俺の名前は、青空 崇(あおぞら たかし)。
烏野高校1年生のバスケ部だ。
まだレギュラーは貰ってないが、狙うポジションはSF(スモールフォワード)。自分で言うのも何だけど、体育会系の俺には持って来いだと思うんだよな。
勿論、部活の時だけだぞ。体育会系の熱さは。多分。
ただ身長が微妙に足りてないのが悔しいところだけどな。まあ身長なんて、この一年で10センチ以上伸びると信じてるし。
きっと大丈夫!…多分。
まあそんな俺には、クラスメートにも友人にも言えない趣味があったりする。
所謂、秘密の趣味ってやつだ。
だからこの学校では…いやクラスの中では当たり障り無くクラスメートと過ごしている。
勿論、部活の先輩やチームメイトにも、だ。
まさか何かの切欠で俺の趣味がバレたらたまったもんじゃない。
それは非常に問題だ。
明日への生死が掛かってくる。
なら辞めたらいいと、思うだろ?しかしそうはいかないんだ。
この趣味を無くせば、それもそれで俺自身死んでしまうかも知れないからな。いや、死ぬな。
どちらにしても、死活問題なのだ。
「おい、青空」
授業全てが終わり、本日最後のHR前。一人の男が話し掛けてきた。
目つきの悪い黒髪の男は、俺を睨むようにして立っている。
元々俺より少し高い背は、座っている俺からすると嫌味のように高くてちょっとムカついた。
だから俺も自然と視線がきつくなる。
確かこいつは、バレー部の…
「何だよ、影山」
そう、影山飛雄。
目つき悪いし、学力もヤバ過ぎだけど部活のバレーだけは真面目で。男の俺から見ても、不細工かイケメンかと聞かれれば…イケメンだと答える。
しいて言うなら、見た目はまあまあだ。
そんなコイツの練習を何度か遠くで見たことあるけど…それは鬼気迫るものを感じたな。
しかしバレーは室内競技だったハズだが…なんでこいつあの時外で練習してたんだろうか…。
しかも相手のおちびちゃんが、可哀想だったな。
えらく怒声が響いてた気がするのは…気の所為じゃ無いだろう(勿論影山の)
そんな認識の男…影山に呼び掛けられたのは不思議で。睨みつつも俺は心の中で首を傾げる。
このクラスになって既に三ヶ月。徐々にクラスメートと慣れてきたところだが…こいつに名前を呼ばれたのは初めてだ。
「何か社会の先生が放課後、オレとお前とで準備室に来いって」
そう口にした影山の表情は、さっきより険しい。
そして俺はその言葉に益々疑問を強く感じた。
「分かった。でも何でお前が呼ばれんの?」
そう、俺は今学期各授業の担当係になっているのだ。
授業の担当係とは、簡単に言えば先生の小間使い…お手伝いさんみたいなもので。担当の先生に言われれば何でもしなくてはいけない。
資料作りの手伝いから、授業に必要な物の伝達など。ありとあらゆる仕事を押し付け…いや手伝うのが係の仕事だ。
そしてこれは委員会以外に割り当てられる、学校ならではの義務活動みたいなものだ。
そんなくそ面倒臭い係の中でも、意外と仕事の多いこの社会科(下っ端)係に俺は入っている。
…と、言うか入れられた。
理由は思い出したくないので言わないが。まあ、指名されたのだ。
だが、この男は違う。
確か一番楽な係りだったハズだが…よくは覚えてない。
まあ、興味ないからな。
そんな事を考えていたら、影山は投げていた視線を逸らしてぼそりと口を開いた。
「…アイツの授業、寝てたのバレた」
その一言で、俺は理解する。ああ、こいつも…罰か。ある意味俺がこの係にさせられたのも同じような理由だから影山の気持ちは多少分かる。
しかし、俺が係決められた理由知ってるハズなのに、こいつ強ぇな。心臓に毛が生えてんのか?
