続きです。前回読まなきゃ分からないよ(^^;
眠い目を擦り、学校へと進んでいく。
くそう、結局家に着いても、中々寝付けず。兄貴にはバカにされるし、朝から気分は最悪だ。
しかも昨日の先生との会話が気を重くする大きな原因で。本当に何て事を言うかな!じいちゃん!!
そう帰りにこう言われて…
『そう言えば我妻くん、桑島道場の門下生なんだってね。桑島道場って強い選手が多い所で有名じゃないか』
突然何かと思えば、無理やりやらされている剣道の話しだ。確かにじいちゃんの道場は強い生徒が多い。だからって俺が強い訳じゃない。それどころか弱くてじいちゃんに叱られっぱなしだ。
『確かにじいちゃんの道場は凄い所だけど、何で俺が剣道してること……』
『ワシが言った』
『じいちゃん!?』
何でそんな事言っちゃうの!俺、まだ未熟で怒られっぱなしだよね!?じいちゃんの型一つしか覚えられて無いんだけど!?
でも先生は俺が弱いなんて微塵も感じてなくて、嬉しそうに話しを進めてゆく。
『実は俺も少ししてたんだ。剣道』
『だから先生、強かったのか』
それを聞いてふと、府に落ちた感覚がした。けれど、はたと我に返る。あれ?なんで先生が強いの知ってるんだっけ…?
『強いかどうかは分からないけど、竹刀を振るのは好きなんだ。そうだ我妻くん、今度相手して欲しいんだけど、どうかな?』
俺の言葉は聞き流すと、更にとんでもない事をさらりと口にされて俺は驚いた。
『え!?』
『だって、我妻くんそこそこ強いって桑島さんが』
『やだぁー!無理無理無理!!』
んナ訳無いでしょう!じいちゃん!
先生相手なんてすぐ死ぬじゃん。あの苦手なトミセン(冨岡先生)と互角に戦える逸材(以前に二人で剣道の撃ち合いを見たと言う友人に聞いた)を相手にしたら、どうなっちゃうと思ってんのよ!特に、俺!!死ぬよ!俺!!
…って、先生が強いって聞いてたんじゃん。だから府に落ちたのね。スッキリした…じゃなくて!そんな事でホッとしてる場合じゃないんだよ!俺!命の危機だよ〜!じいちゃん!
『見てもらえ、善逸』
『えぇー!俺弱いのに…なんでぇ』
助け船を出して貰おうとじいちゃんの顔を覗くが、じいちゃんはにやにやして俺を見ているばかりだった。
それって俺が先生にシバかれる運命って事だよねぇぇ!
嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!
なんて、昨日の記憶が思い出されるとまた悲鳴が上がりそうになる。何であんな約束してんのじいちゃん…。それで今日どんな顔して先生に会えばいいのよ…。
いや、会わなきゃいい。
そうだ。会わないように逃げまくれば、きっとあの話しも立ち消えに…。
「我妻くん?」
「ぎゃあぁぁ!!」
気が付けば校内に入っていた俺は、知らず知らずの内に竈門先生が背後に立って居たことに気付けなかった。
「お…おはよう、すまない驚かせてしまったな…」
恐る恐る謝られた俺は、半分涙目になりながら大丈夫です…と答える。
え?何?今日の放課後にもう決闘の申し込みなの?心の準備出来てないんですけどぉ!いや、遺書ぐらい書かせて…。
「そんなにビクビクしなくても、手合わせの件は暫く先で構わないよ」
そう苦笑いしながら話す先生は、どうやら俺の思考回路を読んでいたみたいだ。もしかしたら靴箱の前でうだうだしていたから、勘づかれたのかも知れない。それはそれで居たたまれないが、先生はそんな俺を気にしたような様子は無くマイペースに俺を呼んだ。
どうやら渡したい物があるとの事で、周りを見渡してちょいちょいっと手招きする。
それに感化されて俺も周りを見渡しながら、下駄箱のもっと影になりそうな場所…先生を下から覗き込むような所まで身体を寄せた。
ただでさえ近い距離がもっと近くなって、気持ちドキドキする。恥ずかしいことをしているような、気恥ずかしいような、はたまた悪いことをしているような…そんな感じだ。
「ごめんね、ちょっと両手を出して」
そう言われて、何も考えずに胸の前に両手を出すと手首にシュッと液体を吹き掛けられる。
「我妻くん、匂う?」
「ふぇ…?」
「良い匂いだろう?」
吹き掛けられた瞬間ふわりと香る僅な甘味を含んだ優しい匂い。多分花の匂いじゃないかと、瞬時に思った。だから素直にこくりと頷く。
「何か優しい香りがしますけど…」
「トワレだよ。香水より強くないから、我妻くんに似合うハズだと思って」
そう言うと「手首を擦り合わせてごらん」と言われて、その通りに動かしてみる。すると匂いが先ほどより弱まった感じがした。その代わり優しい匂いから爽やかな匂いが混じって僅に変化したのが分かる。
「…俺に?」
「そう、特別製だけど君にあげるよ」
そう言われて今度は自分の指先に香りを付けた先生が、そっと耳元にを通り首筋に指を滑らせた。それがくすぐったくて、少し恥ずかしい。
「女の子にモテたいって言ってただろう?だからこれを付けてたらいいよ」
「なんで…?」
先生はそっと俺の手の上に液体の入った小瓶を置くと、今度は耳元に鼻を近付ける。俺はドキドキしながらもその意図が分からずに聞いてしまった。
しかしその問いにはすぐに答えず、くん…鼻を鳴らし俺に付けた匂いを嗅いだみたいだ。
