9/4 17:57拍手コメントよりリクエスト、フレ♀ユリ学パロ。お付き合いがバレちゃうお話です。







夕焼けに染まる教室で、そっと彼女の頬に手を添えてみる。
伏せていた瞳が上向くと真っすぐに僕を見つめ返してきて、そのままゆっくり顔を近付けてキスを――――


「あ、い、いたたたた。痛い、痛いよユーリ!!」

「フレン、おまえな…学校じゃやめろって何回言わす気だ!?」

「っちょ、痛いって!!分かったから離してくれ!!」



―――キスを、しようと思ったのにそれは拒否された。

思い切りつねられた頬をさすりながらユーリを見ると、ぶすっと膨れっ面をして僕を睨みつけている。

…恋人にキスしようとして、なんでこんな顔されなきゃいけないんだ。

いつもの事とは言え、理不尽ささえ感じるその態度に僕は深い溜め息を吐いた。


僕とユーリは小さな頃から一緒に育った幼馴染みだった。
そして、今では恋人同士でもある。
ある時、ユーリを一人の女の子として好きな自分に気が付いてから実際に告白するまでに相当の葛藤と苦労があったけど、想いが通じて晴れて幼馴染みから恋人に昇格できた。ん、だけど。


男女のお付き合いをしているという事を、僕らは周囲にひた隠しにしていた。

もともと幼馴染みで仲は良いから、学校でもよく一緒にいた。登下校だって都合が合う限りは一緒にしていたし、天気のいい時は昼食も外で二人一緒に食べたりしていた。
男の子のような口調で大雑把に見られがちなユーリだけど、料理は上手だしこれで意外と細かなところに気が付くし、そんなところは女の子らしくて大好きだ。

ただ、その『意外と細かい』部分が災いして、と言うか…恋人同士という関係になってから、むしろ僕らは前よりも一緒にいる事が減っていた。

ユーリが言うには『おまえのイメージダウンになる』からだそうなんだけど、意味がわからない。どうしてユーリと付き合っている事が僕に対してそういう評価になるんだろうか。
仮にそう思われるんだとしても一向に構わないけど、納得はいかない。だってそれは、ユーリが周りから良く思われていない、という事に繋がるからだ。


絶対に、そんな事はない。

確かにユーリは制服を着崩していたりたまに授業をサボったりしてはいるけど、そんなに、その…問題視するレベルじゃない。生徒会長の僕がこんな事を口にしてはいけないのかもしれないとは思う。でも、実際もっと素行に問題がある生徒ならいくらでもいる。

ユーリがやたらと先生方から注意を受けるのは、彼女が目立つからだ。


腰まで届くさらさらの黒髪はいつまでも触れていたいほど綺麗で、抱き締めて顔を埋めるとシャンプーの甘い香りがする。
すれ違い様に振り返るのは、何も男子生徒だけじゃなかった。

背も女の子にしては高いほうで、すらりとした身体にしなやかに伸びた脚の先まで全てが凛とした佇まいを醸し出している。
意思の強さを秘めた瞳も、すっと通った鼻筋もふっくらとした唇も全部引っ包めて可愛い。本当にそう思う。

そういった、外見的な意味でも目立つから、他の誰かよりもユーリが真っ先に何か言われる事が多いだけなんだ。
…制服の胸元は閉めて欲しい、と思うけど。

今までだってずっとそうだったし、ユーリ自身もあれこれ言われたところで直す気もなさそうだった。なのにどうして、僕と付き合うようになってから急にそんな事を言い出したのか、さっぱりわからなかった。


「ねえ、ユーリ」

「なんだよ」

ぶっきらぼうな返事が少し悲しくなる。…さっき、キスしようとしたから?

