トキ音

これまたトキ音ワンドロお題
7月の「手をつなぐ」
でした。途中でこれじゃない感と、相変わらずKeyの系譜でしか考えていないのでどうしようか迷って、忘れていた代物です。
これ以上描きはしないと思うのでこちらに投げ込みます。

[utpr]サボテン

『サボテン』




朝起きると、ベッドの上を、手が彷徨う癖がついてしまった。

「今日は俺の家」

正確には、俺一人の俺の家。
ベッドがいつもより冷たく感じるのは、慣れた温もりが側にいないからか。
外から聞こえるザァザァという雨音なのか。
スマホの時計を見ると、いつものこの時間にしては暗い。

日中は相変わらず猛暑日が続くのに、朝夕は少し肌寒さを感じるようになったこの季節。
昨日の夜に回した洗濯物を干さなきゃいけないのに、この調子だと渇きも悪いだろうな。もういっそまとめて洗ってランドリーに持って行った方がいいかもしれない。

動く為の今後を考えても、まだ布団の中で一人暖を取ろうと試みる。

トキヤのベッドの方がよく眠ることができる。そう感じてからなおのこと、冷たい空間を温めようともがく。

一人暮らし。本当の一人暮らしが始まって、まだ慣れたとは言い難い。
施設にいた頃は4人で一部屋だったし。早乙女学園に入っても、同室のトキヤと一緒に過ごした。マスターコースの寮も、その後暮らした寮も、近くに誰かの気配を感じることができた。
でも今は違う。
自分一人で起きて、食事をして、洗濯したりお風呂に入ったり。散らかったら片付けたり。
一人部屋って憧れていたこともあるけど、ただ自分のためだけに用意された物たちに、どこか馴染めないでいる。
片付けも、他の誰かがいるから散らかっているって思うんだ。自分では何がどこにあるかわかるのに、それをどうこうしなくてもいいとは思ってしまうけど。服がその辺に積まれていても、俺はそこに何があるって大体わかるから。
思い出のいっぱい詰まったものが目に届くところにあった方が、安心する。
『服は洗濯したらすぐに干しなさい。痛みますよ』
『なんですかこの箱は』
トキヤが来た後は、少しスッキリするんだけどね。
時折俺よりトキヤの方が、俺の部屋のことを知っている。
これって、いつか慣れる時が来るのかな。
ゴロリと寝返りをうって、どうにかぬかるむ思考を振り払おうとした時、視界に入ったサボ太にはっとする。
「ごめんね。一人だって言って。お前もいるのにね。」
トキヤみたいにベランダで植物菜園なんてものはできなくても、ずっと一緒にいるのはサボテンの「サボ太」だ。
「おはよう。今日は天気悪いみたいだね」
いつもそこから見てるか。
俺よりこのウチの主かもね、お前。
でも、こうやって誰かに(何かに?)挨拶をすると、意識が覚醒してきた。挨拶って切替スイッチなのかもしれない。
あれ?
あ!

サボ太に小さく蕾がついていた。

春にトキヤが子株を丁寧に取ってくれた。
せっかく成長する子株を取り除くのは心苦しいと思っていたけど、あまりにも増えてきてどうしようかなと思っていたら、
『心苦しくはありますが、一つを育てるために、間引くことも必要なんです』
その分綺麗な花を咲かせてくれるかもしれませんよ。そういう悲しい作業をお願いしちゃったもんね。
「うわっ、全然気づかなかった。ごめんねサボ太。トキヤに知らせとこ!」
そうとなると、ベッドに張り付いていた身体はいともたやすく剥がれる。
写真を撮って、メッセージアプリに載せる。
いつもはスタンプで挨拶をおくるが、今日は言葉にしたかった。
「『おはよう!今気づいたけどサボ太に…』」
言葉を打ち込む間に、写真には既読の文字がついた。このメッセージの先で、トキヤは起きて、一緒にサボ太を見ているんだな、なんて思っていたら顔がにやけてしまった。
サボ太はあきれてるかな?
メッセージを送ったらすぐに返事がきた。

「『おはようございます。良い朝ですね。サボ太さんにもお伝えください』……だってよサボ太!」
また通知の音が入る。
起きているなら、今から俺の家に寄ってもいいかって。雨でタクシーを使うから、ついでに俺が頼んでた物持ってきてくれるって……。

「あっ!洗濯物…!あてっ!」
慌てなくてもいいのに、扉にぶつかってしまった。その様子を見ていたサボ太に『トキヤには黙っててね』と恥ずかしさを覚えながら、お願いした。





別に意識したつもりは無いんですが、雨の日のサボテンって、ポ……グラフィティさんの曲が頭の中に残っていたのでしょうか。内容は全く関係ないのですが。サボ太さんの近況を知りたいです。
音也一人暮らし慣れてないだろうな、を擦りまくっています。早く同棲して。

