまったので、口を離して丁寧に、わざと音を立てて舐め上げる。その度に響くユーリの喘ぎ声に、フレンはますます愛撫を激しくした。

口淫は普段、どちらかと言えばユーリがフレンにしてやることが多い。それはユーリがフレンを受け入れる為の準備の一つであったが、いやらしく見上げながらフレンのものを口に含むユーリの姿は、視覚的にも非常に卑猥なものだった。


だが今のユーリの姿は、はっきり言ってそれとは比べものにならない程の淫靡さだ。
両手両足を拘束された姿もそうだが、何と言ってもフレンの愛撫に応える様子が堪らない。激し過ぎる程の反応の『原因』なら分かっているが、ここまで変わるとは思わなかった。


「ユーリ、次はどうして欲しい?」

「な、ん……っちょ、どこで喋っ……!!」

「ここ?」

「はっ?あッッ、ぃあぁああンッッ!!!」

「…ほんと、いい反応で嬉しいな」



ユーリは目隠しをされていた。
両手両足を縛ると同時に黒い布で顔の半分程を覆い、外れないように後ろでしっかり結んである。勿論、同意の上での事だ。

だが、視界を遮断されるという事はユーリにとっても予想以上に不安を煽るものだったらしい。
更に、普通の人間よりは鋭敏な感覚を持っているだけに物音に敏感になり、シーツの擦れる音やフレンが移動する際の空気の流れにすら一々反応する。

それが楽しくて殊更ゆっくりと静かにユーリの身体に触れると、普段の自信に満ちた態度からは考えられないぐらい頼りない吐息を漏らし、懸命にフレンの指先を追おうとする。この場には自分とフレンしかいないということが分かっているというのに、見えない不安はこうも人の意識を頼りなくするものなのか。


(…堪らないな…)


あられもない姿を晒し、自分に縋るような仕種を見せるユーリを見ていると、言いようのない優越感が込み上げて来る。指先一つでユーリの全てが自由になるような、そんな気持ちだった。


熱い陰茎を擦り、裏筋に指の腹で先走りを塗り込みながら爪先を立てて刺激する。激しく上下するユーリの腰を押さえ付け、全てを口に含むと一際高い嬌声が響いた。


「あッッあァああっっ!!はぁッ、あン、ああぁ!!」

「んっ、ん…ふ…ぅ」


強く、弱く。
軽く歯を立てたり、強く吸ったり。
暴れるユーリの腰と内股を力一杯押さえ、口だけでその場所を刺激し続ける。
ベッドが激しく軋み、みし、と何処かに罅でも入ったかという音まで聞こえた。
泣き叫ぶようなユーリの声を聞き、自由を奪われた白い手足を力ずくで押さえながらの行為は、同意の上だというのにまるで無理矢理犯しているかのようで、そんなふうにユーリを抱くことにこれまでにない昂りを覚える自分がフレンは少し恐ろしかった。


戻れなくなったら、どうしよう。


ふとそんなことを考えたが、もう止められる段階ではなかった。ユーリもそうだろう。

口の中で、ユーリ自身が脈打つのを感じた。限界なのかもしれない。何かに耐えるように苦しげな呼吸を受け、フレンはわざと一旦根本まで飲み込むと舌を絡めながら一気にそれを口から引き抜いた。


「んふああぁッ……あ、う…!」

ユーリがのけ反り、すぐに顔をフレンのほうへと向ける。隠されていて見えないが、きっと鋭く睨みつけている事だろう。

思わず零れた笑い声はユーリ聞こえたのかもしれない。


「ふっ、レ…ン!!」

「何?ユーリ」


何でもないふうに聞き返せば、微かに呻き声が返って来た。


「く……ぅ、も、早くっ…!!」

「だから、何を?」

「……!!!」

ユーリの身体が引き攣る。
何か、など言うまでもない。だがフレンは敢えてそれをユーリに言わせてみたかった。


「…もう、イきたい?」

「っ……く…」

小さく頷くのが見えたが、尚もフレンはユーリに問い掛けた。

「ユーリ?どうして欲しいんだ?はっきり言ってくれないか」

「えっ…な、……!?」

「早く」

「ひ!?ッあァ!!」

上下に激しく扱いては止める、ということを繰り返しているうち、ユーリの喘ぎが嗚咽混じりになる。驚いて顔を上げて見ると、目隠しの布は濡れて色を変え、その染みはどんどん広がっていった。


