続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい。







暖かい感触に包まれた瞬間に達しそうになるのを、フレンは必死で堪えた。

あのユーリが美しく着飾っている姿を見ているだけでも我慢するのが辛かったのに、肌を触れてしまえばもう抑えなど利かない。
自分の性器を口に啣えながら、時折挑むような視線を投げ掛けるユーリの表情も、いつも以上に卑猥に感じてしまう。

ここは自室ではなく鍵を掛けたかどうかも定かでなかったが、誰かに見られてもいいとすら思っていた。
信用を失う事より、ユーリを失う事のほうが恐ろしい。ユーリもそうなのだろうか、と思って髪に手を触れると、顔を上げたユーリと眼が合った。

熱を帯びて蕩けた瞳がいやらしく見返し、濡れた唇の鮮やかな赤に釘付けになる。

ユーリがゆっくりと舌なめずりをしながらフレンの身体に自らの身体を重ね、そのままフレンの胸元に顔を埋めてぎゅうっと抱きついた。頬を擦り寄せる様子がまるで猫のようだ。
その項にそっと手をやり、優しく撫でてみる。


「ん…っ、何だよ…擽ってえな」

「…今日のユーリは何だか猫みたいだな」

「そうか…?」

顔を上げたユーリがフレンの頬をぺろりと舐めた。

「…こんな感じ?」

「…猫の真似をして欲しい訳じゃないよ」

「贅沢な奴だな…だったら」

ユーリがフレンの首に腕を回し、ぐっと力を入れて引き起こそうとするので、フレンは身体を起こした。中途半端に脱がされているフレンと違い、ユーリはまだドレスを身に着けている。

長椅子の上、フレンの足の間に収まるように座るユーリは、ドレスの裾を派手に捲り上げて見せた。


「そろそろ邪魔なんだよな、コレ。…脱がしてくんない?」

「…もう少し見ていたいけど」

「どうせもう一回着るんだからいいだろ?」

ユーリはフレンの手を取り、先程触れていた首の後ろへと持っていく。どうやら、その部分の留め金を外せ、ということらしい。


「…本当に…今日のユーリはいつもと違うな」

「たまにはいいだろ…?こういうのも、さ」

「…そうだね」


言うと同時にユーリの腰を引き寄せ、言われるままにドレスを脱がしてゆく。露になった首筋に舌を這わせ、耳朶を甘噛みするとまた花の香りに目眩を覚える。

視界の端に白い花を捉えながら、その花よりも白いユーリの肩に噛み付いていた。




「あ――ぁ、ッあ!!」


ユーリが白い喉を反らせ、髪が乱れる度に汗と甘い香りが辺りに散る。
香りを吸い込む毎に興奮が増し、理性の箍がひとつずつ音を立てて弾けていくような気がしていた。

いつになく煽情的なユーリの様子も、妬いていると言うにはあまりにも挑戦的な態度も、全て愛しい。
ユーリが積極的に求めてくれるのなら、細かい理由など後回しにして応えるだけなのだ。鬱積していた様々な不満は、ユーリに触れて全て霧散したかのようだった。
ユーリの腰を抱え直して強く押し上げ、乳房を押し潰すように掌を捻ると、悲鳴とも嬌声ともつかない高い声が響き、フレンの耳に残響となって繰り返す。

少し乱暴な愛され方に、切なげに眉を歪めながらもユーリはフレンを止めようとはしない。強く抱き着いて離れず、フレンの首筋に顔を埋めて、フレンがしたのと同じようにその肩に噛みついた。


「つ……ッ!!」


鋭い痛みが走り、思わずフレンが声を上げる。

その拍子にユーリに触れている全てに力が入り、ユーリもまた悲鳴を上げた。


「んぁアッッ!!」

「う…っく、あ、ユーリ、ごめ……!」

「っの…、骨、折れるだろ…っが……!!」

実際、抱き潰しかねない勢いの力が瞬間的に掛かった。同時にユーリの身体にも力が入り、繋がる内側を強く締めつけられて快楽が一気にその部分に集中する。

ユーリの身体を抱き締めたまま動きを止めて堪えていたフレンだったが、今しがたユーリに噛み付かれた箇所にぬるりとした感触を覚えてそこへ視線をやる。

ユーリの朱い舌が、自らの付けた噛み跡を丁寧に舐めていた。


「…う………!!」

「ん…?ぁ、は………!」

ちろちろと蠢く舌と、それに合わせて響くぴちゃぴちゃと粘着質な音。瞳を閉じて忙しなく息を継ぎながらその行為を続けるユーリ。



どくん、と跳ねたのは何だったのか。



互いの心臓か、貫いている塊か、それを包む柔肉なのかわからない。

ただ、何かが爆ぜた。

いつもと違う姿、香り、場所の全てがひたすらに互いの興奮を煽って性感を高め、どんどん高みへと上り詰めてゆく。

これ以上の昂りはない、と思った時、ユーリの髪が解けてフレンの顔に降りかかり、かろうじて繋ぎ留められていた花が香りの軌跡を残しながら音もなく落ちた。

その香りが最後の刺激となって、フレンはユーリの腰を強く引き寄せた。
同時にユーリの背が大きく逸り、細く高い絶頂の嬌声を聞きながら、強く締めつけるその奥に熱い滾りを全て吐き出していた。







