スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

save your smile




勝呂と志摩





あぁ、隠し事をされている。
不自然な目の動き。いつもよりワントーン上がった声。せわしなく動く右手。
昔から、そう言うのには敏感だった。

「何か話があるならさっさと言うてくれます?」

「へ!?な、何が!」

「何がやないですよ。バレバレです、何かおかしいですよ、今日。」

「…お前には適わんな。」

適わんな、て。俺に言わせれば坊は奥村くんととても似たタイプで、嘘を吐くのが上手い方とはお世辞にも言えないと思う。

「あんな、ちょっと言い辛いんやけど。」

「どうぞなんなりと。」

覚悟を決めたと思いきや、また坊の視線が行ったり来たり。笑いを堪えながら暫くそれを眺めていたけれど、坊が急に立ち上がったので俺もつられて背筋を伸ばした。

「俺な、お前のこと好きなんや。んで、今日告白しよう決めたらなんや落ち着かなくてなぁ。」

「…何の話ですか?」

「せやから、そのまんまの話。」

そのまんまの、話。多分理解は出来ているんだけど、何を言えばいいのか全く持って分からない。

「…えーっと、世間話的なノリでそれを俺に話すんはどうかと思うんですけど?」

「隠してもしょうがないから、話すしかないやろ。」

「はぁ。」

腹を括っただけあって、さっきとは別人のような男前っぷり。

「お前だけや、俺の小さい変化とか、分かってくれるの。そういうとこ、なんや有り難い思うし、好きや思う。」

「いや、買い被りですって。俺、ただへらへらしてるだけのダメ人間ですよ。」

「そんなんやない。」

「またまた!」

「そんなんやない!」

しんとした室内に叫び声が響く。驚きのあまり手にしていた本が、パタンと音をたてて床に落ちた。

「少なくとも俺には、お前が大事や。」

「…坊。」

そんなこと言われたのは初めてで、どうしたらいいのか分からない。

俺はいつも、何があっても何を感じても、へらへら笑ってた。人の気持ちが割と読める反面、心を許すのは嫌だった。だからいつもへらへら、それが一番いいと思ってた。
そんな俺を、好き、だなんて。

「…ご存知の通り俺は、人前ではあまり自分の感情を出しませんよ。そんな俺といて、楽しいですか。」

「お前がおれば俺はそれだけでええんやけど、それはちょっと違うかな。」

「…どういう?」

「せやから、お前を笑わせる。心から。約束する。」

眩しい、本当の笑顔。だけど、悪くないと心のどこかで思う自分もいる。いつか俺もそんな風に笑えるのだろうか。

「俺とずっと、一緒にいてくれ。」

「いや、えっと、」

「頼む!」

「…そんなん、頼まれてもなぁ。」

俺なんかに頭を下げるだなんて、坊にプライドは無いのか。こんなとこ子猫さんに見られたら、俺は一体どれだけ怒鳴られるんだろう。

立場なんか関係無しに、俺とはまるで正反対、自分の感情を露わにする可愛い可愛い人。

「俺にはお前しかいないんや!」

何だか自然に笑みがこぼれてきて、こんなの初めてで、嬉しくて嬉しくて。

「言うたからには、責任取って下さいよ。」

「…あぁ!あぁ!」

満面の笑みを浮かべガッツポーズをする坊を見て、また頬が緩んだ。





save your smile


少しだけ、人を信じてみようと思った。

僕は今日も仮面を被る



雪男と燐



「兄さんおやすみ。」

「おう!おやすみ!」

眠る前に、毎晩こっそり寝顔を盗み見ているのに気付いているだろうか。いや、まさかそんなわけはない。そもそも気付かれて困るのは僕だ。

すーすーと寝息が聞こえてきた頃、いつものようにベッドから抜け出しそっと寝顔を伺った。

「…兄さん。」

赤みがかった可愛らしい頬に思わずそっと触れる。唯一この時間だけは兄弟へ向ける眼差しではなく、愛する人へのそれを向けることが出来た。

兄さんは強い。僕にないものを沢山持ってる。
本当は兄さんくらい、素直になれたらいいのにといつも思ってた。この感情ちゃんと受け止めて、自分の気持ちを思い切りぶつけて、それで、全部終わりになったとしても。
兄さんはサタンの息子であることがみんなにバレた時、一体どんな気持ちだったんだろう。きっと落ち込んだし怖かったろうと思う。けど、兄さんは自分を理解してもらうこと、一瞬でも諦めたりしていなかった。

