勝呂と志摩
あぁ、隠し事をされている。
不自然な目の動き。いつもよりワントーン上がった声。せわしなく動く右手。
昔から、そう言うのには敏感だった。
「何か話があるならさっさと言うてくれます?」
「へ!?な、何が!」
「何がやないですよ。バレバレです、何かおかしいですよ、今日。」
「…お前には適わんな。」
適わんな、て。俺に言わせれば坊は奥村くんととても似たタイプで、嘘を吐くのが上手い方とはお世辞にも言えないと思う。
「あんな、ちょっと言い辛いんやけど。」
「どうぞなんなりと。」
覚悟を決めたと思いきや、また坊の視線が行ったり来たり。笑いを堪えながら暫くそれを眺めていたけれど、坊が急に立ち上がったので俺もつられて背筋を伸ばした。
「俺な、お前のこと好きなんや。んで、今日告白しよう決めたらなんや落ち着かなくてなぁ。」
「…何の話ですか?」
「せやから、そのまんまの話。」
そのまんまの、話。多分理解は出来ているんだけど、何を言えばいいのか全く持って分からない。
「…えーっと、世間話的なノリでそれを俺に話すんはどうかと思うんですけど?」
「隠してもしょうがないから、話すしかないやろ。」
「はぁ。」
腹を括っただけあって、さっきとは別人のような男前っぷり。
「お前だけや、俺の小さい変化とか、分かってくれるの。そういうとこ、なんや有り難い思うし、好きや思う。」
「いや、買い被りですって。俺、ただへらへらしてるだけのダメ人間ですよ。」
「そんなんやない。」
「またまた!」
「そんなんやない!」
しんとした室内に叫び声が響く。驚きのあまり手にしていた本が、パタンと音をたてて床に落ちた。
「少なくとも俺には、お前が大事や。」
「…坊。」
そんなこと言われたのは初めてで、どうしたらいいのか分からない。
俺はいつも、何があっても何を感じても、へらへら笑ってた。人の気持ちが割と読める反面、心を許すのは嫌だった。だからいつもへらへら、それが一番いいと思ってた。
そんな俺を、好き、だなんて。
「…ご存知の通り俺は、人前ではあまり自分の感情を出しませんよ。そんな俺といて、楽しいですか。」
「お前がおれば俺はそれだけでええんやけど、それはちょっと違うかな。」
「…どういう?」
「せやから、お前を笑わせる。心から。約束する。」
眩しい、本当の笑顔。だけど、悪くないと心のどこかで思う自分もいる。いつか俺もそんな風に笑えるのだろうか。
「俺とずっと、一緒にいてくれ。」
「いや、えっと、」
「頼む!」
「…そんなん、頼まれてもなぁ。」
俺なんかに頭を下げるだなんて、坊にプライドは無いのか。こんなとこ子猫さんに見られたら、俺は一体どれだけ怒鳴られるんだろう。
立場なんか関係無しに、俺とはまるで正反対、自分の感情を露わにする可愛い可愛い人。
「俺にはお前しかいないんや!」
何だか自然に笑みがこぼれてきて、こんなの初めてで、嬉しくて嬉しくて。
「言うたからには、責任取って下さいよ。」
「…あぁ!あぁ!」
満面の笑みを浮かべガッツポーズをする坊を見て、また頬が緩んだ。
save your smile
少しだけ、人を信じてみようと思った。