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零が暴走して優姫と一線越えちゃう話 2




「優姫、何かあったの?」
「えっ、な、何が?」
「だって、最近溜め息をついてばかりよ」
「………そ、そうかな…?」
「ええ、彼のほうを見ては、ね」

そう言って、沙頼はちらと横目で零を見る。
優姫は「うっ」と言葉に詰まり、瞳をうろうろとさ迷わせた。


************



きしり、とベッドが鳴る音と同時に塞がれた唇。
思わず逃れようとした体も、上から押さえつけられ身動きが出来ない。
頬に添えられていた手も荒々しく髪に差し込まれ、まるで逃げるのを許さないとばかりに優姫の動きを封じる。
なんで、どうして。何が起きたの。
思うことは一杯あるのに、どこか頭の芯が蕩けたように思考が上手くまとまらない。
どちらのものかもわからない荒い吐息に、優姫の体の熱も上がる。

「……ちょ………んんっ!?」

零、と言おうとして開いた口の隙間から、ぬらりと熱い何かが侵入し優姫はびくりと体を震わせた。
それでも構わずに零のキスは続く。

もう何が何だかわからなくて。
翻弄されるままに、優姫は舌を差し出す。
背筋からぞわり、と何かが駆け上がり本能的に瞳に涙が滲んだ。

普段の零からは考えられないこの行動。
その意味がわからないほど優姫はウブでも世間知らずではないけれど。
でも、こんな突然!しかもあの零が!
もう、さっぱり意味がわからない。
勇気を出して頑なに閉じていた瞳をそっと開けば、見たこともないほど近くに浅紫色の瞳がある。
いつもならば冷たい印象を受けるその瞳が、今は信じられない程に熱を孕んでいる。
優姫は、自分の胸の奥がジンと熱を持つのがわかった。
────愛しいと、言葉よりも雄弁に零の瞳が言っている。
その瞬間、カチリと優姫の中で何かがはまった。
ゆるりと瞳を閉じると、反射的に零の体を押し返そうとしていた腕の力を緩め、添えるように零の胸元のシャツを掴む。

それからどれほどたったのか。
始めと同じ唐突さで唇が離れた。

「……っ」
息を飲む音が聞こえる。
ぼやけた視界のなか見上げた先、零は信じられないといったように酷く顔を歪めている。
「…ぜ、ろ……?」
呼び掛ける優姫の声に零がビクリと身を引いた。
「あ、」
先程までの名残か、濡れた唇から小さな声が漏れると同時に優姫の拘束が解かれる。
そして。

「────ごめん」
顔を伏せたまま苦し気な声でそう言うと、零の指が優姫の涙を拭う。
その手をぐっと握りしめると、もう一度ごめん、と呟いて零は部屋を出て行った。



***********



あれからもう一週間。
零とは一言も話していない。
それどころか視線すら合うことがない。
あのキスはどういう意味だったの?とか聞きたいことは沢山あるのに。

「はぁ〜…」

知らず知らずまた溜め息をついていて、優姫はぱっと口元を押さえた。
心配そうに眉を寄せた沙頼に、大丈夫!大丈夫!と笑いかける。
誤魔化すのは心苦しいけれど、何となく、まだ話すべきではないような気がして。
そんな優姫の考えが伝わったのか、沙頼は「無理しないでね?」と言ったきりそれ以上何も言っては来なかった。


沙頼が自分の席に戻った後、優姫は机に突っ伏して思いを巡らせる。
零と自分は一体どんな関係なんだろう?
友達。家族。幼馴染み。
どれも間違ってはいない。
けど、友達や家族や幼馴染みは、キスなんてしないよね。
そこまで考えたところで、あの日の柔らかな唇の感触が蘇り、頬に一気に熱が集中する。


嫌、ではなかった、と思う。

突然の出来事に酷く戸惑ったものの、決して嫌だ!とは思わなかった。
それじゃあ零のことが好きなの?と聞かれれば、まだよくわからない。
今までずっと側にいた。
もしかしたら、近くにいすぎたのかもしれない。

「だって……」
───今更だよ、こんなの。

恋だとか愛だとかそんなもの、飛び抜けた場所までもう来てしまった。
そんな関係になるには、あまりに長い時間一緒に居すぎたのだ。
きっと。




ざわざわとしていた教室が静まり出すと、次の授業の講師が教室へ入ってくる。
のろのろと教科書を広げながら、零と話がしたいと思った。
何でもいい。
いつもの憎まれ口でもいいから、無性に零の声が聞きたかった。
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月夜の晩酌

