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カフェテリア



あ、土浦っ!奇遇だね。
―ん?僕?
僕はお昼を買いにね
土浦も今からお昼だろ?
…だったらさ、一緒に食べない?

うんありがとう!
じゃあ、カフェテリアにでも行こうか。


◇◇◇◇


うわー土浦のお弁当美味しそう♪
誰が作ったの?
―えっ!?
こ、これ土浦が作ったのっ!?
えぇっ!凄いな土浦〜天才だよ!

…照れない照れない
あははは。冗談だよ冗談。
―本気で怒るなってば

……え?香穂さん?
ん〜基本的に毎日一緒に食べてるよ。
けど今日は香穂さんお昼休みに用事があるから、一緒に食べられないって。
……本当に残念だよ…

―大袈裟だなんてっ!
……酷いなあ。本当だよ。
僕にとって香穂さんは、天使なんだ。
…この世に舞い降りた女神、と言ってもいいくらいだよ。…彼女がいるから今の僕がいるんだ。
だからこそ、彼女と過ごす時間はどんなに短い時間でも大切にしたいよ。

―えぇー!…土浦ならわかってくれると思ってたんだけどなー、僕。

へ?
だって君も香穂さんのこと好きでしょ?

って、うわっ!
汚いなあ土浦っ!!!
…もう、何吹き出してるのさ。
 ほら、ハンカチ。

―ああ、いいよいいよ。
気にしないで。

……ん?あ、ごめん。
 電話が来たみたいだ。
出てもいい?
うん、ごめんね。


―もしもし。
あ、…香穂さんっ!?
用事は?
もう終わったの?
うん、うん、…本当にっ!?
―やったあ!凄く嬉しいよ。
…大袈裟だなんて、そんなことないよ!
香穂さんとお昼を食べられないだけで、僕の心は奈落の底に落ちたように暗く沈んでいたんだから!
―うん、じゃあ今から行くねっ!
待っててvv


ごめんね、土浦!
僕、今すぐ香穂さんの所に行かなきゃならないんだ。
僕からお昼に誘ったのに…本当に申し訳ないよ…。

うん、ありがとう!
土浦〜っ!!!!

―っいててて!
ちょ、土浦苦しいよ、首絞まってるってば!
…ごほごほっ。

―な、何って、感謝の抱擁だよ。
…き、気持ち悪いって……冗談通じないヤツだな〜土浦は。

え?そう?
って、こんなことしてる場合じゃなかった!
 じゃあね土浦。
またいつかお昼付き合ってよ!

またね!



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音楽バカ



夕暮れの屋上に二人分の影が落ちる。
遠くから様々な音色と、部活動生の活気ある声が響いていた。

「…どうして君は…!」


目の前に佇む加地はいつものような爽やかな笑顔ではなく。
彼に似つかわしくない鋭い目付きで此方を睨む。


加地の言いたいことは分かる。
何故、香穂子を置いていけるのかということだろう。
しかし、それが俺が出した答えであり、今更留学を取り止める気など毛頭なかった。


「………すまない」

他に何も言えず、俺は瞳を伏せた。
 香穂子を愛している気持ちに変わりない。
しかし俺は夢を諦めることは出来ない。
音楽こそが、俺と香穂子を結びつけたのだから。


重苦しい雰囲気の中、加地がふと口元を緩めた。

「…月森らしいね。」

「…………………」

「わかってる。僕が口を出す問題じゃない。」

「……加地…」

「…音楽バカの月森だからこそ、日野さんは好きになったんだろうし、ね…」


加地は遠くを見て薄く笑った。
俺はやはり何も言えず押し黙る。



いつもなら優しい気持ちにさせるこの夕日も、今日はどこまでも胸に痛い。
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指先

*加日


「日野さん、今日一緒に帰らない?」



そう言えば、嬉しそうに笑顔で頷いてくれるのを知っている。
二人きりの帰り道、今日の出来事を嬉しそうに話す香穂子に加地もまた笑顔で答え、柔らかい時間が流れていく。


まだ付き合っている訳ではないのだけれど、こんな風に共に帰宅することは二人の日課になりつつあった。

楽しげに会話を続けながらこれは期待してもいいのだろうか、と加地は少しだけ瞳を輝かせる。
勿論加地は香穂子に好意を寄せており、何か取り急ぎの用事がある日以外は、香穂子を下校に誘っている。香穂子もまた笑顔でそれに応じてくれる為、嫌われてはいないようだと胸を安堵させていたのだけれど。


