へっぽこハロウィン企画
※★椿です。ちょこっとソウマカも。
いつものようにブラック★スターと食堂に向かう途中、幾人かからの視線を感じたのは、どうやら気のせいではなかったみたい。
それは後にわかること。
《knEw yAt!!》
ひとしきり視線を浴びせたあと、何かこしょこしょと内緒話を始める、名前も知らない死武専生達が目に付く。
『ブラック★スター、ちょっといい?』
不審に思って、となりを歩くブラック★スターに耳打ちすると、
『んぁ?』
とぼけた返事が返って来た。
『…なんか見られてない?私達。。。』
みんなからの視線なんていう大それたものではないけど、いい気分はしないもの。
『ははぁーん。なんたって俺様はビックだからよ!!!真っ昼間から視線独占だぜ!なっ!椿!』
『……そうね。』
自称ビックらしい満面の笑みの彼には、苦笑いでおかえしをしておく。
ブラック★スターには悪いけど、多分そういうものじゃない。
(ま、いいか。)
自分に思い過ごしだと言い聞かせ、適当に空いているテーブルを見つけると、二人してイスに腰掛けた。
『腹減ったぁ。何食お。椿は決めたか?』
『そうね、私は――』
『椿ちゃん、いたいた!!』
背後からは聞き慣れた声。驚いて振り替えると、そこにはすでにおぼんに乗った学食を抱えるマカちゃんと、ソウル君が立っていた。
『よう!ソウル!マカ!』
『よー。』
ブラック★スターとソウル君は顔を合わせるなり、パチンとハイタッチ。
二人は仲の良い友達同士だ。
話の口火を切ったのはマカちゃんだった。
『椿ちゃん、もうパートナー決めた?』
『『?』』
マカちゃんの唐突な質問に、すっかり"?"を飛ばす私とブラック★スター。
取りあえず、向かいの席に座るように諭して、今日は四人でのお昼になった。
『パートナーって何の話なの?マカちゃん。』
マカちゃんは少し驚いたような表情を見せて、ソウル君に目配せをした。
『聞いてねぇか?あれだよ。ハロウィン恒例の死武専企画。今年はダンスパーティに決まったらしいんだ。椿は誰と一緒に出るんだよって話。』
『そうなの。たくさんの男の子から"椿ちゃんを誘ってくれ"って頼まれちゃってるの。返事を聞きにきたんだけどさ。』
そう言って、マカちゃんは次々に、聞いたこともないような男の子達の名前を上げる。
つまり、私はダンスパーティのパートナーにと、たくさんの男の子から誘いを受けているらしい。しかも仲がいいマカちゃんを伝って。
さっきお昼前に感じた視線は、その男の子達のものだったのだろうか。
でも正直、マカちゃんには、余計な手間をかけさせていることになってる。
(だって私の、
私のダンスパーティの相手は。)
『椿はモテるからなあー』
ソウル君がからかったようにマカちゃんを見る。
『悪かったわねモテなくて!私はソウルがいるからいいじゃない!!』
『そうでした。』
この二人の夫婦漫才もとい、痴話喧嘩(?)に微笑みながらも、私は内心、ブラック★スターのことばかり気になっていた。
私はもちろん、ブラック★スターとダンスパーティに出たいと思っていた。
『で、返事どーすんだよ。』
放課後。いつもの二人での帰り道。
その話題には一切触れてこなかったブラック★スターに突然そう問われて、
始めから誘いなど受けるつもりがなかったことを、ようやく伝えることが出来た。
『…返事は誰にもしません。』
隣りを歩くブラック★スターに、少し遠慮がちに距離を縮めて言う。
"私のパートナーはいつだってブラック★スター。踊りたい人も、もちろんあなただけよ。"
そう、心の中で呟きながら。
この本心を、どうしたら言葉にできるのだろう。
堂々と、何の迷いもなく、
彼に伝えることができたら。
『今更だよな……』
ブラック★スターが何かをボソリと呟いた。小さな声だったので、すべてを聞き取ることはできなかった。
『え?』
聞き返そうと反射的に振り返るけど、彼の顔は真っ直ぐに正面を向いていて、表情さえ上手く読み取れない。
『"今更椿の良さに気がつくなんて遅いんだよアホどもが"って言ったんだ。
俺……、椿が良い奴だなんてこと、ずっと前から知ってるのによ。』
胸にずっと渦巻いていた黒い煙幕のようなモヤモヤが一気に吸い取られて行く。
ブラック★スターの一言によって、すべて浄化されていく。
彼の顔が心なしか赤く染まって見えたのは、この夕日のせいだろうか。
それとも。
『…ブラック★スターは、踊り方知ってるの?』
絞り出した声が、あまりにもたわいもない言葉として消える。
『ったりめぇだろ!!ダンスだってなんだって全部俺様流よ!!
椿、ついて来いよな!』
『……はい!』
……それってつまり"踊れない"ってことなんじゃ。
そんなことを思いながら、差し出された手を握り、二人して子供みたいに元気良く腕を振って歩いた。
天にも登れそうなこの気持ちが、どうか私だけじゃないといい。
手で繋がったこの人も、そう感じてくれていたなら、
こんな嬉しい事はない。
END
……これ、夏原駄文ランキングの3本の指に入るな。