「分かった。放課後な。…あー、部活遅れるって伝えて貰わねぇと」
「あ、オレもだ。そう言えば青空って、何部?」
「バスケ」
「ふぅん。俺は…」
「バレーだろ?知ってる?」
「へ?そうなのか?オレ知らねーのに」
「うん、何回か見たからな。お前の事」
そう言うと、影山はバツの悪そうな顔をして「悪ぃ」と小さく謝った。
それに何が?と首を傾げて聞いた。謝られる理由も、その表情になるのも意味が分からなかったからだ。
「オレ、何にも知らなくて」
そう律儀に返す影山に、ふっと口元が緩んだ。
何だ、コイツ。素直か。この図体に似合わず、この表情に合わず…良い奴か!
最初にコイツ見た時(うわー自己中っぽいなー。コミュ障かも)とか思ったけど、違うのか。まさか外見と中身のギャップ狙いか!
…それとも、短期間に変えられたのか…。
そんな事を思った途端、あの一緒に練習していたおちびちゃんが脳裏に映って。俺は吹き出しそうになるを何とか堪えた。
「良いって別に。お前興味があることだけ、真剣だもんな。分かり易すぎ」
それにこれから知っていけばいいじゃん?そう言ったのは俺の気まぐれだ。まさか、これから深い付き合いになるとは。
この時全く持って考えてはいなかったのだ…。
「やべぇ、明日飲む牛乳無かった〜。何で忘れるかな〜」
そう言いつつ夜道を歩く俺。今日は両親が居ないから、思う存分趣味を堪能していた。
俺の趣味は両親にも言えないもので、しいて言うなら一番上の姉ぐらいしか知らない。
…姉は意外にすんなり理解を示してくれたから、俺の理解者でもあり協力者でもある。家族に一人いるのは有り難い。姉には感謝だ。
しかし一人暮らしを始めた姉と兄が居ない為に、たまにこうして自分で食料を仕入れないといけない時もあり。それはとても、面倒臭い。
まあ夜も遅いし、念には念を入れたからバレることはないと思うけど…。
不安になりながら俺は足早に、歩き始める。電灯がぽつりぽつりと道を照らすその景色が、昼間とは異なり寂しい雰囲気を醸し出していて俺の不安を煽る。
やがて少し大きめの電灯がある公園に差し掛かり、ホッと息を吐き出した途端。
…――公園の奥から、人の声が聞こえた。
(なに…?)
その瞬間不安は消えて、疑問が頭を支配する。それは後から考えれば怖い事なのだが俺はこの時、つい公園へと足を向けてしまった。そして声を頼りに奥へ奥へと進んてゆく。不思議と恐怖は無かった。
足を進めるに連れて、解ってきたことがある。少しずつ近づく声はくぐもった感じだが、どうやら二人は居るらしい。
…僅かに荒い息遣いが聞こえて、まさか喧嘩か?等と勘ぐってしまう。
進む先にやっと人影を見つけて、側の大きめな木に姿を隠して様子を見る事にした。自分からは一人の男の背中と、その僅かな隙間からもう一人の人物の足が僅かに見える。その姿が男だと分かったのは、その姿が学ラン…しかも自分の学校の制服…だったからだ。遠目からだが、その姿は何となく分かるし。何しろ学ランはこの辺りだと烏野高校しか無いからだ。
(え?うち生徒か?)
そう言ってもこの公園は、学校から少し遠いハズだ。しかも結構遅い時間…まさか、殺人…っ!?
