さっき、ガスコンロで焼きナスを初めてつくってみました。美味しいですね。味付けによってかなりな可能性を感じています。
それはさておき! ついつい、小ネタ発動です。
**********
「なあ、キスしていい?」
「ええ…?」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「減るよ」
「なにが?」
「なにがって……いろいろと」
高校で再会して、オレと元希さんは時々会うようになった。
そして、どうしてこんなことになったろう。
たぶん、お互い、学校では部活に一途で、野球のことしか考えてなくて。
そんな反動がどこかで働いたんだと思う。
初めは元希さんの部屋だった。
強引に誘われたっていうのが本当だけど、自分の興味本位も手伝って、唇を合わせてしまった。
そこから若い好奇心は、坂を転がり落ちるようなものだった。
お互い、男同士だってことを出来るだけ意識しないように、暗くした部屋で目をつぶってしたこともあった。
でも。
オレは。
心の中で、だんだん。
「なあ……」
こんなことを初めて3ヵ月目。
元希さんは終わったあとのオレを胸に抱きながら言った。
「いつかオレもお前も、こんな風に女の子を抱くのかな」
オレは黙って聞いている。
「女だったらさ−、もうちょっと柔らかいかな。お前、どんどんガッチリしてくるもんな−。女子だったら、も少しフワフワしてる?」
「さあ…。まあ、そうでしょうね」
「お前なんてさあ、きっと女子と寝たら、すげえ男面するんじゃねえの? お前、プライド高いしさ、そういうの上手そうだから。絶対、オレに見せてた顔なんてミジンも感じさせないでするんだろ」
そう言って元希さんはなにが楽しいのか、クスクスと笑い続けた。
「まあ、最初だからって譲ってもらっちゃったけどさ、お前、いい彼氏になると思うよ。どんな子が好きなんだっけ。肌が綺麗な子?」
「なんで急にそんなことばっか話すの?」
オレはゴロンと寝返りを打って、相手に背中を見せながらいう。
腰のあたりがけだるい。
後始末をするのに、もう少し気力がほしい。
「いや〜? なんとなく。いつかはそうなるだろうなあって思って」
オレはちょうど枕の端が唇の側にあったので、それを噛んだ。
強く、強く噛んだ。
それから起き上がる。
「……べつに、オレは女とか抱かない」
「え?」
なんでって顔して元希さんがこっちを見る。
その顔を、穏やかに睨みつけた。
「………アンタに抱かれたから。一生のうちで、オレの身体知ってるのなんて、アンタだけでいい」
「え…?」
明からにこわばった顔を見て、乾いた笑いを漏らす。
「アンタ、好きにしていいんですよ? オレが勝手に決めてるだけだから」
「いや、でも……」
オレはベッドから裸のまま降りた。
シャワーを借りよう。
予想通り、ぽかんとしている顔が、笑える。
「タカヤ……オレ…」
それ以上は聞きたくなかった。
「いいじゃないですか。面白い遊びでしたよ。アンタは…アンタの好きなようにしてください」
クールに言った途端、目から涙がこぼれたのだけが、一生の不覚。
バタンと音を立てて元希さんの部屋のドアを閉めて、誰もいないことを知っている家の中を歩いてシャワーを借りた。
突然だったけど、これで終わったんだと思った。
これでよかったんだと思った。
着替えて、帰る用意をして玄関に立ったとき、元希さんはオレの顔をみなかった。
ただ、
「送っていこうか?」
優しく肩に手を添えられて正直びびった。
大丈夫ですよと言って急いで外に出る。
いつもは時折振り返る元希さんのマンションも見ないで、ひたすら前を向いて歩いた。
************
翌日。
武蔵野第一高校、昼休み。
「秋丸…オレ、しくじったかもしんない」
「なにを?」
「オレ。順番、間違ったかも。あーあ…遊びまくっておけばよかったな−」
「遊びって、なに?」
「女子とさあ、こう…バカみたいにイチャコラしとけばよかったな、なんて」
「はい? 急になに言い出すの? 突然の発情期? 思春期って怖いわー」
「うるせえ! …そんなこといったら、もうずいぶん前から発情期だよ、どうせ」
「うっそ。お前、人生、野球しか見てませんって感じじゃん」
「お前がミラクルににぶいのか、オレが天才的に上手いのかだな」
「話が見えないんだけど」
「とにかくさー。オレ、もしかしたら、もう一生、女子とは縁がないかもしれない」
「ええ?」