「何をそんなに気にしてるのか、教えて欲しい」

「…何度も言ってるだろ、おまえの評判が悪くなるからだって」

「僕も何度も言ってるよね、関係ないって」

「……………」
「……………」

二人して黙り込む。教室にはユーリがシャーペンでプリントに書き込む音だけが響いていた。
ユーリが書いてるのは反省文だ。最近、遅刻が多くなっているユーリはとうとう今日、担任に呼び出されて散々にお説教を食らった挙げ句、こんなものまで書かされている。
僕はそれを受け取って持って来るよう言われていた。


「…前みたいに、僕と一緒に登校すればこんなことしなくていいのに」


ユーリは答えず、黙々と手を動かしている。
『前』は、僕がユーリに告白する前は、毎日一緒に登校していた。遅刻しそうになった事は何度もあったけど、そんな時は僕がユーリの手を引いて全速力で学校までの道を走った。

今ではそんな事もない。
帰る時も別々だ。僕が生徒会の仕事で遅くなることが多いとはいえ、ユーリが僕を待っててくれた事は一度もない。

一度も。
…どうして?これじゃまるで、『今』が恋人同士じゃないみたいじゃないか。


「ユーリ」

「なん…」

顔を上げたユーリの頬に再び手をやる。ユーリの顔が引き攣って肩が震えたけど、今度は邪魔させなかった。

素早く引き寄せて、文句を言われる前に唇を塞いだ。
キスするのも久しぶりのような気がする。…柔らかい。

机を挟んでユーリの上半身を抱き寄せ、もっと深いキスを、と思って身を乗り出した僕を、ユーリが強く押し戻した。


「っ、やめろってば!」

「どうして?誰も見てない!」

「そんなのわかんないだろ!?」


勢い良く立ち上がったユーリの顔は真っ赤なのに、なんだか泣きそうに見えて僕は困惑していた。


「それ、書いたからな!責任持って担任に渡しとけよ!!」

「ちょ、ユーリ!君も一緒に」

「帰る!!」

「ユーリ!!!」


教室にたった一人取り残されて、僕は暫くその場に立ち尽くしていた。






「はあ……」

翌日の昼休み、僕は自分の席で一人、もそもそと購買のパンを囓っていた。ユーリのお手製のお弁当もこの頃はすっかりご無沙汰だ。
『付き合う』ようになってから、それまで当たり前だった事の殆どをなくしてしまった感じだ。…キスしたり、触れたりする事だけを求めてるわけじゃないのに…


「…何でなのかな」

「何がー?」

「は?うわ、びっくりした…!」

机の前に立っていたのはクラスメイトのアシェットだった。
少しお節介だけど気さくでいい奴で、僕だけじゃなくユーリとも仲がいい。


「何か用か?アシェット」

「用ってかさ…」

辺りをキョロキョロと窺って、アシェットがずい、と僕に顔を近付けて来た。

「…何なんだ一体」

「ユーリ、どうしたんだ?」

「どうした、ってどういう意味で」

「いや、最近一緒にいるとこ見ないなあ、と思ってさ」

「……そうかな」

「俺、おまえら付き合ってるんだと思ってたんだけどなあ」

「……………」

違う、とは言いたくない。でも後で知られてユーリに怒られるのも嫌で肯定も出来ずに黙っていたら、アシェットは一人で勝手に喋り出した。

「なんだーやっぱ違うのか?じゃああの噂、ほんとだったんだなあ。道理で」

「ちょっと待ってくれ、噂って何だ?何が道理で、なんだ」


「おまえらは付き合ってたけど、別れたって噂」

「何だって!?」


思わず大きな声を出してしまった。
確かに、恋人同士だっていうのはおおっぴらにしてないけど、それにしたって元から僕らは仲のいい『幼馴染み』だ。別れた、とかそんな言い方されるのは心外だ。