「…サタンを倒すのは、俺…んん…」

兄さんの苦しみに比べたら、こんなことくらい何にもないはずなのに。
むにゃむにゃと寝言を呟く兄さんの頭をそっと撫でた。

ここ最近、ひしひしと感じることがある。しえみさんは多分兄さんのことが好きなんだ、と。
2人といつも一緒にいたから分かった。大好きな2人のことだからよく分かった。
そう。兄さんも、多分。

兄さんみたいに、どんな時も諦めちゃいけない?
分かってる、これはそういう話ではないってことくらい。

きっと2人はお互いの気持ちに気付いて、いつか僕から離れてく。
大好きな兄さんがいなくなることも、大好きなしえみさんに嫉妬してることも、辛くて、苦しくて、どうしようもなく泣きたくて。

「雪男の…メガネがいっぱい…うぁぁ」

胸がぎゅうと締め付けられるようだ。こんなに人を、好きだと思うなんて。後にも先にももうきっと無いんだろう。諦めたくない。頑張りたい。だけどどうしたってそういう対象として見てくれないのは分かりきってる。兄さんはいつだって、僕の前では優しくて強い兄さんでいてくれたから。

「本当に、ひどいな。」

たった1人の肉親だから、裏切れない。裏切りたくない。神様は残酷だ。悪魔の弟が、神様に頼るだなんておかしな話だって分かってるけれど。

パタンと寝返りを打つ兄さん。風邪をひかないように、きちんと布団をかけ直してやった。

「…兄さん、また明日。」

大丈夫。大丈夫だ。
明日の朝にはちゃんと笑うよ。だから今だけは、僕のものでいて。

優しく、優しく、キスを落とす。

怖くて気持ちを言い出せない僕は、こうすることで貴方を手に入れたような錯覚に陥るんだ。一方的なそれがどんなに虚しいことなのかを、痛いくらいに噛み締めながら。




僕は今日も仮面を被る


狡くて、卑怯で、とても汚い。

我慢が出来ない!