そんな事を考えていたらドンッと何かが倒れ込む音が聞こえて、何やら叫び声が聞こえた。
「……っバカッッ!!!!お前なんてサイテーだ!!!!」
そう聞こえたと思ったら、こちらに向かって一人が走ってくる。俺は慌てて木に背を向けて身体を竦めた。状況を探っていたと気付かれたくなくて、息を潜めていたら。小柄な男が、凄い速さで駆け抜けて行った。その人物に、俺は目を疑った。
(コイツ、影山の…)
オレンジに近い髪と、大きな瞳。ソコからは大きな涙がポロリポロリと溢れ出ているのが見て取れた。それは嫌悪よりも…。
背中を見送った後、ふともう一人の方が気になって視線をまた先程見ていた方へ戻す。するともう一人の男は、へたり込んでその地面を強く叩き込んでいた。それは手が汚れるのも痛むのも気にしないかのように。
「…っくそっ!!ちくしょう…っ!!」
悔しそうなその姿はどちらかと言えば切なく、悲しそうだ。
そして、その声は知っている。つい最近話すようになった…。
「…影山」
その声と隠しておきたかっただろうその一連の状況を見過ごせ無くて。
結局俺は、苦しく唸る影山の傍に近寄ってしまった。
「…え…?あ…青空?」
僅かに瞳の端に溜まる水滴に気付かないよう、俺は手を差し出した。
「うん、ごめん。見ちゃった」
「……って、お前…何だよその姿…っ!」
「…この姿見て笑えよ。コレ俺の趣味だから。まあ、お前の情け無い所見たし。これで五分五分(フィフティフィフティ)だろ?」
「女装が、趣味…なのか?」
「そ。そして、精神安定剤なんだよ。コレ」
…そう、俺の趣味は女装だ。可愛い服着て、長めのウィッグ着けて。このまだ男になり切れてない顔に薄い化粧を施す。
昔よく母親や姉に遊ばれて、褒められたり周りからも可愛いと言われたのが切っ掛けだったと思う。
そしてある日ムシャクシャしてどうしようもなくなった時。ふと思い出したように女装して、別の人物になったら…すうっと落ち着いた気持ちになった事が、この女装を続けている理由だ。
別の人間になる。それが世間からどれだけおかしい事であろうとも、俺にとって大切な事。精神と自分という人間を保つ為に必要な、薬なのだ。
誰に何を言われようとも。
「…影山、面倒ついでにお前の相談役になってやる」
履いていたスカートが汚れるのも構わず、俺は膝を折り手を貸すとぐっと影山を引き上げた。
「俺が手伝ってやるからさ、もう少し頑張れよ」
「何、を…」
驚いたような表情で俺を見る影山に、小さく笑って…あの青年が消えた方を見つめた。
その先に彼の姿は、もう無い。
「好きなんだろう?日向の事が」
横を駆け抜けたあの青年は、確かに影山と同じ部活の…相棒だったハズだ。名前もたまに聞いていたし、何より二人は並ぶととても目立つ。
そして隣に居るときの影山は、どこか雰囲気が違うのも分かっていた。
「おう…」
小さな返事は、空気に掻き消されそうなぐらい小さかったが近くにいた俺には聞こえた。
「なら、これは交換条件な」
「交換条件?」
「俺の趣味を誰にも言わない代わりに、俺は今日のこと誰にも言わないしお前の恋を応援してやる」
「そんな…それじゃオレばっかりじゃ…」
「そう言うな。これでも俺、お前が気に入ってるからさ」
そう言って一度離していた手を再び差し出して、握手を求める。それに影山も理解を示し、強く握俺の手を握りしめた。これで俺たちの契約は友情と共に結ばれたんだと理解する。
その時ふわりと吹いた風に、俺の髪とスカートが柔らかく舞った。面倒臭いと思っていた、深い友情も意外に楽しいかも知れない。そう思うと自然に笑顔になる。
「サンキュ、青空」
「崇でいいって」
…それにな、実際お前の恋に手を貸した理由はさ。
(日向の耳、真っ赤だったんだよな。それに嫌がってた…と言うより、恥ずかしくてどうしたらいいか分からないって感じだったし)
だから脈ありなんだよ。
まだ言ってやらねーけど。
さっきみた日向の姿を思い出して、一つ頷く。まあ影山の視線は不思議そうだったが。
(さて、どうやって日向を影山へと陥落させようか)
今の俺には珍しく、この先が少し楽しみな気がしてまたくすくすと笑ってしまった。
【おわり】
…ついったぁで○○診断したら、下記の内容が出て来たので。つい書いちゃった(笑)
一応美少年らしいよ。
因みに髪の色も目の色も全然生かせなかったよ。残念。
◎からす(空崇)くん
(16歳)
身長→168cm
髪色→漆黒
目の色→翡翠色
性格→体育会系
特徴→趣味が女装なこと
#あなたを美少年化してみた。
…性格が体育会系なのに、女装趣味ってこれいかに(笑)