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ろまんちっく 続き

この話も一区切りに近づいている…! 全体から見ると回想シーン? がずいぶん長くなり……全体像がよく覚えてな、ゲホゲホ。す、すみません。なんか、家に帰りづらい元希さんと秋丸君がプラプラ歩いているあたりから回想シーンになっていたような気がするのですが。み、見返そう(震え)

*******

しばらく黙って歩く二人の間には、足音だけが響く。

シュンはあれほど聞きたいことが頭の中に浮かんでいたのに、いざとなるとなにも思いつけなくて困っていた。

いま思い浮かぶのは、すべて彼と自分の兄の様子だけだ。

自分の知らない兄の姿を見た。
兄はそんなにこのシニア時代の先輩と親しかっただろうか。
あの頃…もちろん家ではバッテリーとして榛名の名前を出すことは多かった。
けれど、いつも醒めた顔で兄は相手のことを話していたのではなかったか。

正直、嫌いなんだろうと思っていた。

毎日、しぶい表情で、時には痛々しいほどの怪我をして帰ってくる兄を、腫れ物にさわるように接していたこともある。
兄は相棒にめぐまれなかったんだと思っていた。シニアに入って、厳しさは学べているのだろうが、楽しそうではないのだとうと思っていた。
それでも頑固でストイックな兄は、最後までやり通すだろうと思っていた。

だから、兄がシニアにいたころ、シュン自身も榛名元希という人物にも良い感情は持っていなかった。

それが、高校に入ってから兄はよく笑うようになった。今までと比べてだけれど。
兄が部活が楽しそうになったのを見て、自分も気が楽になっていた。

そんな時、武蔵野の期待のエースとして活躍する、試合中の榛名を見た。
兄と同じように野球中心の家に育ったシュンが、榛名元希の強さと魅力を感じないわけがなかった。

すごいと思った。
素直に。

この人が兄のバッテリーだったのかと思うと、驚きで胸が詰まった。

こんな人と組んだら、自分だったらどうしただろう、とこっそり考えたりもした。

けれど、兄の中で、榛名元希は触れてはならない過去の人、という感じが強くて、自分から話題にすることはなかった。
シュンの中で、榛名と兄はすれ違ったまま、遠い場所に身を置いた関係。事実、榛名がシニアを卒業してからいまのいままで、二人は会ってもいなかったはずだ。

それが、突然、一緒に食事をしたときの感じ。

なんだろう。なんなんだろう、この二人の関係は。


あんなに榛名のことを冷たい顔をして語っていた兄は。
高校に入っても、決して興味を持っていないように振る舞い続けた兄は。

「タカヤってさ−、変わんないんだな」

突然、元希が声を出したので、シュンはビクリとした。

「え?」
「いや、すごい久しぶりに会ったんだけどさ、隆也って、全然、変わんないだなって。なんか、可笑しくて」
「そ、そうですか? ……あんな風だったんですか、いつも」
「うん? そうそう、すぐムキになるヤツだったから。ちょっとキツいこというと、すぐ泣くし、そのクセ『泣いてません!』とか言って怒ってくるし。しかも、嬉しいとすぐ赤くなるから、なんかこう、表情がめまぐるしいんだよな。試合中はずっと仏頂面をキメるくせに」

