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「休めてよかった。焦り過ぎてたのかもな」

隆也のつぶやきを聞いて、シュンはまじまじと相手を見た。

「なに?」

隆也が視線に反応する。

「あ、いや。そういうこと言うんだね」
「そういうこと?」
「焦ってた、とか。なんかそういうこと、あんまり言わなかったじゃない」
「そうか?」

兄の隆也は心底、意外そうな顔をしてシュンを見返す。

けれど、その反応こそ、シュンにとっては意外で、つい苦笑いした。

「言わなかったよ、そういうこと、ずっと」

シュンがよく見てきたシニアの頃の兄は、唇を固く結んで、なにかを睨みつけるような目で、いつも前ばかり見ていた。

そしてその兄の視線の先に誰がいたのか、昨日、わくわかった。

「ヤバイとか、無理だとか、結構、オレ、言ってるぞ? この間だって、うちのピッチャーの三橋に、試合中なのに弱音吐きそうになって…」

隆也はさっきの話を続けている。

「言わなかったよ。少なくとも中学の頃は」
「中学? あー…」

隆也がシュンの顔を見た。

「そりゃ、シニアんときは言える相手もいなかったからな。うん、あれはキツかった。…そう考えたら、いまのチームではオレ、だいぶ安心できるようになったのかもな。無理してるって、感知できるだけ、心に余裕があるのかも」
「中学の時は、心に余裕がなかったの?」
「だってよ、榛名みたいな暴君相手にしてたら、ゆとりなんてありえねえよ」
「暴君…? あんまりそうは見えなかったけど」

隆也が黙った。
そうして少し考えるような顔。

「あの人も変わった」

ゆっくり、隆也が言葉にする。

「オレもあの人も、変わった。高校に入って。オレがいまのチーム、いまのピッチャーに出会って、少しづつ自分以外のことが見えるようになったと思う。…あの人も、高校でいい出会いをしたんだろうな。オレとあの人じゃ、お互いの首を絞めあってるだけだったって、いまは思う」
「……でも、昨日、仲良かったじゃない」
「あ?」
「昨日、榛名さんと。スゲー仲良さそうで驚いた」
「そう?」

コクンとシュンがうなづく。

隆也の顔が渋いものになった。

「良くねえし。そりゃ、久しぶりに会ったし、助けてももらったけど。まあ、普通? 普通に話せただけ良かったっていうか」