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午後6時


「…頑張りたいって思うことは、間違いなのかな」



思わず漏れた言葉は本音。

きっと弱気になっているのだ、自分は。
演奏に対する批判や、自らの人格についての陰口には慣れていたつもりだったのだけれど、何故だかぽろっとこぼれてしまった。

確かに自分のしていることは破天荒だろう。
今まで音楽に深く関わったことなど無かった自分には何もかも分からないことだらけで、でもそれを理由にしてはならないと自分なりに精一杯練習をしてきたつもりだ これでも。


そう、自分には努力することしかできない。
けれどそれまで否定されるのは…やるせない。



先程から空はどんより暗く、力を増す雨が練習室の窓を強く打ち付けていた。
きっとこんな天気だから精神的に参ってしまったのだろう。

先程ふいに質問を投げ掛けた相手は何も言わずじっと此方を見ていた。それもそうだ。
演奏が終わった直後に突然意味の分からない質問を投げ掛けられれば、誰だって彼と同じ反応をするだろうから。

「ごめん、何でもないの」

笑うことは簡単。
装うのは簡単。
弱さなんて、いらない。




「…そんな事はない、絶対に。」

暫く間をおかれて発っせられた声は酷く胸に響き。
それはありふれた言葉の羅列を超越し不可侵な領域にまで辿り着くと、強張った心を溶かしていく。
太陽みたいに。

「頑張ろう」

きっと彼には何もかも分かっているのだろう。
その上で頑張ろうと言ってくれた。頑張れ、ではなく。

優しい肯定。

「…ありがとう、月森くん」

これからも自分に対する批判は数多とあるだろうけれど、今なら頑張れそうな気がした。

そんな午後6時。
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