※予告通り,ヒカ鬱話。
アキヒカ恋人未満。アキラさんはでてきません。
青とオレンジ色がまだらに染まった雲。そのずっと下にある棋院の屋上で,俺と和谷はただぼぉっと突っ立っていた。
駆け抜けて行く風。
今日はうっとおしいとは思わなかった。
今にも西に沈もうとしている太陽が,明日になればいつもよりいっそう輝きを増すんじゃないかと一人期待に胸を膨らませる。
俺は今,自分で叩き出したこの結果から,確実に生まれる近い未来を心底楽しみに思っている。
「お前さ,やっぱスゲェ奴だったんだなあ。」
和谷の感心にも嫉妬にも似た口調に,「そう変わらないさ。」と曖昧な返事をする。
俺は今日、とある対局に勝利し決勝の切符を手に入れたのだ。何やらそれが最年少だとかなんとかで,大騒ぎになり,さきほどもこの屋上の下の階で取材に応じていたところだった。
「俺もがんばんなきゃなっ。同期のお前だけに良いカッコさせてたまるかって。」
もたれている鉄製のしきりをギシギシさせて和谷が笑う。同時に「おめでと。」と言ってくれた事はもちろん聞き逃してない。
そうこうしてる間に太陽がビルとビルの間に完全に隠れてしまった。時計を確認しようと,ジーパンのポケットにいれていた携帯を取り出す。すると届いていた大量の着信とメールの数に思わずぎょっとする。
いち早く勝敗の情報を聞き付けたみんなが一斉に連絡をしてくれたらしい。
「どうしたんだ?」
「あ。いや,いつの間にかたくさん着信入ってて。」
メールの内容は全てが全て,仲が良く,共に高めあって来た仲間からのお祝いメールだった。
社に越智。伊角さんにに奈瀬に福、森下先生まで様々な人から。
――でも、やっぱり。
小さな期待は裏切られた。
――あいつからは何一つ届いていない。
「お祝いメールかあ。よかったな。みんなお前の事,ちゃんと見てるんだぜ。幸せ者だよ。」
「…進藤?聞いてるか?」
「あ。聞いてる聞いてる。」
慌てて携帯をしまうと,なんでもない風を装った。
和谷がしみじみと言うから余計に切なくなる。
ちくん…と胸が痛んだのは『みんな』という言葉のせい。
俺は薄情者だ。『あいつ』じゃなくちゃ何も意味がないと思ってる。
みんなからのメールはこんなに嬉しいハズなのに。
一番『欲しい』と思っていた奴からの着信は,
ない。
「…はは。『みんな』か。」
「なんだよ。」
「絶対『来ない』って分かってるのに,俺、待ってるんだぜ。」
うわ言のように。
「……進藤,…なんの話だ?」
「だって俺,そんな奴が一番好きなんだ。メールも電話も,何もくれない奴の事がさ。」
独り言のように呟く。
俺の言葉の意味がわかっていないであろう和谷は,頭の上にハテナマークを飛ばしている。
一番好きな奴は、俺のことに対してはとことん無関心だ。
無関心の反対語は愛情なんて、よくいったものだと思う。
露骨に不思議そうな顔をしている和谷をなんとか諭して,俺達は棋院を後にした。
END
電話もメールもくれなかったのはもちろんアキラさんです。鬱話完結編です。5月のうちにUPできなかった 笑
ヒカ視点は絶対無理だと思ったのに,ちょっとでもシリアスになると大丈夫らしいです。むしろアキラさんが難しそうです。。。
ほのぼの甘甘→アキラ視点
シリアス→ヒカル視点
みたいな。