*風間×千鶴







はやく、はやく。
はやく皆に追いつかなくちゃ。
千鶴はその一心で、暗闇のなか必死に足を動かしていた。
息も荒く、胸も苦しい。
気を抜いてしまえば、そのまま倒れこんでしまいそうな程疲れ果てた体を、気力を振り絞ることで叱咤する。

「……待って…!行かないで…」

 荒い呼吸の合間に絞り出した悲痛な叫びも彼らには届いていないのか。
あさぎ色の羽織は、どんどんと遠ざかっていく。
追いかけても追いかけても、距離は縮まるどころか益々広がっていった。


────どうして…?なんで追いつけないのっ……
千鶴の中に諦めに似た絶望が広がってゆく。
どさり、と音がして膝と額を激しい痛みが襲った。
どうやら転んだらしい、と気がついてけれど立ち上がることが出来ない。

限界だった。
体は鉛のように重い。

追いかけたいのに。
追いかけなくてはならないのに。
千鶴の唇がわななき、声にならない吐息が漏れる。
動かない自分の体が悔しくて、彼らの姿が遠ざかっていくのが悲しくて。
千鶴は倒れこんだまま、背を丸め泣きじゃくった。




************



「……っ…」

それは、耳を済ましていなければ聞こえない程の小さな声。
またか、と思うと同時に風間は手に持っていたお猪口を脇に置くと、音も立てずに立ち上がった。
向かう場所は簡易な仕切りの反対側。
まだ幼さの残る少女──雪村千鶴の寝床である。



『新撰組の後を追う』
そう決意した少女に手を貸してやろうと思ったのは、只の気まぐれに過ぎなかった。
確かに新撰組の人間には少なからず興味を持っていたけれど、これまでの風間ならばわざわざ自らの手を煩わすことなどなかっただろう。
ただ千鶴の手を引いて、そのまま無理矢理にでも里に連れて行けば良かった。

 けれど、ただ何となく。
その瞳と同じ真っ直ぐさで、風間を見上げた少女を面白いと思った。
嫌悪でも畏怖でもなくただ真っ直ぐに、その瞳に強い意志を宿して風間と対峙した女。
その手はやはり少しだけ震えていたけれど、女にはそのくらいの愛嬌があったほうが丁度よい。

 そうして始まった二人の旅だが、どうしても後手後手にならざるを得ず、未だに新撰組に追い付けずにいる。
風間と千鶴が進めば進む程、面白いように新撰組もまた北へ北へと北上していた。
まるで趣味の悪い鬼ごっこのような有り様である。




 一つの部屋の中を仕切る、鮮やかな装飾を施された仕切り。
一目でそこそこ高価なものと分かるその仕切りの反対側へ回りこめば、先程まで風間の思考を占めていた少女が布団にくるまって眠っている。
 流石に女に野宿をさせる訳にはいかないと、最近はこうして宿を取ることが増えた。
最初こそ千鶴は「野宿で構いません!」と意見してきたけれど、風間が「貴重な女鬼に体を壊されたら困る」と一蹴すれば、何かしら言いたそうにしていたけれど、大人しく風間の言うことを聞くようになった。
 それから数日が経ち、気づいたことがある。夜な夜な一人晩酌をしている風間の耳に届く、小さな声。
始めは寝言でも言っているのだろうと思っていたのだが、ふと気配を消して千鶴の側へ腰を下ろせば、彼女は深い眠りの中にありながら、白い頬にいくすじもの涙の跡を残していた。


────気丈な女だと思う。
まだ幾分幼さの残る少女といえど、そこはやはり京で人斬りと恐れられた新撰組と共にあった女か。
決して楽とはいえないこの旅の途中、一度足りとも風間の前で弱音を吐いたりはしなかった  まあ、ただ単に風間に心を許していないだけなのかもしれないが。
それでも、大の男ですら怯む風間のひと睨みに耐えうるのだから、やはりその根性は称賛に値するのだろう。


「……待っ……て…」

 静寂の中、少女のか細い声だけが響く。
きゅっと眉が悲しげに寄せられ、その拍子に閉じられた瞳からぽろりと滴が溢れた。
まったく。
風間は自らの指で、そっとその涙を拭った。

「いかな……で…」

迷子の子供の如く、縋るように伸ばされる千鶴の指を出来るだけ柔らかく握ってやれば、自分のものではない体温に安心したのか、硬く強張っていた表情がゆるゆると弛んでゆく。
 穏やかな吐息が聞こえ始める頃には、頬を濡らす涙はすっかり乾いていた。