ああ、泣かせてしまった。

だがもう止まらないのだ。

愛撫の手を休めることなくユーリの耳元に唇を寄せ、フレンは再び同じ質問を繰り返す。


「ユーリ、イきたいんだろう?泣くほど辛いなら、早く言って」

「あぅ、く…っふ、てめ……ッッ、調子に、乗……っんンあ!!」

根元を強く締め付けて、フレンが言った。


「言うんだ、ユーリ」


それはもはや懇願ではなく、命令だった。
二人の中で、何かが変わった瞬間だったかもしれない。


「んっく、う…い、いか…せ…」

「聞こえないよ」

「ああぁあ!!っあ、お願…っ、イかせっ、て、イかせてくれ、フレンッッ!!」


「…ユーリ、可愛い…」


恍惚としたフレンの表情に宿る仄暗いものを、今のユーリは見ることはない。もし見えていたら、戻れたかもしれなかった。


再びユーリのものをフレンが口に含んだ。強く絞り上げるように何度か顎を動かしただけで、すぐにユーリは達してしまった。フレンはそのまま口内にユーリの精液を受け止め、全て飲み込んだ。


「…ユーリのは、甘いね」


起き上がり、口元を拭いながらそう言葉を掛ける。

いつもなら、『気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ』と悪態の一つも返ってくるところだ。
だが見下ろしたユーリはぜいぜいと肩で息をし、殆ど放心状態と言っていいような有様だった。


解放していない自分の中の蟠りが疼く。
早く一つになって、今度はユーリの中でこの欲望を思い切り吐き出したくて仕方なかった。


「ユーリ、僕も辛い……僕の事もイかせてくれる?」

ユーリが頷いたように見えたが、定かではない。単に声のほうへと顔をやっただけかもしれなかったが、フレンは返事を待つ事なくその身体へ乗り上げた。



ぎしり、と鈍い音が響く。
音の出所はどこだったのか、最早気にする事もなかった。






※※※※※※※※※※※


「…ということで、まさかの第三弾だったね!ええと、『ソフトSM』というやつかな、若干言葉責めも入ってるね」

「……………」

「どうしたんだい、ユーリ。ローションプレイまでいかなかったのが物足りない?」

「そんな事はどうでもいい!!オレ、殆ど喋ってねえじゃねーか!」

「まあ内容が内容だからね。あれで流暢に会話されても嫌だけど」

「おまえ、生き生きしてんな…」

「僕が、じゃないんじゃないかな」

「大体だな、『次はない』って言ったろ!?」

「何言ってるんだ、別に学パロでもよかったのをわざわざこちらにしたのは本人なんだから」

「とにかく!!別にアレはそういうつもりじゃなかったんだ!全部やろうとか考えんなよ!?」

「…僕の意思じゃないんだけど」

「うるせえ!!」

「僕は嬉しい限りだけどね!皆さん、ありがとう!」

「……ちくしょう……!!」



ーーーーー
終わり
▼追記

聖なる漆黒(※リクエスト)

8/31 梨愛様よりリクエスト、フレユリで聖騎士としてフレンの補佐をするユーリ。裏ですので閲覧にはご注意下さい。







キン、と高く澄んだ音が響いた。


「今日は僕の勝ちだね」


剣先を相手に向けたまま、勝利を宣言したフレンの声は弾んでいた。
ここのところ、負け続きだったのだ。


「ち…っくしょう、まだいけると思ったんだがなあ」

左手首を摩りながら、ユーリは弾き飛ばされた刀の元へ向かう。地面に突き立った刀を引き抜いて振り返った姿に、フレンは一瞬見惚れていた。

フレンの視線に気付いたユーリが腰に手をやり、大袈裟に溜め息を吐いて肩を竦めてみせる。この姿でザーフィアス城に仮住まいするようになってだいぶ経つというのにこの様だ。
一体、フレンはどれ程自分のこの姿を気に入っているのかと思うと、面映ゆいと同時に少しばかり呆れるのだった。


騎士団の再編は困難を極めた。
前騎士団長の反乱に荷担した騎士の多くは然るべき処罰を受け、多くの者が城を去る事となった。その中には隊長職以上を務めていた者も少なくない。新たに騎士を募ると同時に、隊をまとめる人材の育成も急務だった。フレン一人では確実に手が足りない。かといって、それらを任せる事が出来る程の信頼に足る人物が身近にいるかと言えば、まだ難しい、としか言えない状況だった。

そこで白羽の矢が立ったのがユーリだ。

毎回毎回、自分しか頼る相手がいないのかと不安にならないでもない。ユーリもギルドの一員としてあちこち飛び回っているのを知りながら、フレンは度々ユーリに騎士団とギルドの橋渡しを頼んでいた。

今もそうだった。仕事の内容によっては、何日か城に詰める事もある。そんな時、身動きが取りやすいようにと言われてユーリは渋々その衣装に袖を通す事を承諾した。


自由聖騎士、と呼ばれる者だけが身に着けることを許されたその衣装は、一度は称号共々受け取る事を辞退したものだ。
だが衣装は無理矢理持たされ、称号もいつの間にか正式に授与された事になっていたのでタチが悪い。