塾のみんな





「燐って雪ちゃんといつも一緒にいるよね。仲良し羨ましいなぁ。」

それは合宿の最中のこと。この一言で、周りにいた塾生たちは凍りついた。それぞれの頭の中で、それは果たして触れていいことなのかどうかと判断をしているのだろう。

「私も兄弟いたらあんな感じだったのかなぁ?」

「あんな、杜山さん、それ本気で言うとるん?」

いたたまれなくなって、志摩がしえみに声をかける。周囲は黙ってそれを見守る姿勢だ。

「うん!…あ、志摩くんも兄弟いっぱいいるよね?やっぱり燐と雪ちゃんみたいに仲が良いの?」

「いや、仲が良いのベクトルが完全に違てるけどなぁ。」

「そうなの?」

「奥村くんとこて、だってあの2人どうみてもデ「うわぁぁぁ!皆まで言わんで下さい!」

子猫丸が割って入って、志摩は漸くは口を閉じた。しえみは心底不思議そうにそれを見ている。

「子猫さん、こういうことはきちんと言わな。」

「知らないままでええことだって世の中には沢山あります!」

子猫丸が懸命に説いているとそこへ突如ガラリ、と扉の開く音がする。渦中の人物2人が遅れて教室に入ってきたのだ。

「皆さんお待たせしました。授業を始めるので席について下さい。」

「ほら、また一緒だよ!いいなぁいいなぁ!」

自分の言った通りだと言わんばかりに、しえみが興奮したように笑みを浮かべる。

「そない言うたらあかんで杜山さん、ほら、奥村くんの首もと見てみ。」

「燐の首?」

「ちょ、ばかやめろ志摩…!」

瞬間、燐は勿論志摩も一緒に青ざめた。あからさまに黒いオーラを放った雪男が、物凄い形相でこっちを見ていることに気付いたから。

「…それ、なんですか奥村くん?」

「ちっちがう!ちがうんだ雪男これには深い深いわけが!」

「え、これ先生がつけたのと違うん?」

しまった話をややこしくしたとその場を逃げようとする志摩の首根っこを、燐はすかさず掴む。

「だいたいお前にだって責任あんだぞ!ちゃんとしつけとけよあいつ!」

理解し難いと言った志摩の横で、燐は半分涙目になっていた。そして燐が先程から教室の隅で大人しく気配を消していた勝呂を指すと、漸く志摩が燐の話に興味を持ち出す。

「坊がどうかしたんか?」

「あいつ夕べ寝ぼけて俺とお前を間違えたんだよ!」

一瞬にして勝呂が全身から冷や汗をかきだしたのを見て、志摩はゆっくりと勝呂の元へ向かった。それからにっこりと笑みを浮かべたと思ったら、ばんっと勢い良く机を叩く。

「坊、一体どういうことか説明してもらいましょうか?」

「ち、違う!そう言うんやない!本当に間違えただけで!」

「それが問題や言うとるんです!いくら寝ぼけてるからって間違えますか!?」

勝呂はどうにも志摩には適わないらしく、気付いたら2人は所謂痴話喧嘩を始めていた。
ザマーミロと思いながらそれを眺める燐は、背後から雪男が近づいてくるのに気付かない。

「奥村くん、ちょっといいですか?」

「…雪男くん、何故怒っていらっしゃる?聞いてただろ?俺完全にただの被害者!」

「そうかな。だいたい昔からスキがありすぎなんだよ兄さんは。」

「え!?俺!?俺悪いの!?」

「悪いよ。僕だけのものっていう自覚をもう少し持ってくれないと。よし、奥村くんは特別に僕と課外授業にしようか。」

「よしじゃねー!授業しろよ変態眼鏡!」

何やらこちらでもぎゃいぎゃいと言い争いが始まり、一部始終を見ていたしえみは感嘆の溜め息をついた。

「志摩くんと勝呂くんも燐と雪ちゃんに負けないくらい仲がいいのねぇ。いいなぁ。」

「坊と志摩さんが…知りたくなかった…知りたくなかった…」

「いいから早く授業始めなさいよ!なんなのこのクラス!本物の馬鹿ばっかりじゃないの!」

子猫丸の悲しみも、出雲の苦労も、それを真摯に受け止めてくれる人など最早このクラスにはどこにもいなかった。







我慢が出来ない!


強引すぎる雪男の束縛に、
涙目で上目使いな兄さんに、
焦った坊の可愛いさに、
ヤキモチ焼きが嬉しくて、
仲良しで羨ましくて仲間に入りたくて、
知りたくなかった驚愕の事実に、
ホモばっかしのクラスに、

…もう我慢できない!!!