先生の鳴らした小さな音が、酷く頭を刺激するかの様に響いて自然と喉が鳴ってしまう。
「ある意味おまじないだから。でも他の人にはこの事を内緒にしてくれないか?」
そう耳の側で囁かれれば、頷くしかない。ああ、この声はズルい。脳内に響いたら、従うしかないぐらい刺激が強い声だ。
明日から付けてくれ…と言われて立ち去っていくまで、俺は足を動かすことが出来なった。
◇◆◇◆
あれが大人色香なのか。
今まで避けていた…と言っても過言ではない竈門先生を気が付けば目で追っている。
今まで気が付かないようにしていて、なるべく見ないようにしていた竈門先生。今更ながら先生を視界に入れば、その先の表情は笑顔ばかりだ。
楽しそうな先生に、俺はただ面白くない気持ちが顔を出す。
今日は昼休み窓から下の中庭を見下ろせば、外でお弁当を食べていた冨岡先生に笑顔で話し掛けていた。
楽しそうに身振り手振りで冨岡先生に話し掛ける竈門先生は、俺に見せる顔より幼く見えて。あれが実は素なんじゃないかって思う。
(仕方ないよな、トミセンの方が竈門先生より先輩なんだし)
小さく吐く息に、手の中にあるガラス瓶がちゃぷんと揺れる。それを俺は、無意識に握り締めた。
「あの…我妻くん、ちょっと良いかな?」
ある日女の子に呼び出された。
それはとても嬉しいことなのに…。何故か胸が踊らない。
何故だろう、ずっとずっと憧れていたシチュエーションなのに。
「最近我妻くん最近雰囲気変わったよね。垢抜けてて格好良くなったって思うんだ」
恥じらいながらも話してくれるのは、隣の組の人気が高い女の子だった。うちのクラスの男子でも、彼女にしたいランキングの上位をいっている。そんな彼女が俺にそんな事を言うのだ。
「以前なら何か冴えなかったのに、この前の竈門先生との試合?が凄く格好良くて…」
そうだ。二日前先生と手合わせをした。剣道場を借りて、武具などは剣道部から借りたけど。竹刀だけは自分の物だった。
手合わせの為に結構前からじいちゃんに稽古をつけて貰ってたけど。結局練習では一度もまともに打ち込めた試しはなかった。それ処か何度も気絶しちゃったけど…。
それでもじいちゃんはよくやったと褒めてくれて、きっと大丈夫だと背中を押してくれた。だから…―
「まさか先生に勝っちゃうなんてっ!私、超ドキドキしちゃったよ!」
そう伝えてくれる子は髪が長く、風に揺れていて頬を僅に赤く染めている。どうやらあの時の試合を思い出しているのだろう。可愛いと思う、背丈も低めで華奢な身体だが欲しいところは肉付きがいい。
下から見上げる仕草は守ってあげたくなる儚さがある。
だからきっとこの子は、自分が可愛いことを知っているんだ。
「いい匂いさせてて、風紀委員の仕事をしている時も格好良いし。最近本当に我妻くん素敵だなって思ってて」
…この子も最初は先生狙いで見に来たに違いない。最近先生の側でよく姿を見ていたから。
だからこそ先生に勝ったからって、簡単に俺に鞍替えして呼び出すなんて…。
「だから…我妻くん、私と付き合って欲しいの」
…先生には絶対似合わないよ、君は。
隣を歩かせる強い人がいいなら、もっと別の人がいいだろう。
低能な力ばかりの男がね。
「ありがとう。でも君とは付き合えない」
「え?どうして?」
何故断られるのか分からないって顔をしている。当たり前だ、彼女はフラれるつもりなど微塵にもなかったのだから。俺の人と成りもお見通しだろう。
だからこそ彼女の気持ちが強く匂ってくるんだ。
ドロリとした甘ったるい、胸焼けをおこすような…嫌な匂いが。
「だって…」
君はおれ自身が好きじゃないから、と言いかけて止める。
そんな事を言っても分からないだろうから。でもどう言えば良いのか…と考える前に口から言葉が滑り落ちた。
「俺、好きな人がいるから」
そう言って、自分自身が驚いた。今、何て言った…?
「うそ、だって我妻くんそんな人…」
「いや…うん、そう。居るんだ、好きな人。この人じゃなきゃダメだから。君じゃ無理なんだ…ごめん」
そう伝えると俺は速攻踵を返してその場から立ち去った。
…息が詰まる。
かは…っとつっかえた様な空気の塊が喉から溢れた。
信じられない、どういう事なんだ。
自問自答しながら、俺は胸を掻き毟った。
逃げ込んだ先は、3年生の教室の近くにある男子トイレ。
誰もいなかったそのトイレの個室に、逃げ込むように入ると音を立ててドアを閉めた。
息が苦しい。思考がついていかない。何故?
何で俺は、竈門先生が好きなの…?
好きになんてならないハズ…。
好きになっちゃダメな人なのに。
…頭の奥で拒否する声が聞こえる。もう好きになるな、と。
でも、胸が震えるんだ。何故だろう…求めてしまうこの気持ちは。
分からない、分からないけど。
ずっとずっと想っていた気もする。
「やだ、俺は炭治郎なんか…」
視界が霞んで初めて涙が流れている事に気付いた。
「好きになったら、苦しませるだけなのに…」
頭の中で誰かがそう言っている。
そう言ってるから、そうなんだって思ってる。
だから。
もう、俺の思考回路を狂わせるのは止めてくれ…――
そう願うしか他になかった。
[続く?終わり?]
2020-10-11 00:06
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