「……やれやれ」

千鶴を起こしてしまわぬよう、抑えた声音で風間が呟く。
泣くのならば、この胸くらい貸してやるというのに。
その辺の女ならば別だが、千鶴にならばこの着物を涙で濡らされたところで怒りはしないだろう。
それくらいには千鶴を気に入っている。

 握った手はそのままに、空いたほうの手で千鶴の乱れた前髪をすいてやる。
ん、と微かに身動ぎしたが起きる気配はない。
このまま手に納まる華奢な指を離し、酌の続きに戻っても良かったのだが、どうにもこの温もりを手離すのも惜しい気がして。

「……まあ、これもこれで一興か」

誰に言うでもなく呟くと、風間は口元だけでふっ、と笑った。
もしこの場に天霧がいたならば「貴方がそんなことをするなんて珍しい」と苦笑をこぼすのだろうが、情報収集のため北へ走らせている今ならば、その心配もない。



とある宿の一室。
開かれた窓から射し込む月光が、二人の男女の影を浮かび上がらせる。
ぐっすりと眠るあどけない少女の傍らに腰かける、月明かりと同じ色の髪を持つ美しい男。
その造形のはっきりとした、どこか冷たささえ感じられる表情とは裏腹に、その緋色の瞳は暗闇の中の灯火のように暖かい。
遠慮がちに繋がれた指先は、それでも決して離れることなく、空が白み始め少女が目を覚ます時まで離れることはなかった。
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愛の発展段階





「あーーっ!たく!!ジョニーはこんな時に何やってやがる!!」
「ま、まあまあ樫野…」


 まだ殺風景な店内に響き渡る、この場に似合わないドスの効いた声。
怒り心頭といった様子で握り拳をつくる樫野を、どうどうといちごが宥める。


「どうすれば客が来るのかアイディア出ししようぜ☆、とか突然言い出して朝っぱらから呼び出した奴が、集合時間になっても来ねぇとは一体どういうことだっ!?」
「れ、レモンちゃんも急用が入って遅れるって連絡が来たし、もしかしたらジョニーも何か用事が入って遅れるのか…も」
「だったら普通連絡くらい入れるだろーが!!」

 少しジョニーをフォローしてあげようとしたけれど、先ほどよりも眼光の鋭い樫野にジロリと睨まれて、いちごの口からは「あははは」と乾いた笑い声が漏れる。


この状態の樫野に何を言っても無駄なことは、経験上良く知っている。
いちごは苦笑をこぼしながら、樫野の正面に周りこむとその顔を見上げてにこりと微笑みかけた。

「……なんだよ?」
「ん?なんでもないよ?」

 えへへと、首を傾げながらもそのまま樫野の瞳を覗きこめば、眉間に深く刻みこまれていた皺が段々とほどかれていく。
とどめとばかりに眉間をつつけば、皺は完全になくなり微苦笑を浮かべた樫野と視線がぶつかった。

「ねぇ、樫野。お腹空かない?いまのうちに何か食べに行こうよ」

 樫野の腕に、するりと自らの腕を巻き付け微笑みかければ、「…そうだな」と珍しく樫野も同意してくれた。


 二人きりのとき、こんな風に樫野に触れることが多くなった。
そっと手を繋いだり、寄り添ってみたり、囁くように会話してみたり。
それは少し恥ずかしさを誘うものでもあったけれど、それ以上にじんわりと、いちごの胸を暖かくしてくれる。

樫野もまた、以前より大分柔らかな表情でいちごに接してくれるようになった。
いつもの仏頂面だけじゃなく、優しい笑顔を見る機会も増えた。
たまに見せる樫野らしくない弱気な瞳も、甘えるように控えめに擦り寄る動作も、何もかもがいちごの心を満たしていく。



「何食べよっかな〜?さつまいもと林檎のケーキにチョコレートムース……。あ、でも期間限定のモンブランも捨てがたいし〜……」

想像するだけで顔が綻び、いちごはふふふと嬉しそうに笑う。

「またお前は朝から……。太るぞ?」

 にやりと口角を上げて意地悪く笑う樫野に、いちごは「そんなことないもん!」と頬を膨らませ食ってかかる。
中等部の頃と対して変わらない言い争い。
けれどすぐに顔を見合わせてどちらからともなく笑い出すのは、あの頃には無かった感覚。


「よし、行くか」
「うん!」

一歩前を歩く樫野の隣に並ぶと、こつんと手が触れあった。
そのまま指を伸ばせば、樫野の指に絡め取られて強く握られる。
緩む頬を見られぬように少し顔を伏せながら、いちごはこれから回る店の順番を頭に思い浮かべまた微笑んだ。



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