開けたリビングのドアの向こうには……隆也にとっては信じられない景色が広がっていた。

「打ったぞ!!」

大きな声で喜ぶ父。

「いまのはスゴいっすね!」

それにこたえるのは、ここにいるはずのない人の声。

「あ、兄ちゃん」

シュンが隆也の気配に気づいて振り返った。
隆也は引きつった顔のまま、入り口に立ちすくんでいる。

「タカヤ??」

その声に、大柄な背中が振り向いた。


「おー! タカヤ! 起きてきたのか!」

明るい声。
嬉しそうな笑顔が輝く。



「なんで…いんの?」
「え?」

隆也は青い顔でそう低くつぶやいた。
元希がキョトンとした顔で隆也を見てくる。


「なんでって、夕食に誘ってもらったから」
「は?」

はあああ?

隆也は大げさなくらい、声をだして眉をしかめてみせた。

「おい、タカ! その態度はなんだ!?」


急に父親が太い声をだす。

「あ……いや…」
「それがお客様にする態度か!」
「あ、あの。いいですよ」

声を荒げた父親を見て、元希の方が庇うように言葉をはさんだ。

「きっと、驚いたんだと思いますから」
「いえ、こういうことはピシっとたださなきゃあ」

(……オレも、シニアんときは態度悪かったと思うんだけど)

元希は心の中でダラダラと汗をかく。
とりあえずチラと隆也と目を合わせると、隆也の方も気まずいながら、元希を見返し、それからキチンと姿勢を正して元希に頭を下げた。

「失礼な態度とって、すいませんでした」
「いや、そこまでされると困るから…」

ちょっと様子を見ていた母親が、やってくる。

「ほら、隆也、お皿取って。食べれるだけ食べなさいね」
「ありがと」

母は空いている席、ちょうど父親の隣に隆也を座らせた。
テーブルには父と隆也、反対側にシュンと元希が並び、隆也と元希は向かい合う形になった。
母親は、適当な小さなイスをヒョイと持ってくると、テーブル端というか、いわゆるお誕生日席のような場所に落ち着く。

父親はまたテレビ中継を見つめだした。
隆也は目の前の美味しそうなハンバーグを一口食べる。
旨いと思いながら、静かにモソモソ食べ続ける。
母親は安心したように自分も食事を始め、中継の音が部屋に流れる。

そうしながら、隆也は視線を感じて顔をあげた。

ニッコリ、といっていいほどの顔で元希が自分を眺めている。
思わず顔が赤くなって眉をしかめるが、隣に父親がいるので大人しくした。
目だけで「見ないでくださいよ」という雰囲気をだす。

それでも、元希は野球中継よりも興味深そうに自分の方を見てきた。

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なんか、書く前まではもっとフワフワ少女漫画的なイメージを持つんですが、書いてくうちにエセ硬派になる。