驚いて固まっている僕に、さらにアシェットが追い打ちをかけた。


「で、ユーリがフリーになったらしい、ってんであいつにコクる野郎が」

「はあ!?」

「……いる、って聞いて確認しに来たらマジでユーリがいないからああほんとなんだなー、と…」

「そんなわけないだろ!?アシェット、ユーリがどこにいるか教えろ!!」

焦りと不安でつい乱暴な口調になる僕をさほど気にする様子もなく、アシェットがニヤニヤしながら腕組みをしている。


「アシェット!!」

「なんだよ、そんなにユーリが気になるのか?」

「当たり前だろ!?」

今、ユーリが僕の知らない誰か…他の男と一緒かもしれないなんて我慢出来るはずない。ただでさえ、ユーリは…


「どこにいるかは知らないけど、どうせどっかベタなとこだろ、体育館裏とか」

「っ……!!」

椅子を蹴り倒して、僕は教室を飛び出していた。
アシェットが何か言っているのが聞こえたような気がしたけど、構っていられなかった。





「ユーリ!!!」


結局、本当に体育館の裏でユーリの姿を見つけた僕は、驚く彼女に早足で近付くと腕を掴んで自分のほうへと引き寄せた。

「お、おいちょっとフレン!?」

「…何してるんだ、こんなところで。もう昼休みも終わる、早く教室に戻ろう」

「え、うん…つか腕離せよ!」

僕の腕を振りほどこうとしたユーリを、逆に抱き締めてその頭越しに視線を前にやると、呆然とこちらを見ている男子生徒と目が合った。

…見覚えのある顔だ。確か、隣のクラスの…

「ふ、フレン!?何すんだ離せってば!!」

僕の腕の中でじたばたともがくユーリをちらりと見て、背中を抱く腕の力を少し緩めた。抜け出そうとユーリが僕から身体を離したところで、その肩をしっかりと掴んで――――


「え…っっん、んん!?」


「……ん……」


ユーリの唇と、自分の唇を深く重ね合わせていた。

当然ユーリは逃げようとしたが、もう一度その身体をきつく抱き直して腕に閉じ込め、更に深いキスを繰り返す。目を開けると、きつく瞳を閉じたユーリの顔が視界いっぱいに広がった。


「……ん、は…ぁ、っは…」

唇を離すと、ユーリの口から、可愛らしい吐息が漏れる。僕を見上げる潤んだ瞳も、制服のブレザーに縋りつく白い指も、僕のものだ。
他の誰かになんて、渡すつもりはない。


「…ユーリは、僕の彼女だから」


突っ立ったままの男子生徒を睨みながらそう言ってやると、その彼は慌てて走り去って行った。



「ほらユーリ、戻っ……」

「…の、バカ!!!」

「ゆ、ユーリ」

「あいつ絶対他の奴に言うぞ!?しかも目の前であんな…あんな……!!何考えてんだバカ!!死ね!!」

……ちょっとやりすぎたかな…。
涙目で叫ぶユーリを見ていると、少しだけ罪悪感を感じる。でもいい機会だ。


「…もう、隠す意味ないな。これで、堂々と君が僕の彼女だって言える」

「な…!!おまえ生徒会長だろ!?風紀だなんだ言う立場の奴がオレみたいなのと付き合ってたら示しがつかないだろ!!」

「……直す気、ないんだ?」

「いまさら…!」

「だったら直すまで言い続けてあげる」

「な、に?」

「そうすれば先生方はごまかせるんじゃないかな、多少は」

「そんなの…!!」

「…それに、今日みたいな事があるんじゃ困る。自分の彼女が他の男に呼び出されて告白されるなんて、気分が悪い」

「……断るつもりだったのに」

「当たり前だ!!ユーリは、もし僕のそんな場面を見たら何とも思わないのか?」

そう聞くと、ユーリは俯いて小さく首を振った。

「なら決まりだね。今までが不自然過ぎたんだよ。誰にも文句なんか言わせないから、堂々としていよう」



まだ少し不満そうなユーリを引っ張って教室に戻るなり、クラスメイトが一斉に僕らを振り返る。
その中心で、アシェットが笑っていた。



「な…、何だ?」

「…ごめんユーリ、多分もうクラスメイトにはバレてると思う」


心当たりがたあるとすれば、ユーリを捜しに行く前に、大きな声で騒いでしまった事だった。




真っ赤になって俯くユーリの手を握って教室の中に戻ると周囲の視線が一斉に僕らに集まって、僕もユーリと同じように少なからず顔が熱くなるのを感じていた。





ーーーーー
終わり
▼追記