僕らが生まれてきたのは



燐と雪男




「ちょっとさぁ、こっち来てみ。」

鏡の前に立っていた燐に呼ばれ、今正に勉強を始めようてしていた雪男は怪訝そうな顔をしながらもそれに従った。

「…何?」

「俺たちって似てないよなぁ。」

「何を今更。」

またこの話か、と雪男は呆れたように兄を見る。

「本当に、兄弟なのかな。」

「そうに決まってるだろ?」

「…やっぱそうなんだよなぁ。」

燐はこのことを話す度に、いつも困ったように眉を下げて笑った。自分から話題に上げるくせに、なんでそんな顔をするのか雪男には分からない。

「双子なのにここまで似ないもんか?」

「二卵生ならそういうことも大いに有り得るよ。」

「…中身も性格もいっそもっとそっくりだったら良かったな。」

「なんで?」

「そうしたら絶対好きにならない自信がある。同族嫌悪っつーの?」

「…兄さんみたいなのが2人もいたら周りの人たちが困るから。」

雪男は兄の言動にだんだんイライラしてきて、大袈裟に溜め息をついてみせた。

「僕と血が繋がってるのがそんなに嫌なの?」

「…嫌っていうか、」

「なに?ハッキリ言って。」

「だって、そしたらこんな気持ちにならなくてすむのにさ。」

好きにならなくてすむならその方が良かった、なんて。
燐が小さく呟いて、雪男はそれを隣で聞いた。

「僕は兄さんと兄弟で良かったけど。」

「…なんで?」

「だって、他人だったらいつ離れてしまうか分からないけど、双子なんて誰がどう頑張っても早々入り込めるもんじゃないし。」

「そういう考え方もある…か?」

「迷ってないで、いい加減腹括ってよ。それとも全部無かったことにしたいの?」

「…ごめん」

雪男の目に微かに涙が滲むのを、燐は見逃さなかった。

「お前を手放したら、俺ダメになる。生まれた時から隣にいるんだ。お前がいない人生なんて考えられない。」

そのまま強く抱き締められ、雪男はその肩にぎゅうと顔を埋めた。

「…隣にいるだけならただの双子のままでだって出来るよ。」

「違う。ずっとこうしてたい。」

燐は抱き締める腕に力を込める。全身から愛情を受けているようで、心地良くて、漸く雪男の表情が少しだけ緩んだ。

「そんなこと言ってくれるなら、もう二度と不安にさせないでよ。」

「雪男、ごめん。馬鹿なこと言った。」

「兄さんが馬鹿なのは知ってる。」

「…そーですか。」

「そうだよ。だから、僕がいるんだろ?」

そう言いながら雪男に見上げられて、たまらなくなった燐は思わずその唇にそっとキスを落とした。





僕らが生まれて来たのは

こうして2人、手を取り合って歩くためだったんだ。




My life、Your life。



雪男と燐






「…信じられない。」

「うっせーな!今から片付けんだよ!」

仕事を終えて部屋に戻ってくると、辺り一面踏み場も無いくらいにごった返していた。人が働いてる間に、この兄は一体何をしていたのか。

「ちょい待ってろ。あと1時間くらい待ってろ。」

「どこで。しかも1時間ってちょっとじゃないだろ。いい加減にしろよ。」

「…先生、素が出ていらっしゃいます。」

「2人なんだからどうでもいいだろ。」

深いため息をつきながら唯一綺麗なはずの自分の机の元へと向かう。

「で、何しようとしてたの?」

「へ!?」

「意味もなく部屋荒らしてたわけじゃないんでしょう?」

「あ、いや、それは、まぁなぁ…」

兄さんはそれはそれは罰が悪そうにそっぽを向いた。全く、いつまでもこどもみたいなんだから。

「奥村くん、僕には言えないことですか…?」

満面の笑みでそう問いかけると、お前怖いんだよとか何とか言いながら観念したように話し出した。

「別に大したことじゃねーけどさ。」

「大したことじゃないけど?」

「…っつか顔近いんだよお前さっきから!」

「いいから。で?何?」
「おおおお前に恋人がいるかもしれない疑惑が浮上してだな。」

「うんうん。それで心配になって後をつけたり、僕の鞄を漁ったりしてたんだろ?」

「そうなんだよ!今回こそ物的証拠を掴めないもんかと…ん?」

本当に、予想以上だなこの兄は。暫く考えこんだ後、今日初めてやっと僕の方を見た。

「…っお前知ってたな!?」

「知ってたけど、それが何か?」

「なんなんだよ!どういうことだよ!」

「暇だったからそういうフラグたてたら、兄さん焦る焦る。面白かったから暫くそんな振りをしてみました。」

呆然としている兄の頭を笑いながらぽんと叩いたり、柔らかいほっぺたつねったり。と、やっと我に帰ったらしく勢い良く振り払われた。

「我が弟ながら鬼畜すぎる…!ぜんっぜんかわいくない!」

「だから可愛い担当は兄さんに任せるよ。」

にっこり笑って一気に距離を縮めると、ぱたんと後ろに優しく押し倒す。状況を理解したらしい兄さんの顔は一瞬にして真っ青になった。

「ちょ、待…来んな!」

「嫌だって言ったら?」

「そんな自分勝手な…んんっ」

毎回散々文句言って暴れる割には、ちょっとこうしたらすぐおとなしくなるくせに。

「…本当は、嫌じゃないんだろ?」

「お前本当に性格悪い!最低だ!」

「はいはい、知ってます。」

「でも好き…だから、お前に好きなヤツがいなくてよかった…」

「はいはい、それも知ってます。」

涙の後が伝う目尻に優しくキスを落とした。本当、これだから兄さんを苛めるのはやめられないんだ。

「雪男…っ」

涙目で求められるように名前を呼ばれて、ぶるりと全身が震えた。
さて今度は僕がどれだけ想っているか、このバカな兄さんに教えてやる番かな。



My life、Your life。

他の人が入る余地なんて、初めからあるはずないんだ











***
雪ちゃんの口調むずかす^^ごめんなさい!
前の記事へ 次の記事へ