「もう! 自分のことなのよっ」

隆也母がプイッと横を向き、父親はヘラヘラ笑っている。
よくある光景なのか息子二人はまったく反応しない。

そうこうしている間も試合は進み、一度は相手チームがチャンスを作ってヒヤリとさせられる場面もあったが、こちらのピッチャーが粘り勝ちして試合は逃げ切る結果となった。



「どうも、ごちそうさまでした」

阿部家の玄関で元希は隆也の両親と、隆也本人に挨拶をする。
元希の隣にはシュンが靴を履いている。

食事の後、隆也は自分が元希をバス停まで送ると言いだしたのだが、大事をとってお前は休めと元希から言われてしまった。

またどうぞ、と言う両親の横で、隆也は冴えない顔をしている。

「じゃあな、隆也」

元希が声をかけてきた。

「あ、うん…」

隆也がハッキ少しリしない声で言う。

「ちゃんと寝ろよ?」
「…寝ますよ」
「あんま無理するなよ?」
「べつに無理なんか」

うるさそうな表情の隆也を見て、元希はニッと笑った。

「元気になったら連絡よこせよ。たまには一緒にトレーニングしてやる」

フッと隆也の目が開いた。
顔がまた赤味がかる。

「じゃあな!」

様子を見ていたシュンが玄関のドアを開けた。
元希はもう一度、両親に軽く頭を下げてからシュンに続いて外に出る。

「今日はありがとうございました!!」

不意に後ろから隆也の大きな声がした。
元希が振り返ると、隆也が深々とお辞儀をしている。

「おー。オレも会えて、よかったよ」

明るい声を残して、元希はドアの向こうに消えた。


外は静かで、空を眺めると星が幾つか輝いている。

「バス、15分には来ます」

腕時計を確認しながら、前を行くシュンが言った。

「ちょうどの時間に、バス停に着きますよ」
「ありがとな」
「いいえ、全然」

二人は並んで夜の住宅街を進んでいった。