ククッと元希は喉を鳴らすように笑う。

「……家だと、兄ってあんまり表情変えないから…」
「そうなの? ホント? アイツ、喜怒哀楽、激しくないの??」
「それは…」

シュンは思い切って言ってみた。

「それは、榛名さんといるときなんじゃありませんか?」
「え? そう?」

元希はキョトンとした顔をする。

「そっか…。 オレ、やっぱなんかしてんのかなあ?」

うーん、と元希は本当に考え込んでいるようだ。

シュンは、これ以上踏み込んだらいけない、と感じた。

たぶん、それは、目の前のこの人でも気づいていないこと。


「もうすぐ、バス停です」

シュンは歩調を速めた。




▼追記

ろまんちっく 続き

「もう! 自分のことなのよっ」

隆也母がプイッと横を向き、父親はヘラヘラ笑っている。
よくある光景なのか息子二人はまったく反応しない。

そうこうしている間も試合は進み、一度は相手チームがチャンスを作ってヒヤリとさせられる場面もあったが、こちらのピッチャーが粘り勝ちして試合は逃げ切る結果となった。



「どうも、ごちそうさまでした」

阿部家の玄関で元希は隆也の両親と、隆也本人に挨拶をする。
元希の隣にはシュンが靴を履いている。

食事の後、隆也は自分が元希をバス停まで送ると言いだしたのだが、大事をとってお前は休めと元希から言われてしまった。

またどうぞ、と言う両親の横で、隆也は冴えない顔をしている。

「じゃあな、隆也」

元希が声をかけてきた。

「あ、うん…」

隆也がハッキ少しリしない声で言う。

「ちゃんと寝ろよ?」
「…寝ますよ」
「あんま無理するなよ?」
「べつに無理なんか」

うるさそうな表情の隆也を見て、元希はニッと笑った。

「元気になったら連絡よこせよ。たまには一緒にトレーニングしてやる」

フッと隆也の目が開いた。
顔がまた赤味がかる。

「じゃあな!」

様子を見ていたシュンが玄関のドアを開けた。
元希はもう一度、両親に軽く頭を下げてからシュンに続いて外に出る。

「今日はありがとうございました!!」

不意に後ろから隆也の大きな声がした。
元希が振り返ると、隆也が深々とお辞儀をしている。

「おー。オレも会えて、よかったよ」

明るい声を残して、元希はドアの向こうに消えた。


外は静かで、空を眺めると星が幾つか輝いている。

「バス、15分には来ます」

腕時計を確認しながら、前を行くシュンが言った。

「ちょうどの時間に、バス停に着きますよ」
「ありがとな」
「いいえ、全然」

二人は並んで夜の住宅街を進んでいった。


▼追記

ろまんちっく 続き

「よし! よし!」

父親がビール缶を握って何度も頷く。

「いまのはひっぱったんだよね?」

シュンが父親の顔を見る。
父は、ああ、とこたえて息子に笑いかけた。

「うまいこと打ったよなあ」

父はグビリとビールを飲んで、「こっから気を入れ直さないとな」とつぶやいた。

確かに試合はまだ終わっていない。
前半からずっと競り合っている試合だし、応援している球団の方がスケジュール的に疲れが溜まっているのだ。

「お母さん、もう一本」

父親がなぜか厳かに空き缶を見せながら妻に言う。

「ダメですよ、一日、ひとつでしょ」
「ええ〜? これからが面白いところなんだよ? 景気づけにもうひとつくらいいいじゃん〜」
「ちょっと、お客様も来ている席でなに言ってるんですか…!」

母が気恥ずかしそうに元希の方を見た。
けれど、同時に父も彼の方に向く。

「榛名君。うちの奥さんったら、ひどいんだよ? オジサンは今日も汗水垂らして働いてきたっていうのに、食事制限」
「え、はあ…」

突然巻き込まれて、元希は言葉に詰まる。

「次の健康診断まではダメです。もう、検診受けるの来週なのよ? 覚えてる」

隆也の母がピシリと言った。

「あー、そういや、そうでした、ね」

父が曖昧に答える。
明らかに忘れていたのを、たったいま思い出したような顔。

*****
▼追記

ろまんちっく 続き

「なあ、タカヤ。もうめまいとかしねえの?」
「…ふぁい」

口いっぱいに頬張っている隆也がうなずく。

「じゃあ、なんでそんなに眉間にシワ寄ってんの?」

ギュギュっとますます眉が寄る。
元希の口元が緩んだ。

しばし、みんな黙って食事に専念する。
シュンが一度、席を立って、ご飯のお代わりを取りにいった。

テレビの向こうの試合は1対2。
阿部家が応援しているチームの方が負けている。
父親が、今日のピッチャーの調子をつぶやくように母親に言っている。
しかし中継は切り替わり、球場のファンの姿になった。
応援チームのユニフォームを着て、三人並ぶ女性達。
一人はチームのマスコットキャラのグッズを持っている。
試合では押され気味だが、ファンはインタビューされると張り切って笑顔でこたえ、最後に好きな選手の名前を出してエールを送った。
その後、画面は応援席全体に切り替わる。
大勢の人が、バッターボックスに立った選手の名前を呼んでいる。
再び試合が始まった。

「…目え、赤い」

また元希が隆也の顔をのぞき込んできた。
そう言われた途端、隆也の顔が赤くなり、耳まで色が変わる。
ジワ、と隆也の瞳がまた水っぽくなった。

「なに? 泣いてたの?」

すると隆也はギッと元希を突き刺すように睨んで、それから隣にいるシュンにまで視線を向けてきた。

「え?」

シュンが困ったように兄を見返す。
その目はまるで、「アイツをどうにかしろ」と言っているようだった。
真っ赤になった兄が自分に訴えるような視線を向けている。
そして原因になった相手は愉快そうに笑っている。

「あー、いや…」

シュンは曖昧な返事をした。
隆也は、グイグイと手の甲で目を拭うと、小さく舌打ちしてからお茶を飲み、サラダを口に運び始めた。
視線は努めて手元に落としている。
隆也の前に座っている元希は口元の笑みを消せないまま、そんな相手を見守っている。

父親は食卓で起きているこの様子に気づいているのだろうか。
なにも言わずに、とにかく黙ってテレビ画面を見ている。

シュンは自分もサラダを手に取り、ドレッシングのかかった真っ赤なトマトにフォークをさした。

(部活の先輩、後輩ってこんな感じだっけ?)

