この話も一区切りに近づいている…! 全体から見ると回想シーン? がずいぶん長くなり……全体像がよく覚えてな、ゲホゲホ。す、すみません。なんか、家に帰りづらい元希さんと秋丸君がプラプラ歩いているあたりから回想シーンになっていたような気がするのですが。み、見返そう(震え)

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しばらく黙って歩く二人の間には、足音だけが響く。

シュンはあれほど聞きたいことが頭の中に浮かんでいたのに、いざとなるとなにも思いつけなくて困っていた。

いま思い浮かぶのは、すべて彼と自分の兄の様子だけだ。

自分の知らない兄の姿を見た。
兄はそんなにこのシニア時代の先輩と親しかっただろうか。
あの頃…もちろん家ではバッテリーとして榛名の名前を出すことは多かった。
けれど、いつも醒めた顔で兄は相手のことを話していたのではなかったか。

正直、嫌いなんだろうと思っていた。

毎日、しぶい表情で、時には痛々しいほどの怪我をして帰ってくる兄を、腫れ物にさわるように接していたこともある。
兄は相棒にめぐまれなかったんだと思っていた。シニアに入って、厳しさは学べているのだろうが、楽しそうではないのだとうと思っていた。
それでも頑固でストイックな兄は、最後までやり通すだろうと思っていた。

だから、兄がシニアにいたころ、シュン自身も榛名元希という人物にも良い感情は持っていなかった。

それが、高校に入ってから兄はよく笑うようになった。今までと比べてだけれど。
兄が部活が楽しそうになったのを見て、自分も気が楽になっていた。

そんな時、武蔵野の期待のエースとして活躍する、試合中の榛名を見た。
兄と同じように野球中心の家に育ったシュンが、榛名元希の強さと魅力を感じないわけがなかった。

すごいと思った。
素直に。

この人が兄のバッテリーだったのかと思うと、驚きで胸が詰まった。

こんな人と組んだら、自分だったらどうしただろう、とこっそり考えたりもした。

けれど、兄の中で、榛名元希は触れてはならない過去の人、という感じが強くて、自分から話題にすることはなかった。
シュンの中で、榛名と兄はすれ違ったまま、遠い場所に身を置いた関係。事実、榛名がシニアを卒業してからいまのいままで、二人は会ってもいなかったはずだ。

それが、突然、一緒に食事をしたときの感じ。

なんだろう。なんなんだろう、この二人の関係は。


あんなに榛名のことを冷たい顔をして語っていた兄は。
高校に入っても、決して興味を持っていないように振る舞い続けた兄は。

「タカヤってさ−、変わんないんだな」

突然、元希が声を出したので、シュンはビクリとした。

「え?」
「いや、すごい久しぶりに会ったんだけどさ、隆也って、全然、変わんないだなって。なんか、可笑しくて」
「そ、そうですか? ……あんな風だったんですか、いつも」
「うん? そうそう、すぐムキになるヤツだったから。ちょっとキツいこというと、すぐ泣くし、そのクセ『泣いてません!』とか言って怒ってくるし。しかも、嬉しいとすぐ赤くなるから、なんかこう、表情がめまぐるしいんだよな。試合中はずっと仏頂面をキメるくせに」

ククッと元希は喉を鳴らすように笑う。

「……家だと、兄ってあんまり表情変えないから…」
「そうなの? ホント? アイツ、喜怒哀楽、激しくないの??」
「それは…」

シュンは思い切って言ってみた。

「それは、榛名さんといるときなんじゃありませんか?」
「え? そう?」

元希はキョトンとした顔をする。

「そっか…。 オレ、やっぱなんかしてんのかなあ?」

うーん、と元希は本当に考え込んでいるようだ。

シュンは、これ以上踏み込んだらいけない、と感じた。

たぶん、それは、目の前のこの人でも気づいていないこと。


「もうすぐ、バス停です」

シュンは歩調を速めた。