旅の最中には何の役にも立たなかったそれらだったが、確かに現在の状況に於いてはそれなりに便利ではあった。堂々と城の中を闊歩出来るし、フレンと共にいる事を咎める者もいない。
が、それが逆にユーリにとっては悩みの種になっていた。



「やっと感覚を取り戻す事が出来たかな。体力もね」

「…よく言うぜ」

「何か言ったかい?」

「別に…。ほら、今日の鍛練はもう終いにすんだろ?とっとと戻ろうぜ、汗も流したいし」

刀を鞘に納め、フレンの肩を叩いて通り過ぎようとしたユーリだったが、フレンが腕を掴んで引き寄せた為に、よろけてフレンの身体に寄り掛かる格好になってしまった。


「おい、ちょっと…!」

「ユーリは逆に腕が落ちたんじゃないか?」

「あのな…だとしたらおまえのせいだろうが!」

「どうして?」

「どうって……あ!!」

フレンは掴んだ腕を更に引き、胸に顔を埋めたユーリの腰に素早くもう一方の腕を回してしっかりと抱き寄せる。
ユーリが顔を上げると同時に、その唇を塞いでいた。
勿論、自らの唇を重ねることで。


「んンンッッ!!?」

ユーリが抵抗して顔を離そうとするが、ユーリの腕を掴んでいた手が今度は首の後ろを強く押さえ付けてそれを許さない。

「ふ……ッ、ん……!!」

舌を差し込まれて徐々に激しくなる口づけに堪えかね、ユーリは何とかしてフレンの腕から逃れようと身を捩る。肘から下をばたつかせていると、ふと指先に何かが触れる。
ユーリはそれを手繰り寄せて握り締め、一拍置いて一気に引き下げた。

「んっ、わ…っっ!?」

「ふっ、う…こ…んの、バカ野郎!!」


鈍い音を立てて、マントを留めていたボタンが外れた。ユーリが引っ張ったのはフレンのマントで、無理矢理肩を後ろに持っていかれたフレンが漸くユーリを解放した。


「何するんだ!」

「こっちのセリフだ!!時と場所を考えやがれ!!」


マントを地面に叩き付けたユーリが叫ぶ。
ここは城の中庭で、誰が見ているかわからない。実際、二人が鍛練をしている様子を覗き見る者は多かったし、二人も特にそれを気にしてはいないのだったが。

「だって…その姿は反則だよ」

「おまえが着ろっつったんだろ……!?」

「時と場所を考えればいいんだろう?汗を流して来るならそうしてきなよ、僕は先に戻ってるから」

「ちょ…おい!!」

拾い上げたマントの汚れを落としながらさっさと行ってしまったフレンの背中を睨みつけ、ユーリは深々と溜め息を漏らすのだった。







「あ、やっ……は、ぁあ…!!」

「ん…ユーリ、腰、上げて」

「こ…っ!おまえは、少し我慢ってもんを…!!」

「ちゃんとユーリの希望を汲んだじゃないか。それに…」

フレンの右手がユーリの腰をなぞりながら下りて行き、中心となる部分をゆっくりと撫で上げる。
普段ユーリが着ている服よりも上質で指触りの良い布地に包まれた下半身が緩く勃ち上がっているのを掌に感じ、それを軽く握りながらユーリの耳元に唇を付けてフレンが囁いた。

「…君だって、我慢するの…もう、辛いだろう?」

「あッッ、やァ…っっ、め…!」

きゅ、と力を入れてみると掌で徐々に熱さを増す中心に触れながら、フレンは小さく笑う。組み敷かれたユーリが悔しそうに唸り、恨めしげな眼差しを向けた。

「あっ、ああッ!やめ、これ一着しかないんだから、汚……す、なっ、てッッ!!」

「だったらほら、大人しく腰を上げてよ」

「くっ……そ……!!」

悪態をつきながらも素直に腰を浮かせたユーリの首筋に口づけながら、フレンの手が丁寧にユーリの衣服を脱がしていった。

既に取り払われた腰布がベッド脇に落ちている。更にその上に脱がされた下穿きが重ねて落ちて、その周りに散らばった書類が微かな音を立てた。

書類は部屋に戻る途中でユーリが受け取ったものだったが、フレンはユーリが戻るなりユーリをベッドに押し倒した。手にしていた書類はその時に全て床の上に取り落とされ、なんとも無惨な姿を晒している。

