(藤.谷治 著)

2001年10月11日、11:31に取り残された男が背中に張り付いた麻袋(のようなもの)とともに、進まない時間をひたすらノートに書き残す話。「想像力の文学」と銘打ってあるだけに、想像しないと投げ出しそうな文章です。
時間が止まっているのではなく、男以外の存在は11:31を通りすぎてゆく。しかし11:31分にしか居られないのに、何十分もあるクラシックを聞くことも出来る。時間は方向性にすると前へと進んでいる。そう考えるならば、男は11:31を横に引き延ばした場所にいた、それくらいのイメージでいい。実際、これは語り手の精神空間に置けるもので繰り返しというスタンスでもないし事実どんな時間経過なのか詳細まではわからない。途中、11:31の世界にいる人間が電車という、否応なく出発時と到着時に差が出るものに乗ったらどうなる?という話になったときある種のバッドエンドが来るかと思いました。

かみ砕くと、これは時間概念に念頭を置いた作品ではなく、自己の精神分析の作品です。
日増しに大きくなる麻袋と衰弱していく男。麻袋から出て来たのも同じ男。この光景が蛹が成長する様で、自己の脱皮というところに落ち着くのはスタンダードにしても、表し方が変化球でした。
あと、読み終わって清々しい感じはしません。キレイさっぱりの簡潔ものではなく、後に残る、自己対話の悶々としたものが読みたいときにはいいかもしれません。