暖かい太陽の光が降り注ぐ次元城の片隅にティナは一人佇んでいた。どうやら何かを握っているようで手元を見つめたまま動かないでいたが、そんな彼女の元を一陣の風が吹き抜けた。
「ティ〜ナ〜!」
「バッツ」
突然かけられた声に表情には出さないが驚き顔を上げるとよく知った人物が少女の方に向かって手を振りながら駆けて来た。その姿に安心するとほんのわずかだが柔らかい表情になる。
「珍しいな、今日は一人なのか?」
いつもならば彼女の騎士を名乗る少年が側にいるのだが今は姿が見当たらない。
「彼はクラウドと手合わせをすると言っていたわ」
「そっか。ティナは何してたんだ?」
「私は・・・」
バッツが聞くとティナは握っていたモノを差し出してきた。
「これ・・・バッツはこの植物の名前知ってる?」
ティナの手の中には細い茎の先に丸い葉っぱが花びらの様に4枚ついた10cmほどの長さの植物が握られていた。
「凄いじゃん、ティナ!!これ四葉のクローバーだよ!」
「クロー・・・バー?」
聞いたことのない名前にティナは首を傾げるがバッツは凄い凄いと言ってはしゃいでいる。
「クローバーっていう名前で普通は頭に付いてる葉っぱが3枚なんだ。だから
4枚付いているのは凄く珍しくて見つけた人はめちゃくちゃラッキーなんだよ!」
見つけた人のところには幸運が訪れるとも言われてるんだぜ!とまるで自分のことの様に喜ぶバッツの姿に自然とティナも笑顔になっていく。
そして、
「これ、バッツにあげるわ」
ティナはバッツにクローバーを差し出してきた。
「良いのか?これはティナが見つけたものだろ」
先ほどまで騒いでいたバッツだが突然言われたその言葉に首を傾げながらどうして?と不思議そうな顔でティナを見つめた。
「・・・この植物が幸運を運んでくれるならバッツに幸運が訪れれば良いなって思ったの。それに私は・・・バッツが笑っている姿を見るだけでなんだか暖かい気持ちになれるから」
そう言いながら柔らかい笑みを浮かべティナはバッツにクローバーを渡す。
「・・・そっか、ありがとな」
一瞬キョトンとした顔をしたバッツだが、ティナと同じように微笑むと素直にクローバーを受け取った。
「よし!それじゃ俺もティナに良いものあげるよ」
ちょっと待ってろよと言いながらその場にしゃがむとバッツはクローバーの周りに生えている白詰め草を摘み、それを使ってせっせと何かを作り始めた。
ティナも隣りに座り込み、バッツの手によって作られていくソレを不思議そうな顔で見つめている。
数分後。
「できた!!」
大きな声をあげるバッツの手には綺麗なドーナツ型に編まれた白い花の花冠が出来上がっていた。
そして花冠を珍しそうに見つめてくるティナの頭にそっと乗せてやる。
「お!やっぱりティナにはよく似合うな。すっげえ可愛い!」
ニコニコと笑顔で告げてくるバッツにティナは心が暖かくなっていくのを感じた。元々感情を表現はすることは苦手で最近になってようやく笑うことを覚えたティナには、まだこの気持ちになんと言う名前をつけて良いかわからなかった。
しかし
「バッツ」
「ん?」
「ありがとう」
柔らかな笑みを浮かべながら、今はただこの気持ちを大切にしたいと思うティナであった。