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【小説】吸血鬼

 どうも血を吸う動作は、赤ん坊が乳を吸うそれに似ている。

 「犠牲者」の喉元に牙を立てながら、そう思う。

 抱いている相手の温く柔らかい体から、みるみる内に力が抜けて行く。つい、久しぶりに喉を潤そうと、激しくしてしまったか。

 しかし命に別状なかろう。初めは相手を死に至らしめることもなかったわけではない。しかし回を重ねる毎に「うまくやれる」ようになった。明日になればすっかり忘れていることだろう。

 少し寂しいような気もするが、忘れていてくれるほうが気が楽だ。

―寂しい、か……

 自分はそんなに情に深く、取り分け母親の愛情を欲していたのだろうか。

 そんなつもりはない。いや、なかった。

 けれど、相手が―取り分け美しいと思った女性が、欲しくて堪らず、今だに同じことを繰り返しているのだ。

 柔肌を、一心不乱に吸い、啜り上げて、時に最後の一滴までを求める。
 欲しいから、傷つけてしまう。

 気絶した相手の体を大事に抱え上げて、紳士的に最後の始末をしつつ、やはり満たされないと心のどこかで思った。

 失礼だが、この人は違う。
 そう考えて納得のいかない感情のままに、人と人の間を彷徨い続けているのだ。

 もう何年も。
 「千年の孤独」を癒すために。

 口元を軽く拭いながら、自分に対して苦笑した。

 また明日も、そして明後日も、きっと我慢ができなくなるたびに求めては奪う。
 赤子のように。
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