こう毎日誘っていれば、流石に自分の気持ちには気づかれているんじゃないだろうか。
それはそれで好都合なのだけれど、早く香穂子の気持ちが知りたくて。


ちらりと隣に視線をやればぱちりと合った瞳。


「加地くん?」

丸い瞳を瞬かせ、首を傾げる香穂子。
さらりと流れる髪から一瞬甘い香りが漂って来て、のぼせそうになるのを理性で押し留める。




「あのさ…………手、繋ぎたいな。日野さんと」



言葉にすれば気恥ずかしくなって体温が急激に上昇していくのが分かる。
けれどいつもの笑みは絶やさぬよう注意して。






「…………………うん」


耳を澄ましていなければ聞き取れない程の小さな声が届いて香穂子を見れば、真っ赤に染まった頬を隠すように俯いている。

それがとても可愛らしくて くすぐったくて。
細い指に自らの指を絡ませ、思わずふふふ と微笑みが漏れる。



「可愛いね、日野さん」

「そっ!そんなこと!!」

「ううん、凄く可愛い」


慌てて否定する香穂子に有無を言わせぬように言葉を被せて言い切れば、耳まで赤くして再び俯く。

けれどその手は離されることなく加地が少しだけ強く握れば、香穂子もまたやんわりと握り返す。


そのことに言い切れない幸せを感じながら、ゆっくりと二人分の影が夕闇の通学路に消えていった。
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愚行

*柚日


「馬鹿だろうお前は」

胸を焼く憤りをそのまま言葉に乗せ吐き捨てる。
どうして『頑張る』なんて言えるのか。
柚木にはわからなかった。

「今さらお前が何をしたって同じだ。何も変わらない。お前の行動には何の意味もないんだよ」


言い聞かせるように冷たく言い放つが、香穂子は何も言わずまっすぐに柚木を見つめ返す。


それが更に柚木の癪に触る。
いつもそうだ。
この真っ直ぐな瞳を見ていると自分が酷く弱く脆弱な存在に思えて、虚しさがこの心を支配する。

辺りをしんとした静寂が包み込んでけれど次の瞬間には ふわっ、と柔らかなマシマロのような笑みを香穂子が浮かべた。


「そんなことないですよ?」

どんなに糾弾をぶつけようと、倒れることなどない華奢な身体。
それが酷く眩しくて、思わず柚木は目を細めた。


「私、頑張ってみたいんです。無駄なことなんて何一つない筈だから。」


きらりと輝く笑顔を向ける香穂子から視線を剥がすことが出来ず、必然的に見つめ合う。

ああ、だから自分はこの女が嫌いなんだ。
虚勢を張って、繕い続ける自分をやすやすと飛び越え先へ先へ、進んでいってしまいそうだから。



…置いていかれそうだから。




「頑張れば頑張るだけ、可能性は増えていくんです、きっと。」


「…本当に馬鹿だよ、お前。」

辛うじて発した反論も香穂子の笑みに飲み込まれて。




「はい、馬鹿です。」



柚木から視線を剥がさず、未だに柔らかく笑む香穂子。


きっと自分は彼女が羨ましくて堪らないのだろう。
ある意味自由奔放な生き方は今の柚木には到底真似することなど出来ないもの。



だからなのだろうか。



こんなにも彼女が気になって仕方ない。
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夕暮れ

*月日設定の土浦・加地



「大丈夫か、お前」

ふいに頭を叩かれて振り返れば。

「よっ」

片手を挙げ笑う土浦。
その笑顔にどこか複雑な表情が混ざっているのはきっと見間違いなんかじゃない。

「土浦こそ」

そう言って笑ってみたけれど、多分自分も先程の土浦のような顔をしているに違いない。

「まぁ、俺はな…」

苦笑して けれどそれ以上の言葉を紡ぐことなく、土浦は加地の隣に来ると同じように手すりに腕をかけ眼下を見下ろした。


普段なら意外に人が多い屋上も、この時間帯だけはしんと静まり返る。
柔らかな風が二人の髪を揺らした。

町中が夕陽に包まれ、少しだけ優しい光が目に染みる。




「…かっさらわれちまったなぁ、月森のやつにさ」


長い沈黙を破るように口を開いた土浦は、やんわりと笑っていた。

「うん」

加地もまた笑みを浮かべ返す。




それは分かっていた結末だった。

気づいていないのはきっと本人達だけだろうと思うほどに、二人ともお互いを意識していることは明らかだったから。


それでも今まで想いを諦められなかったのは、こんなにも彼女が好きで



好きで、好きで、たまらなかったから。





「ねぇ、土浦」
「何だ」



こんなこと言ったってどうしようもないことだけど。


「僕は本当に、本当に日野さんの事が好きだったんだ」


噛み締めるように吐き出した言葉は、あっさりと風に流され消える。

けれど。



「…俺も、だな」




再び訪れた沈黙。
二人眺めた景色は酷く切ないものだけれど。





この刺すような胸の痛みはきっと、僕らだけのもの。


夕暮れ
(立ち並んだ影二つ)
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