宗キス

宗介お誕生日おめでとう!
祝い感全くないのですが、以前描いた宗介と貴澄添えておきます。


作中において貴澄が水泳を出来るかどうか描かれていないんですけど、颯斗以上に水に対して恐怖感があったら……などと考えております。
なかったよね、たしか。

眼の前で颯斗が溺れているのを見ていた貴澄ですから、あの心配の仕様といい、もしかして水苦手だったりしないかな。

宗介がそれを知っているなら、無理には入れさせないだろうけど、側で水を克服できるように、見守ってくれそうだなーー!というか見守ってください!という捏造妄想です。

なんにせよ、どうして貴澄はいつも宗介の側で宗介に見えないようにやさしく微笑むのか、それを浴びるたびにしんどいよ。気づいて宗介横の人のその視線に。

【utpr】添い寝

トキ音オンリーさんワンドロ
8月のお題「添い寝」
SNSの方は大大大遅刻なので、ここでそっと上げさせていただきます。
「Key」の系譜話となってます。





『添い寝』

『トキヤのベッドってどうしてこんなに気持ちよく眠れるんだろう』
持ち主より先に布団に入り、持ち主より後に寝癖をつけながら起きた男は、至極真面目にそういった。



安心して眠ることができるといわれて、嬉しいと感じたことも確か。
彼にとって安心できる場所であることは、自分の存在を、今の関係を、許されている気もした。
もとよりデビューし、お互い寮を出て一人住まいをしている。近い場所にいた。同室であることも、寮での生活も。それが今は、遠くはないが、近すぎもしない場所でお互いの帰る場所を得た二人だ。
とはいえ、互いの家を行き来することは多い。
仕事柄としても。名目上、自分達は恋人としても。


しかし、あまりにも気持ちよさそうに、掛け布団を抱き枕のようにして眠る姿を見て、幾分面白くなさを感じたのは、今。
自分が入れるように半分スペースを空けていることは褒めるが、掛ふとんは見事に譲る気はないらしい。

好きな人といたらドキドキする。
なんていうのに、この緩みっぱなしの口は言っていたはずだが、安心しきったこの寝顔からは、ドキドキしているようには一切感じない。

「寝込みに手を出されることなんて、一切考えていないでしょうね」
まだそういった関係には至っていない。
口づけを交わすことは多くなったが、その先となるとまだ踏み出せずにいる。ベッドの上といえばそう言った想像もするだろうに。
人のベッドの上で気持ちよさそうに眠っている男の、ふにゃりと緩んだ寝顔。
まったく、何をにやけているんですか。
私がそばにいるというのに。夢の中のそれの方がいいのですか。


「こっちに、…おいでよ」


不意に聞こえた声にドキっとする。
しかし、その後聞き取れない何かをもごもごと口から唱え、また寝息が聞こえる。
「誰を呼んでいるんですか、まったく」
答えてしまって、はっとする。またやってしまった。
夢には答えてはいけないと言うのは都市伝説のようなものだが、せっかく眠りについているものを起こすのも心苦しい。
しかし、おいでと呼ぶソレが自分以外なら、これは大問題だ。私のベッドで一体どんな夢を見ているのか。
「まったく、その夢には誰がいるんですか」
安心して眠れると言う割には夢を見ている。良質な眠りではないじゃないか、と思うが。寝顔は変わらずおだやかだった。
いい夢を見ているなら、それは悪くは取らなくていいのだろう。


同室の時は、寝顔を見ることも当たり前だった。自分が仕事から帰る頃にはいつも布団の中の住人だったのだ。

『おいていかないで』
かあさん。
本当に、夢を見ながら泣く人がいるのだと、知った。
夢の中の彼は、きっと在りし日の母親に手を伸ばしたのだろう。
おいていかないで、と寝言を言う彼に、小さな自分の姿を重ねたこともある。
それが、今は幸せそうに誰かを呼ぶ。
そうなった側に、己の存在があるのだと思えば、寝顔を思い考えてたこと全てが、どうでもよくなった。
単に、寝る前にあれこれ考えるのも疲れたのだが。


体を寄せ合ったら、一つになったら、その夢を、私も見ることができるのだろうか。
夢の中でさえも、会いたいと願うなど、自分がこの男にどれだけ飢えを覚えさせられたのだろう。
瞼に一つ口づけをして、自分もそばに入る。二人が眠ることを想定して買ったセミダブルのベッドは、余すことなく全てを受け止める。
体を寄せれば、温かい鼓動が聞こえてくる。
おいでよと、いうとおり、眠りを呼ぶ。
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