間が開いてしまいました(><)

******
「そうそう。君、榛名元希君だろ。シニアでウチのと組んでた」

フルネームで呼ばれて、元希はペコリとお辞儀をするしかない。

「お邪魔してます…」
「またデッカくなったなー。なに? いま、武蔵野第一だって?」

なんでやたらと詳しいんだろう。
そう思いながらもうなずく。

「武蔵野強くなったよねー。君の力なんじゃないの?」

隆也の父は始終、ニコニコしている。
シニアの時、自分の態度が悪かったことをこの人は覚えてないのだろうか。

いや、そんなこともないだろうけど。

「あら、お父さん、お帰りなさい」

隆也の母が、元希の母との電話が終わったのか、リビングから出てきた。

「おう、お母さん。今日はめずらしいお客さんが来てるね」
「そうなのよ。隆也がランニング中に具合を悪くして、榛名君が送ってきてくれたの」
「タカが?」

さすがに父親の顔が曇る。

「うん。貧血みたいらしいけど、いまは自分の部屋で寝てるわ。帰ってきたときは、まあまあ落ち着いた感じだったからよかったけど」
「あいつ、なんでそんなもん起こしてんだ」

父親が太い声で言う。
どちらかというと、憤慨している声だ。
なにをやってるんだ。体調管理もできなのか、といった雰囲気。
心配はしているのだろうが、やはり、甘い父親というよりは、厳しめの監督のような感じがする。
弟のシュンも、父の言いそうなことはわかっているのか、ちょっと困った顔をしながら床に視線を向けた。

(やっぱ、この親父さんこええ)

元希は父親がなにも変わってないことを知る。

すると、父親が自分の方を向いたので、慌てていま考えたことを払った。

「ずいぶんお世話になったんだね。ありがとうね。母さん、よかったら榛名君に夕飯くらい食べていってもらいなさい」
「あ、いや、あの」

元希が曖昧な声をだすと、母親の方が元希の顔を見る。

「どうする? 榛名君のお母さんは、どちらでもいいですって言ってくださってるんだけど」
「あー…、そうですか」
「じゃあ、食べていきなさい!」

父親が大きな声で言った。

「え? あの」
「食べたらすぐに送ってあげるから。うちの車でよかったらだけど」
「あ、いや。帰るとしても、バスで駅前に出られるって聞いてますから」
「え−、そうなの? 遠慮しなくていいんだよ?」
「いや、ホント、大丈夫ですから」

本心、この親父さんと二人っきりで車とか勘弁してほしい。

「だったら、僕がバス停まで一緒に行きますから」

横からシュンが口を出した。
シュンはシュンで、武蔵野のエースと関わりを持ってみたいのだ。

「ああ、そっか。じゃあ、オネガイしたい」
「はい!」

ホッとした表情の元希にシュンは元気よく頷いた。

「よし。じゃあ、うちで食べていきなさい」

そのやりとりを聞いて、隆也父は満足そうに笑うと靴を脱いだ。
全員がリビングに向かって移動をする。

「いやあ、せっかくだからもう少し話もしたいしね。それに今日は、気になる野球中継もあるから一緒に観ようよ。母さん、今晩のメニューはなあに?」

すっかり父のペースで全てが動きだす。

リビングのダイニングテーブルにシュンと並んで着席した元希は部屋の中をぐるりと眺める。

隆也は父親にそっくりだと思ったが、こうしているとまたちょっと違う気がしてきた。
声の質や、強引なところは似ているが、強引さの種類が違うと思う。
隆也が強引になるときは、生真面目に信じたものを、よかれと思ってやりすぎる時だ。
こういう人懐っこい強引さではない。

(生真面目なところは逆に母親似なのかな?)

元希は初めてゆっくり知る阿部家の様子に、そんなことを考えるのだった。