時系列主観めちゃくちゃ。
現パロ。
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「ピアノ、弾いてもいい?」

 奴は、俺の目を視線で掬い上げるように尋ねた。

「……ああ」

 俺は、射すくめられたようにそこから動けなかった。
 奴の冷たい指が、俺の手に重なっていたからとか。
 随分長い間、こんな真正面に奴と見合うことがなかったからとか。
 そんな理由ではなく。
 ただ俺は、その体勢から動くことができなかった。
 下から覗き込むように、顔を寄せられる。
 何度目かの呼吸の後、口が触れて、一瞬心臓が跳ねる。
 他人の粘膜と接するのが久しぶりすぎて、そこから進むことに戸惑いを感じた。
 妙に張り詰めた空気とは対照的に、奴はとても穏やかに見えた。

「ピアノ、弾くんじゃなかったのか」

 解放された口で、それだけを言う。

「ピアノは逃げない」
「……俺だって逃げねえよ、」

 今更、と続けようとした言葉は、再び遮られる。
 鳥の声と波の音に包まれたまま、固まって動かない俺は、奴の体温に絡め取られた。
 薄闇の中に浮かんで見える白い皮膚は、どこか乾いていた。