新年初っぱなのネタはいちご!
会社員なライトさんとコーヒーショップの店員バッツのお話。
最初は喫茶店のマスターやってるライトさんで妄想してたのに気がついたらこうなっていました。
今日は木曜日、ただいまの時刻は19時。
(まだかなぁ……来た!)
待ち構えていたかのようにタイミングの良い挨拶に少し張りきりすぎただろうかと思うが、その人物は僅かに微笑むとお決まりの台詞を言ってくれた。
「いつものを頼む」
「かしこまりました!」
此処はとあるオフィス街にあるコーヒー専門店。
コーヒーはもちろん簡単な食事もできるため昼時にはそれなりに客が来て忙しくなるのだった。
俺は此処で働き始めて2年になる。
この店のオーナーであるクラウドとは学生時代からの友人で彼が店を始める際にオープニングスタッフとして誘われてからそのまま働き続けているのだ。
そんな俺は今『恋』をしている。
「おまたせしました!」
「ありがとう」
ミルク無し、砂糖少なめ、ブレンドコーヒーホットのLサイズ。
すっかり覚えてしまった注文内容を手際よくこなし両手でカップを渡す。
丁寧にお礼を言ってカップを受け取る彼はライトという名前でこの店から徒歩5分の『COSMOS』という会社に勤める青年であった。
彼こそが今正に俺が恋をしている人物である。
惚れた理由は簡単。
木曜日の19時過ぎ、それは彼がこの店を訪れる時間であった。
そして先程の注文を必ず頼んで行くのだ。
高い身長に、キラキラ輝く銀色の髪、筋の通った高い鼻に、澄んだガラス玉のような切れ長の瞳。
そのあまりにも整った容姿に本当に同じ人間だろうかと思ったのが第一印象。
そしていつのことだったか毎回同じ注文をする彼に思わず「いつものですね」と言ってしまったことがあった。
ろくに会話をしたこともない相手に突然そう言われ驚いた顔をした彼に俺は恥ずかしくなり気まずい空気が流れた。
幸い他に客はいなかったがどうしようと思っていると彼が少し笑って「ああ、よろしく頼む」と言ってくれたのだ。
この瞬間、俺は恋に落ちた。
何度か会っているので一目惚れではないが、感覚としてはそれに近いような気がする。
それ以来、多少の話をするくらいの間柄になり俺は木曜日になると彼が来るのを待ちわびるようになった。
「そういえば、確か此処はデリバリーもやっていたな」
「ああ、はい。俺はバイクの免許持ってないんでほとんど店長が出るんですけど」
そう言うと彼はそうかと残念そうに呟いた。
「どこかにお届けしますか?」
不思議に思いながら聞いてみると彼は少し考えるような素振りをしてから口を開いた。
「明日は仕事の方が忙しくて昼食に出ている時間もないから届けてもらえるとありがたいと思ったんだが…こんな近場ではわざわざ届けさせるのも悪い気がするな」
「そんなことないです!むしろ近場なら俺が行けるんですぐに届けますよ!」
遠慮がちに言う彼のその言葉を聞いた瞬間、俺は心の中でガッツポーズをしてすぐに了承の返事をした。
彼の職場に行ける。
しかも上手くいけば仕事をしている姿も見ることができるのだ。
此処ではお目にかかれないレアな姿を是非ともこの目に焼き付けたい。
「メニューは何にします?あっ!時間はいつ頃にしましょうか?」
俺はメニュー表を差し出し1人で興奮して早口で話しかけると彼は苦笑しながらメニュー表を指差した。
「そうだな、このサンドイッチを一つと…いつものこのコーヒーを頼む」
「かしこまりました!」
彼が告げたメニューを急いでメモしてボードの目立つ場所に張り付ける。
「それでは明日はよろしく」
「はい!それじゃまた明日」
彼が帰って行くのを見送ると俺は心の中で歓喜の声を上げた。
生憎店の中に客がいるのてはしゃぐことはできないがそれでもこの時の俺は満面の笑みを浮かべていただろう。
その証拠に配達から帰って来たクラウドが何か良いことはでもあったか?と聞いてきたのだった。