後から拾い集めて順を揃えるのが面倒だと思っていると、フレンの手がユーリの顎を掴んで上向かせた。

「…よそ見しないで、ユーリ」

そのまま唇を重ねられ、もうどうとでもなれ、と半ばヤケになりながらユーリも瞳を閉じた。




「あ、あぁッ!あぅ、んゃああ!!」

「はぁッ、…っは、ユーリ、ユーリ……ッ!!」

「フレっ……ん、むぅッッ!!っふ、んんン!!」

フレンの熱いものに穿たれ、ユーリが甘い声を響かせる。何度でも聴いていたいその声を発する口を敢えて塞ぐと、苦しげな呼吸が鼻から抜け、それがフレンの頬を擽った。
どちらも甲乙付け難い、自分だけが聴くことの出来る調べだ。ユーリと身体を重ねる度にフレンはそう思う。

聖騎士姿のユーリは凛とした立ち居振る舞いがより一層際立ち、何気ない仕種も優美さを増している。そう思っていないのは本人だけで、知らずユーリは周囲の視線を集めていた。

高い位置で一つに纏めた髪がさらさらと流れるさまはすれ違う者を振り返らせ、しなやかなラインも露な肢体に目を奪われるのはフレンだけではない。

本当はユーリがそのような視線に晒されるのは我慢ならないが、今目の前でその肢体をいやらしくくねらせ、伸びやかな脚を絡ませて更に深い繋がりを求めるユーリの淫靡な姿は自分しか知らない。
そう思うとフレンはどうにも抑えが利かず、こうして激しくユーリを求めてしまう。

行為が始まってしまえば快楽に没頭して乱れるユーリの声をもっと聞きたい。
切なげに柳眉を歪め、白い肌が熱を帯びて朱く染まってゆく姿をもっと見たい。

何より、触れ合う肌の熱さをもっと感じたい。

強く打ち付ける度に上がる卑猥な水音と、途切れがちになり始めたユーリの喘ぎに頭がぼうっとしてくる。

見下ろした視界に映る白い喉元に舌を這わせ、ますますのけ反るその場所を強く吸った。

「っああッ!!あっ…は、バカ…っ!跡、が……!!」

唇を離した場所には小さく紅い徴が濡れていた。

「見えるトコにっ、付け……な、って、ン、何回言わせ……ッあ、ああぁ!!」

抗議の声も途中から嬌声にしかならない。
フレンは動きを止めることなくユーリを突き上げ続け、様々な場所に愛撫を加えて責め立てる。

的確に性感を刺激され、ユーリは飛びそうになる意識を繋ぎ止めるのに毎回必死だった。

気を遣ってしまった後に意識まで手放してしまうと、その間にフレンがユーリの身体を清めているらしかったが、ユーリはそれが恥ずかしくて堪らないのだ。

こうして身体を繋げている際に自分が漏らす声を聴かれる事も、どうにも出来ず乱れる醜態を晒す事も、羞恥のあまり死にそうなことには変わりない。

だが、目の前のフレンの欲に染まった瞳に見つめられ、余裕のない息遣いを感じるのは悪くない、と思っている。
何事も軽くこなしてしまうフレンが、自分に執着して側に置こうと必死な姿が愛しく思う辺り、ユーリもフレンのことをどうこう言えた義理ではないのだ。

しかし、毎晩激しく求められ、ただでさえ身体に負担の大きい受け身である側なのに意識を保つために精神力まで消耗させられ、それで『体力が落ちた』などと言われたのではたまらない。

ふと見た先に、フレンに脱がされた聖騎士の衣装が映る。
僅かに潤んで滲む視界の中でそれを見つめながら、やはりあの姿は拒否したほうが良かったか、などと考えていたら、再びフレンの掌が頬を包んで正面へと顔を向けられた。


「よそ見、しないでって…言ってる、だろ……!」

少しばかり拗ねたような表情も、一瞬で本能を露にした雄の顔へと変わった。

背筋にぞくりとしたものを感じながら、同時に喩えようのない快感を覚えて思わず喉を鳴らすと、自らの体内を執拗に蹂躙していたフレンの熱の塊が大きく脈打つのを感じてユーリが悲鳴のような喘ぎを漏らす。

それに呼応するかのように勢いを増したフレンの責めに揺さ振られ、抱えられた腰が大きく跳ねた。


「ひァ、イあっ…あああぁぁッッ!!!」

「くぁ、あ、う……ッく…!!」


同時に絶頂を迎え、フレンがユーリに覆い被さるようにして倒れ込む。
互いに埋めた髪に汗の匂いを感じながら、相手から離れられない事をどうしようもなく思い知るのだった。






「…やっぱり、一着しかないというのは考えなくてはいけないかな」

「おまえの手伝いする時以外はいつもの服でいいじゃねえか」

「ここにいる間はあの姿でいてもらいたいんだけど…。ユーリが騎士団に戻ってくれるなら、その辺りのことも考えてもらえるかも知れないよ」

「いい加減にしてくれよ…おまえがもう少し我慢すればだな」

「無理だね」

「…………」


静かな部屋の中に、悩ましげなユーリの吐息が染み込んでいった。





ーーーーーー

終わり
▼追記
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