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ブラザービート



ボッスンと椿





「さっきからジロジロとなんなんだ君は!」

「は!?うるせーな見てねーよ!だいたいお前が誘ったんだからお前が喋れよ!」

放課後部室でダラダラしていたら、食事でもどうかと椿が行って来たものだからそれはそれは嬉しそうにヒメコとスイッチに追い出された。

「ぼ、僕は別に!ただ会長に助言をされたから守っただけだ!」

「はぁ?アイツがんなこと言ったのか?」

「あぁ。何か心配してくれているようで、食事にでも誘ってみたらどうか、と。」

「心配?アイツが?ないない!何かの間違いかもしくは寝言だろそれ。っつかドッキリじゃね?みんなどっかで見てるんじゃね!?」

自分で言っててリアルすぎる。慌ててキョロキョロと見回すが、見える範囲には誰もいなかった。まぁとりあえず安心だ。

「口を慎め藤崎!会長の悪口は許さんぞ!」

「会長?今はお前が会長だろ!ヒューヒュー!」

「僕にとって会長はいつまでも会長で…ヒューヒューって言うな!」

勢い良く立ち上がり、睨み合うことおよそ5秒。次の瞬間どちらからともなくため息をつき、大人しく席についた。

「あのさぁ、別に喧嘩したい訳じゃねーんだよ。」

「僕だって、わざわざ時間を割いて言い争いをしに来た訳じゃない。」

「ただなんつーかこう改まってどうこうってのは恥ずかしいと言うか何と言うか、なぁ。」

指で頬をかきながら、ストローを啜る。だいたいこう向き合って話すとか、依頼でもない限り落ち着かなかった。

「僕は…、そのっ」

椿が何やら口ごもる。

「何だよ、何かあんなら言えよ。」

「…僕はずっと好きだったわけで、今更双子だと言われても…」

「…へ?」

よっぽど慌てたらしく、一瞬にして椿の顔が真っ赤になった。え、おいおいおいマジなのこれ。えこれマジなの?

「え、あ、うあぁ!ふ、藤崎!今すぐ記憶を消してやる!もしくは永眠させてやるからさぁ選べ!」

「何その2択!?どっちにしろ俺ボッコボコじゃねーか!」

「う、うるさい!」

好きっ、て、どういうことだ?いつも因縁つけてきたけど実は友達になりたかったってことか?って言うか俺が兄ちゃんって分かって本当は嬉しいとか?
なんだ、可愛いとこあるじゃんこいつ。

「なるほどなー!まさかなー!いやいやいや、なるほどなー!」

「笑うな!」

「しかしよー、お前が俺を好きなようには全く見えないけどなぁ。」

「…な、何を!」

「だってそうじゃん。俺なんか会ったら睨まれるし邪魔者扱いだし今だってフルボッコにされそうになったし存在感ないしつまんないし…」

「自分で言ってテンション低くなるのは止めてくれないか!?」

椿はゴホンと1つ咳払いをしてから、猫みたいに大きな目で俺を見る。

「最初はタイプの違う君に憧れていたのかと思った。だけど違った。何て言うかその、いつも一緒にいたいし、鬼塚と楽しそうに話してると落ち着かないんだ…」

「ヒメコォ?何でそこで出てくんだよ。」

「だいたい君が煮え切らない態度を取るからだろ!?」

「えぇ!?何で怒られたの俺!?」

「鬼塚が好きなのか!?」

椿が机から乗り出す勢いで聞いてきた。なんなんだコイツさっきからマジで。

「別に好きだけどさ、そういうんじゃねーよアイツは。」

「そ、そうか。」

そう言えば、椿があからさまに安堵の表情を浮かべた。あ、コイツもしかして。

「お前まさかヒメコが好きなのか?そりゃ大好きな兄ちゃんに好きな子取られたら複雑だよな〜なっはっは!」

大声で笑っていると椿が立ち上がってぐるりとテーブルを回った。なんだ?もしかして茶化したから殴られる?

「ぼ、暴力反対!」

「貴様…許すまじ…!」

「ちょっと本当謝るから!ねぇ謝るから!っつか別に焦んなくてもアイツと俺じゃ何も起きな」

仕方ないから励ましてやろうとした瞬間椿が抱き付いてきたから、どう反応すべきか分からなくて俺は軽くパニックになった。

「愚か者…!」

「え、いや、え…?」

「ぼ、僕は大人しく弟になる気なんかさらさらないからな!」

「えーっとそれは、どういう意味で?」

「こういう意味だ!」

ただでさえ何がなんだか分からないのに、ダメ押しと言わんばかりのその行動に、俺の頭は真っ白になる。

「…えーっと、えっと、え?兄弟ってチューとかするんだっけあれ?いやでもルミとはしたことないけど、え?」

「そんなわけないだろう!いい加減気付け愚か者!」

椿の顔が真っ赤で、でも多分俺も負けないくらい真っ赤で、それでやっと、空気の読めない俺にも理解が出来た。

「え、えっと、なるほどね、はい、えっと、」

「あ、焦りすぎだ!愚か者!」

「いや、焦るだろ!そしてどうしようもなく気まずい!」

「貴様…本人の前で気まずいなどと口走るか普通!僕こそ気まずいんだ!我慢しろ!」

「何だそれ!もうちょっと優しくしろよ好きなんだったら!」

「…くっ!うっうぅ…!」

「えぇぇぇ!?ちょ、そこは言い返せよ!ごめん!なんかごめん!」

そんなこんなを大声で叫び合っていたら、うるさいと店員に注意されて外に放り出された。
微妙な空気を引きずったまま、一応並んで歩き出す。
ふと椿の方を見ると、余程腹が立っているのか眉がつり上がっていた。本当にコイツって分かりやすい。

