「よし! よし!」

父親がビール缶を握って何度も頷く。

「いまのはひっぱったんだよね?」

シュンが父親の顔を見る。
父は、ああ、とこたえて息子に笑いかけた。

「うまいこと打ったよなあ」

父はグビリとビールを飲んで、「こっから気を入れ直さないとな」とつぶやいた。

確かに試合はまだ終わっていない。
前半からずっと競り合っている試合だし、応援している球団の方がスケジュール的に疲れが溜まっているのだ。

「お母さん、もう一本」

父親がなぜか厳かに空き缶を見せながら妻に言う。

「ダメですよ、一日、ひとつでしょ」
「ええ〜? これからが面白いところなんだよ? 景気づけにもうひとつくらいいいじゃん〜」
「ちょっと、お客様も来ている席でなに言ってるんですか…!」

母が気恥ずかしそうに元希の方を見た。
けれど、同時に父も彼の方に向く。

「榛名君。うちの奥さんったら、ひどいんだよ? オジサンは今日も汗水垂らして働いてきたっていうのに、食事制限」
「え、はあ…」

突然巻き込まれて、元希は言葉に詰まる。

「次の健康診断まではダメです。もう、検診受けるの来週なのよ? 覚えてる」

隆也の母がピシリと言った。

「あー、そういや、そうでした、ね」

父が曖昧に答える。
明らかに忘れていたのを、たったいま思い出したような顔。

*****