「――媚薬の原料…?」


姿を整えたフレンが呟く。
その手には、行為の最後で床に落ちた白い花が握られていた。
何かおかしいとは思ったが、まさか本当にそのような物の材料となるものだったとは。


ユーリもドレスを身に着けていたが、髪を元通りに纏めるのは諦めたようで、長い黒髪はいつものように背中に垂らされていた。


「ああ。その花の蜜を集めて精製すると、えらく強力な催淫作用のある媚薬が作れるらしくてさ」

「…そんなもの、どうして髪に飾ったりしたんだ」

「薬を作るから集めて欲しい、って依頼だったんだけどな。効果が強すぎてヤバいらしい。途中でジュディが気が付いて依頼は破棄させてもらった」

「そうじゃなくて…」


ユーリがフレンとは反対側を向いて隣に腰掛けた。


「で、エステルからの依頼の話はしたよな?」

「あ、ああ。…え、わざわざ依頼として受けたのかい?」

「そうすればカロル達もあの場にいられるだろ」

「…?それが何か関係あるのか…?」



フレンの恋人はユーリだということを周りの人間に知らせたい、と言われた時、ユーリは始めその話を断った。
だが詳しく聞くとフレンも確かに苦労はしているようだったし、そのようなことで煩わしい思いをしているのなら馬鹿らしい。

「…まあ、あんまりいい気がしなかったのも確かだしな」

「それでこんな事を?普通に会いに来てくれればそれでよかったのに」

「おまえには好きな女がいる、って周りの奴に解らせる為なんだから、それじゃ意味ないだろ」

フレンに付き纏う者を諦めさせるためだったのだ。
そのため、エステルが言うには『あんな美人には私なんか敵わない、って思わせなきゃだめです!』という事で、こうして着飾るはめになったのだ、とユーリが言った。

だが、それと花が何の関係があるのか。
再び問われて、ユーリがふと顔を逸らした。

「エステルから話を聞いて、その…ちょっと不安になったんだよな」

「不安?何に?」

「いや、まあ…美人ばっかの中にオレが出てったとこで、別に向こうは何とも思わないんじゃないか、とか」

「…は…」

思わず吹き出したフレンだったが、鋭く睨まれて慌てて笑いを飲み込んだ。まさか、ユーリがそのような事を気にするとは思わなかった。

装いが地味ではないかと気にしたのも、自分を見て相手が身を引かないのでは意味がない、と思ったからだ。

それに、エステルのような可愛らしいデザインのものを着るつもりもないし似合わないのもわかっている。だが、美しく着飾った女性を見慣れてしまって、フレンが『その気』にならなかったら癪だ。

だから一輪だけ花を拝借した。

強い作用を持つのは蜜で、香りはそれほどでもないと聞いていた。

「もし他の奴らが邪魔でおまえに近付けなかったり、逆に万が一花のせいでおまえが暴走したりした時のためにみんなにも一応来てもらったんだけど。まあ、今頃普通に楽しんでんじゃねえの」

「…君の思惑もうまく行ったし?」

「うるせえな、いいだろたまには!」


何を今更照れているのか、と思いながら、フレンは指先で花を弄んでいた。まだ微かに香りはするが、もう情欲を誘われることはない。

こんなものに頼る必要などないのに、と思いながらも、複雑な気持ちだった。


「…ねえユーリ」

振り向いたユーリの髪に花を挿し、そのまま頭を引き寄せて胸元に押し付けるようにすると、鼻先を今飾ったばかりの花が掠める。


「もう、これを使うのはなしだからね」

「ん?そんなにキツかったか?てか効果あったのかよ」

「…一応、あったような気はするけど。でもこれはもう使ったら駄目だ」


首を傾げるユーリにフレンが言った。



「他の誰かを引き寄せたらどうするんだ」



本当は、花などなくともユーリに惹かれる者は多い。余計なものを近付けたくないのはフレンも同じなのだ。
ユーリもきっと、花の香りに酔っていたに違いない。いつもと違う大胆な行動も、説明がつく。



「君が花そのものなんだよ」


地味だなんてとんでもない。あのフロアで、ユーリが一番人目を引いていた。

そう言われて顔を赤らめるユーリの髪に口づけを落として、フレンはふと、口を衝いて出そうになった言葉を飲み込んだ。



使うなら、僕の前だけで


ユーリの蜜を味わう事ができるのは自分だけでいい、と思う。
だがこんな考えを知られたらただでは済みそうになかったので、それもまた自分の胸にしまい込んだ。




ーーーーー
終わり
▼追記