「あーー。一回くらい、触っときたかったなあ」
「す、すればいいじゃん。いつか」
「………」
「どうしたんだよ? でもお前、宮下先輩好きだった時は、何人も女の子に告白されたのに、全部断ってたじゃないか。いまからだって、また新しい子来ると思うよ。こういう言い方、あんまりよくないけどさ」
「……気軽に先輩の話だすなよ。できるだけ考えないようにしてんだから」
「まだ傷心だったのか」
「違えよ、ぼけ眼鏡…」
「あ、うなだれた。お前って見かけによらず、一途ねー」
「……んなことねえよ。軽いよ、オレなんて。気をそらすために、他のコ、巻き込んじゃうくらいだもん。先輩の顔、まともに見れねえよ」
「他の子? お前、付き合ってる子、いるの!?」
「いや、遊び…」
「遊び!!?」
「じゃなくて、遊びっつーか。利害一致っていうか。お互い、今後のために知っててもいいかなって思って、試したつもりっていうか」
「なに言ってるかサッパリわからないんだけど、とにかく誰かと付き合ってるわけね」
秋丸の眼鏡がキランと光る。
「付き合ってるっていえるようなものでもなかったんだけどな、オレとしては。でも……」
榛名がズイと秋丸に顔を近づけた。
「オレも、マジでそいつとのこと考えなきゃいけなくなったんだよ」
「…………まさかと思うけど………避妊はちゃんと…」
「それはない!」
ものすごくきっぱりと言われて、秋丸はなんだか自分の方が顔を赤くする。
「んだよ、そんなに大きな声で言わなくても。わかったよ。よかった。お前が退部なんかになったら」
「だから、そんな心配は何一つするなよ…」
「じゃあ、なんなのさ」
「…オレが思ってたより、相手の方が本気だったんだよ。そんで、どうしようかなと思って」
「マジで…」
「おお」
秋丸はしばしの間黙っていた。
気の利いた言葉を思いつかなかったのだ。
「榛名は、どうしたいの」
「オレか…」
ようやく秋丸はまともに口を開いた。
榛名が大げさに眉をひそめて腕を組む。
「そっからが問題なんだよ。オレも、まさか、本気だとは思ってなかったから。けどまあ、それならそれで、付き合ってもいいんだけど……」
「あ、そうなの?」
「ただ、問題はさ。ちっせえかもしれないけど、この先、一生、女子は触ることがないまま終わるのかなって思うと、ちょっとだけ、な」
「そこがよくわからないんだけど…。なんで? 彼女出来るんだよね?」
「彼女ったって、男なんだよ」
このあと、たっぷり4分間ほど、秋丸は言葉をみつけられずにかたまっていた。
「休み時間、終わっちゃうじゃん」
ようやく、榛名が小さくつぶやく。
「誰? 相手」
しぼりだすように秋丸が聞いた。
「………タカヤ」
そのまま午後の休み時間の終わりを告げるチャイムが響いた。
その日、放課後の部活動が全て終わっても、ふたりはもうこの話題を持ち出さなかった。
帰り道。
一人になった榛名は家より100メートルほど手前にある夜の公園で、誰もいないベンチに腰掛けると、公園内を唯一照らす電灯のしたで、おもむろに携帯をかけた。
息をつめて待つ。
つながった。
『はい』
相手がそれだけこたえる。
「お前、いま、話できる?」
『はい、まあ』
「そっか。あのさ、聞いておきたいんだけど」
柄にもなく少しだけ、声が震える。
「オレのこと、好き?」
『…はあ?』
「好きかって聞いてんだよ」
『………』
「どっちだよ」
『どっち……』
はあ…と榛名はため息をついて、それから少し口調を強めてこう言った。
「もしお前がそうだっていうんなら、付き合う気で電話かけてんだよ。ハッキリしろよ」
電話の向こうで、相手が動揺しているのがわかった。
けれど、待つ。
『……スキ…ですけど』
「そっか。わかった! んじゃ、またな」
『え? おいっ……』
電話は切ってしまった。
逃げるように。
はああ、と榛名は夜の公園で息を吐く。
そうしてうずくまったまま、しばらく動かないでいた。
だが、気力が戻ってきたのだろう。突然、彼はスクッと立ち上がると、地面を強く踏みしめて、真っ直ぐ、早足で自分のマンションに向かっていった。
口元には満足げな笑みが浮かんでいる。
榛名は歩くごとに、自分の中に新しい力が沸いてくるのを感じていた。
***********
オチとかないよ! ヤマもなかったかもしれないよ! とりあえず、なんで書いたかもわからいよ。でも書けてよかった。すみません、今日はこれで寝ます−。
次は、ちゃんと続きものいきます。ではでは、です。