今、貴方は本当に幸せなのですか。
何回もの紆余曲折を経て、不幸ではないと言えますか。
なかなか貴方は、人に弱さを見せない。それが、誇りであり、確固とある証明だと思っているのでしょう。
確かに貴方は、偉大でした。かつて、大規模に戦ったときも。しかし私が、巧みな戦法で遂に貴方を打ち破ったときには、貴方は私の手を取り、褒め称えてくださいました。
貴方はそういう人です。負けは素直に認めるが、誇りは捨てないのです。
争ってしまったのも、貴方は私が欲しかったからでしょう。温かい海と、花の彩りに魅せられたのですね。でも私は知っています。貴方は、厳しさの中に、優しさを育てている方であることを。
全てが凍り付く、使えないと怒りますが、短い夏には雪解け水に植物も生えると知っています。
あの後、貴方は、正義への道に進んで行くことになります。旧来の因習を打ち棄て、新しい未来へと向かって。
貴方は先行く人となりました。
北の海で競い、格差の下で働く厳しさを知り、貴方の懐へと逃げて行く人もいたようですね。その後、どうしたかは知りませんが。
貴方は、約束に反して、私の中に入り込んだことがありました。その時、労働の楽しさではなく、厳しさを身を以て教えられた人も居ましたし、何より、まだ預かった物を返していただけていませんよ。
約束違反など私はしないと、貴方は仰いますが……、相手の目を見据えながら、平然と嘘をつけてしまう貴方の二面性は存じ上げています。いえ、貴方が言えば本当になる……のかもしれません…、いや、いやいやそんなことはございません。
内にも外にも厳しい貴方は、理想をいち早く、現実のものとするために、暴力も厭いませんでした。推し進めていく過程で、粛清の嵐が吹き荒れ、沢山の衝突が起こりました。あの頃のとんがっていた貴方は、しかし、遠くて近い永遠のライバルでした。貴方の姿に憧れた人も、多かったのですよ。
理想の為なら万人の死をも厭わない。それは美しく、潔いことに見えました。
貴方の理想と強固な態度に、反発していた私にさえも、貴方は時々容赦なく銃口を向けました。そんな貴方が、実は好きだったのは誰にも言えない秘密です。出来たら、二人で話してご教導願いたかった、なんて。
けれども、ある日、貴方は急に、あれほど堅牢な鎧を脱ぎ捨ててしまいました。はらりと。いつか因習を払い除けたときのように。
強固な信念も遂に折れるときが来たのかと、私たちは意外に思ったものです。
失敗したと、貴方は言われました。全てが計画通りには行かなかった。初めから無理があったのです。
貴方は、外に優秀さを示そうと、とても頑張っていました。自分さえもきつくなって、耐えられず、倒れてしまうほどに。しかし貴方は、必死で頑張らなくとも、素敵な、良い方です。
いつか貴方が食べさせてくれたシチューは、とても温かでした。そして、たまに見せる微笑みは無心で可愛らしい……が、故に、怖くなってしまうこともあるのですが……。考えすぎでしょう。
極端で、中間を許せない貴方は、今の自分の在り方に納得していないかも知れません。
でも、私は、知っています。自由を受け入れることを決めた会談で、貴方は、穏やかで和やかな表情を見せていたことを。
貴方は優しい人です。きっと、皆が輝けて、仲良く助け合える、そんな世界を作りたかったのだと、私は思います。推し進めたのも、早くそれが実現して欲しくて、良かれと思ってしたことです。貴方のあのやり方では、辿り着けなかっただけです。これから探せば良いのですよ。
吹きっさらしの野原に花が咲く訳はないと貴方は言いました。でも、私、見たのです。草に混じってたんぽぽが咲いているのを。それも、大きな、大きなたんぽぽが。
その種を吹き飛ばしたら、遠くで、花が咲き、沢山の種をまた、付けるかも知れませんね。
そんなとき、お互いに平和で、仲良く居られたら、それ程素敵なことはないのではないかと、私は思います。
私に似合わず、長々と話してしまいました。
硬くてお付き合いの難しそうだった貴方ですが、最近はとげが抜けて、実に可愛らしくなりましたね……。マトリョーシカのように。隠されて、何層にも奥深い。そんな貴方が、私、非常に好きなんです。表立っては、言えませんけどね。
だから、見守らせてくださいね。貴方が構わなければ。
何だか気配が…。誰か来たのかな。こんな時間に誰だろう。