「そっかー、何か引っかかってたんだよな、お前が弟って。」

「ひ、引っかかってたとは、どういうことだ…?」

一瞬にして、椿の眉が垂れ下がる。しまった。また、不安にさせちゃったな。

「いや、嬉しいような残念なような複雑な気がしたんだよ。って言うのはあれだな、俺もお前が好きだったからなのかな。」

「…そ、そうか!」

今度は一転、華やいだ表情になる。なんだよ、本当に、その、可愛いじゃねーかよ。

「あんさ、で、どうしたらいいのかなこれから。」

「僕に聞かれても困る。」

「はぁ!?オメーが言い出したんだろ!?なんっなんだよ!じゃあ何で言ったんだよ!」

「別に。ただ伝えたかっただけだ。」

「…お、おぉふ。」

「照れるな!」

「うるせー!お前が可愛いこと言うからだろ!?」

「…お、おぉ。」

「オメーも照れてんじゃねぇかよ!」

暫くそんな言い合いをしていたら、いつの間にかもう晩御飯の時間になっていることに漸く気付く。

「じゃあ、僕はこっちだから。」

「…あぁ。」

別れを告げようとしたんだけれど、気付いたら椿の手を握っていた。

「な、なんだ!」

「いや、なんか別れがたいなぁと。」

「う、あ、え…!」

「いつか、一緒の家に帰れたらいいよな。」

「き、貴様は軽々しくそういうことを言うな!」

「嬉しいくせに。」

「冗談は顔だけにしてくれないか赤チリツノ毛虫!」

「ちょっとそれ本気で傷つくからやめてくんない!?しかも同じ顔!俺たちほぼ同じ顔だからね!?」

この疑り深い弟に、軽々しくもないし、まして冗談なんかでもないってこと、いつか証明してやろうと思う。
















スケダンは圧倒的に双子が好きです。

そこに在るもの。

スケット団と椿










「おい、退けよ。」

「何故僕が。君が端に避けたらいいだろう。」

廊下のど真ん中、睨み合って文句を言い合っている俺たち。衝撃の事実が発覚したところで、この関係は早々変わりはしないらしい。

しかし周りは何やら色んな想いがあるようで。ヒメコなんか俺たちを微笑ましく見守ってくれようとしているが冗談じゃない。一応デリケートな問題なんだから、そう言うのはやめてほしい。本当に、ただ恥ずかしいからとかではなく、うん、本当に。

ふと視線を感じて横を向いてみれば、案の定ヒメコが親みたいな目で俺たちのことを見ているではないか。

「ボッスン、そこは兄として譲ったればええ思うよ。」

「うるせー!お前はなんだ!急になんだ!」

『俺もそう思うぞボッスン。お兄さんなんだから譲ってやりなさい。』

「せやんなぁ。仲良うせなあかんでボッスン。」

「その夫婦キャラしつこいんだよ!やめろ!頼むからいい加減にして!」

はぁはぁと息を切らしながら叫んでいると、今度は目の前で椿がため息をついているところだった。

「君たちは仕事もろくにしないでいつもこうなのか?その内本当に廃部になっても文句は言えないな。」

「あぁ?生徒会よりよっぽど役に立ってると思いますけどね。」

「何だと!?今の言葉撤回しろ!」

「嫌だね!事実を言ったまでだ!」

本当、ムカつく。お互い譲らずに暫く睨み合っていたら、急に思い切り手を引かれた。
あまりに突然で何が起きたのかよく分からなかったが、気付いたらヒメコによってバッチリ握手をさせられてしまっていた。

「お互い場所は違えど生徒の役に立とうと頑張ってる。ええ話やんか…!なぁスイッチ!」

『素晴らしいと思うニョン☆』

「「違う!そういうことじゃないんだ!」」

何でこうも兄弟仲間睦まじく的な展開に持っていこうとするんだこいつらは。今度はハモったハモったとか言ってはしゃいでる始末。俺そろそろ泣いてもいいかな。

「とりあえず、僕は急いでるんだ。」

「何だその自分は多忙ですって口ぶりはよぉ。どうせ暇ですよ。どうせ俺は暇だし根暗だし影の薄いダメ人間だよ。」

「僕はそこまで言ってない。」

「椿!あんたなぁ、ボッスンはもうちょっと引くくらいデリケートやねんぞ!もっと大事に扱わなあかんよ!」

「だから僕じゃない!」

『ほう、なかなかのコンビネーションだな。どうだろう、良ければスケット団に』

「結構だ!」

椿が振り回されてるのを見て少しザマーミロと思ったり思わなかったり。だけど急いでるのは本当みたいだし、いつまでも意地はってても仕方ないし。

「あ、そ。分かったから、行けば。」

「…あ、あぁ。」

そう言って道を開ければ、小さい声ですまんって聞こえてきた。俺たちって大概素直じゃないと思う。そういうとこが、同じ血が流れてるってことなのかな。

「ボッスンが折れるなんて珍しなぁ。」

「…まぁ、一応兄貴だしな。」

「ちょ、オトン!この子ついに自分から言うたで!」

『はっはっは。落ち着きなさい母さん。今夜は赤飯だな。』

「お前らもういい加減にして!」

廊下に響く二人の笑い声に、それから俺の怒鳴り声。

友達と、…家族と。
何て言うか、お前のおかげでこういう当たり前の時間が幸せなんだって改めて気付けたような気がするよ。

放課後、母ちゃんとルミにシュークリームでも買って帰ろうかな。
変わらないものの方が多いんだろうけど、少しくらい変わるのも悪くないと今なら思えるんだ。








そこに在るもの。





あなたたちに貰った命、きっとずっと大切にするよ。


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