シュンはチラと隆也、元希の様子を見る。

(兄ちゃん、あんなに顔、赤くなることあったっけ…?)

運動部の先輩と後輩というのは、もっとこう、あっさりしているか、もしくはこどものようにふざけあっているか、そんなところじゃないだろうか。

では、このすぐ隣で発生している、ホワホワした感じは何だろう。

「榛名君、ハンバーグ、お代わりする」

ふいに母の声がして、元希と同時にシュンまで母の顔を見てしまった。
母親はいつもと変わらない笑顔。いそいそお皿を差し出す元希に新しい煮込みハンバーグをよそう。

(気にしすぎてるだけかな)

シュンはなんだかちょっと恥ずかしくなってサラダをもりもりと食べる。

しかし、隣の兄が赤いことに変わりはない。
目のやり場に困って中継画面に目を向けると、自分が好きな選手が打席に立った。
思わず目が吸いつけられる。
振るタイミングが合わず、ツーストライク。打者は確認するように素振りをしてから投手と見合う。
次の瞬間、バットに当たった球は宙を大きく舞った。

「お、お、行ったな!」

父親がうなるように言った。

ホームラン。
しかも、すでに3塁、2塁にランナーがいた。
4対2。
見事に試合をひっくり返した。
球場から歓声が起こる。



▼追記

ろまんちっく 続き

開けたリビングのドアの向こうには……隆也にとっては信じられない景色が広がっていた。

「打ったぞ!!」

大きな声で喜ぶ父。

「いまのはスゴいっすね!」

それにこたえるのは、ここにいるはずのない人の声。

「あ、兄ちゃん」

シュンが隆也の気配に気づいて振り返った。
隆也は引きつった顔のまま、入り口に立ちすくんでいる。

「タカヤ??」

その声に、大柄な背中が振り向いた。


「おー! タカヤ! 起きてきたのか!」

明るい声。
嬉しそうな笑顔が輝く。



「なんで…いんの?」
「え?」

隆也は青い顔でそう低くつぶやいた。
元希がキョトンとした顔で隆也を見てくる。


「なんでって、夕食に誘ってもらったから」
「は?」

はあああ?

隆也は大げさなくらい、声をだして眉をしかめてみせた。

「おい、タカ! その態度はなんだ!?」


急に父親が太い声をだす。

「あ……いや…」
「それがお客様にする態度か!」
「あ、あの。いいですよ」

声を荒げた父親を見て、元希の方が庇うように言葉をはさんだ。

「きっと、驚いたんだと思いますから」
「いえ、こういうことはピシっとたださなきゃあ」

(……オレも、シニアんときは態度悪かったと思うんだけど)

元希は心の中でダラダラと汗をかく。
とりあえずチラと隆也と目を合わせると、隆也の方も気まずいながら、元希を見返し、それからキチンと姿勢を正して元希に頭を下げた。

「失礼な態度とって、すいませんでした」
「いや、そこまでされると困るから…」

ちょっと様子を見ていた母親が、やってくる。

「ほら、隆也、お皿取って。食べれるだけ食べなさいね」
「ありがと」

母は空いている席、ちょうど父親の隣に隆也を座らせた。
テーブルには父と隆也、反対側にシュンと元希が並び、隆也と元希は向かい合う形になった。
母親は、適当な小さなイスをヒョイと持ってくると、テーブル端というか、いわゆるお誕生日席のような場所に落ち着く。

父親はまたテレビ中継を見つめだした。
隆也は目の前の美味しそうなハンバーグを一口食べる。
旨いと思いながら、静かにモソモソ食べ続ける。
母親は安心したように自分も食事を始め、中継の音が部屋に流れる。

そうしながら、隆也は視線を感じて顔をあげた。

ニッコリ、といっていいほどの顔で元希が自分を眺めている。
思わず顔が赤くなって眉をしかめるが、隣に父親がいるので大人しくした。
目だけで「見ないでくださいよ」という雰囲気をだす。

それでも、元希は野球中継よりも興味深そうに自分の方を見てきた。

***********
なんか、書く前まではもっとフワフワ少女漫画的なイメージを持つんですが、書いてくうちにエセ硬派になる。



▼追記
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